第八話:人為創生物《シンセティカル》達との再会

 暫くみんなの思い出話を色々と聞かせてもらった後、俺達は一度、俺の仲間が休んでいる部屋に戻る事にした。

 四霊神の三人も一緒に行くという事で、俺は彼等の後に続く。

 アーシェはアシェの姿に戻って俺の首に巻き付き、少し眠そうな仕草をした。

 やっぱり元の姿に戻るってのは、それなりに力が要るって事なんだろう。


 玉座の間からのポータルを潜ると、そこにはついこの間見たばかりの、だけど懐かしさを感じさせる顔があった。


「カルディア! セラフィ! それに、えっと……」


 そこにいたのは、落ち着いた私服姿のカルディアとセラフィ。そしてミコラの偽物だったんだけど……あいつをどう呼べばいいんだ?

 幻影に掛かってはいないから、あいつもカルディア達同様に精巧ながら、人為創生物シンセティカルらしさをはっきりと見せている。

 服装なんかはミコラと同じ物とはいえ、それでも見間違いようはないんだけど……。


 俺が露骨に戸惑って見せると、


『ったくよー。そんなに困られるとこっちが気まずいじゃねえか。キャムにちゃんと「ミケラ」って名前を貰ったから、安心しとけって』


 なんて、ミケラと名乗った彼女は、ミコラと変わらない声で、両腕を組んで少し不貞腐れた態度を見せた。

 外見を除けばまんまミコラ。

 あまりの違和感のなさに、俺は自然と笑みを浮かべてしまう。


「悪い。今度から気をつけるよ、ミケラ」

『へへっ。それでいいぜ』


 すぐさまにかっと笑う辺りもまんま同じ。

 ほんと、不思議な感じだな。


『カズトよ。マスターを救ってくれた事、感謝する』

『しかも、私達まで蘇らせてほしいと願ってくださったとか』

「いいんだよ。お前達が手を貸してくれたからできただけ。それで水に流してくれ」

 

 丁寧に頭を下げる二人。

 こっちも以前のような闇を感じる事はないし、どこか穏やか。

 それに内心安堵しながら、俺はキャムに顔を向けた。


「キャム。いつの間に三人を復活させたんだ?」

『あなたに言われてすぐだよ。リーファにお願いして、別室の創生の部屋で準備してもらったの』


 あの時、俺達と普通に会話をしてた裏で、そんな事をしてたのか。

 ……って、そういや当たり前になりすぎてて、すっかり忘れてた。


「そういや、何でキャムはリーファの力を借りれたんだ? 宝神具アーティファクトって、勇者か魔王、あとはそれに近しい試練を突破した奴にしか資格はないはずだよな? ワースのようにキャムが宝神具アーティファクトって事もなさそうだけど……」


 そう。

 以前、解放の宝神具アーティファクトを手にする為にディアの元を訪れた時、彼女はそんな話をしていたはず。

 だけど、普通にキャムはリーファの力を借りていたのが気になったんだ。


 その質問に、キャムは『あー』なんて言いつつ、手をぽんっと叩く。


『あれはね。リーファが優しいから』

「へ? 優しいから?」

『うん。私が哀しみに暮れてたのに同情してくれたの。多分、宝神具アーティファクトの中でも最も人間味があって優しいんじゃないかな? ワースと違って』

『いちいち嫌味を言うでないわ。リーファが宝神具アーティファクトとして例外なだけじゃ』


 相変わらず、さらりと掛け合いを見せるこの二人は、本当に見てて面白いな。


 でも、宝神具アーティファクトは人間味がある、か。

 確かに、ギアノスもそんな一面を持っていたし、ワースなんかはまんま人の反応だもんな。

 人の魂から産まれたんであれば、色々な奴がいるって事なのかもしれない。


「ちなみに、俺がリーファの力を借りれたのも、あいつの同情だったのか?」

『いいえ』


 俺がそのまま質問を続けると、そこにいないはずの女性の声が聞こえた。

 勿論、その声は聞き覚えがある。リーファだ。


『確かに、あなたやワース、ディアのキャムを助けたい想いも強く感じました。ですが、同時にこの塔の試練をあなたは無事乗り越えました。ですからその資格もあったのです』

「え? いや、だけどあれは俺だけの力じゃなかっただろ?」


 思わずそう問い返すと、リーファは優しそうな声で、こう語りかけてくる。


『仲間との絆で乗り越えた。それは事実です。ですが、あなたの機転がなければ、この塔の試練を乗り越えられなかったのも事実。だからこそ、私はあなたを認めたのです』


 機転、か。

 俺としては、どんなに機転を利かせても、結局仲間がそれをしっかり活かしてくれたからこそ、試練を乗り切ったと思ってるけど。

 まあ、リーファが判断して認めてくれたんだもんな。


「そうか。俺を認め、力を貸してくれてありがとう、リーファ」


 俺はそう素直に感謝を口にしたんだ。


『カルディア。セラフィ』

『はい』

『何でしょう』


 と。会話が落ち着くのを待っていたディアが、二人に声を掛けると、二人は俺と話すのとはまた別の、畏まった返事をする。


『カズトから伺いましたが、貴方達がムサシと逢ったというのは、まことですか?』

『……はい。ミルダと呼ばれし王女を拐うため塔を出た際に、「光導きし者、カズトに助けを乞え」と助言を受けまして』


 ディアの静かな問いかけに、カルディアが代表して答える。


『彼は……元気でしたか?』

『はい。昔と変わらず淡々としておりましたが、お元気そうでございました』

『そうですか』


 彼の言葉を聞き、ディアはほっとしたのか。小さく微笑む。

 けど、その表情は次のセラフィの言葉を聞いた瞬間、驚きへと変わる。


『ムサシ様より、ディア様にご伝言がございます』

『伝言、ですか?』

『はい。「事が済めば顔を出す。それまで、達者で暮らせ」との事です』

『事が済めば……』


 その言葉に、彼女は少し神妙な顔付きになる。

 勿論俺もその言葉が気になった。


 ムサシはずっと彼女の元に戻っていないんだろ?

 何が起きてるかは分からないけど、事が済めば戻れるって事は、彼は四霊神同士が同時に狙われるからってだけじゃなく、ずっと何かを背負い、ディア達を危険に晒さぬよう離れて暮らしてるんだろうか?


 ……まあ、色々と疑問は残るけど、今考えても答えが分かるわけじゃないか。


彼奴あやつめ。一人で何か抱え込んでおるのか』

『そうみたいだね。今なら連絡をくれれば、私達やカズトだって力になれるのに』

『……あの方らしいですよ。まずは朗報を待ち、気長に待つ事に致します』


 ワースやキャムの愚痴にも、ディアは彼女らしく落ち着いてそう言葉を返したけど……この人が笑みを絶やさないなんて初めて見た。

 彼が無事で、しかも伝言まで残していたのが、よっぽど嬉しかったんだろうな。


 そんなディアが珍しかったのか。

 ワースとキャムも自然と顔を見合わせると、少し嬉しそうに微笑む。

 それに釣られるように、俺も笑って見せたんだ。

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