第七話:仲間

「ありがとう。そして、話が逸れてごめん」

『いえ』


 俺が軽く頭を下げると、ディアは微笑んだまま短くそう返してくれた。


「悪いんだけど、ムサシって人の事で、もう少しだけ確認したい事があるんだ。キャム」

『どうしたの?』

「あのさ。カルディアとセラフィって、元の記憶は残ってるんだよな?」

『うん』

「目覚めたらでいい。二人が今回の件で、ムサシと会ったかを確認してもらっていいか?」

『え?』

『なぬっ!?』


 俺の頼みに、キャムとワースは驚きの声をあげ、ディアもまた少し驚いた表情を見せる。


『どういう事じゃ?』

「これはあくまで推測なんだけど。二人は俺を『光導きし者』って呼んできたんだ。でも、それより少し前に、二人と関係性がまったくない、ある人の師匠もまた、俺の事を同じ呼び名で呼び、予言を書き残してたんだ。だから俺は、この二つにはムサシって人が関係してて、その人は予言をできるような力を持っているんじゃないかって思ってて。その裏付けが欲しいんだ」


 実の所、俺はこれこそが核心なんじゃないかって思っている。


 カルディアとセラフィ。

 ヴァルクさんの師匠。

 俺はそれぞれから『光導きし者』なんて呼ばれた。


 ここから答えを導き出すと、ヴァルクさんの師匠がムサシって人で、その人がカルディアとセラフィに助言したって考えるのが一番しっくりくるんだよ。


 実際、露骨に日本人の名前だし、阿修羅なんて言葉を知っているくらいだし。

 となれば、この推測は外さないと踏んだんだ。


 流石に白昼夢でキャムを救えるのは俺だけだって言った人物まで、同一かどうかは分からない。

 けど、これもその人の予言だってなら、辻褄も合う気がするしさ。


 キャムが少し戸惑いながら、アーシェに視線を投げかける。

 多分、ある程度当たっているからこそ、どこまで話し、動いていいかを確認したいんだろう。

 アーシェは、そんなキャムの反応を見て、ため息をひとつく。


『キャム。それくらいなら構わないわ。もし本当なら、ついでに二人からディアにあいつがどんな様子だったかも話してあげるよう伝えて。それを聞けば、ディアも少しは安心するんじゃない?』

『……そうですね』


 予想外の事に、流石に目をみはっていたディアも、もしかしたらという気持ちが芽生えたのか。嬉しさが込み上げた笑みに変わり、釣られてワースやキャムも笑顔に変わる。


『うん。わかった。楽しみにしててね』

『キャムよ。まだムサシが関係したと決まったわけではあるまい』

『ほんと、ワースって現実主義だよねー。少しは夢とか希望とか持たないと。カズトみたいにモテないよ?』

「おいおい。俺はモテてなんていないって」

『ふん。どうせ相変わらず女を泣かせとるんじゃろ? ギアノスから聞いておるぞ』

「はっ!? あいつそんな事まで話したのかよ!?」

彼奴あやつに心を読ませたのが運の尽きじゃ』


 ニヤリと笑ったワースに、俺は思わず情けなさにため息をく。

 ったく。たった試練一回の話をそこまでされてるとか。

 俺はおもちゃかよ。

 ……まあ、それでみんなが笑顔ならいいけどさ。


 そんな気持ちでいると、アーシェが少しだけ真剣な顔つきになる。


『カズト。四霊神であるムサシや彼が持つ力。そしてどんな宝神具アーティファクトを護っているかは話せない。まあ、あいつは自分の事を誰かから話されるのを嫌うタイプなのもあるけど。前に話した通り、この世界のことわりは守らないといけないから』


 こういう所は本当に神様としてしっかりしてるな。

 俺は内心感心しながら、そんな表情を解すべく、こう答えてやった。


「ああ。それでいいさ。俺も、折角謎解きしてるのに、いきなりお前からネタバレ食らったら、流石につまらないしな」

『ふん。本当は知りたくってウズウズしてるくせに』

「そりゃな。まあでも、偉大なる絆の女神様のおっしゃる事だし、怒らせて恩恵にあずかれないのも困るしさ。そこまでしてくれりゃ、後は自力で頑張るさ」


 互いに皮肉混じりの台詞を交わしながら、俺はアーシェと笑い合う。

 そう、俺はお前を困らせたいわけじゃないし、ここまで教えてもらえれば十分さ。


「さて。あとは最後の頼みなんだけど。みんな。悪いけどもう少しだけ、時間を貰ってもいいか?」

『儂は構わんぞ』

『はい。大丈夫です』

『私もいいよ』

『どうせ私も暇だから。構わないわよ』

「ありがとう」


 四人から承諾を得た俺は、少し緊張しながらこう願い出た。


「あのさ。その……親父達が生前どんな人だったのか、教えてくれないか?」

『カズヒトとアイリスの事をですか?』

「ああ。四人は二人を知ってるだろ。でも、俺は生まれてこの方二人の事を知らなかったからさ。だから、少しでも両親を知れたらなって」


 俺は少し切ない気持ちになりつつも、笑みを浮かべ誤魔化す。


 今更知ったって、親父とお袋と一緒にいられるわけじゃないし、ミコラやルッテ、フィリーネのように、家族と話す機会も早々ないだろうし。


 ただ、いにしえの勇者と聖女の血を引いているって言うなら、せめてどんな人だったのか、知っておきたかったんだ。


 四人は一度、互いの顔を見合わせる。


『アーシェ。その程度は、構いませんよね?』

『そうね。折角だし、いにしえの勇者と聖女がこの世界にやって来た時の話からしましょっか』

『そうだね。私も二人から話でしか聞いてないし、アーシェなら色々知ってるんでしょ?』

『勿論よ。今考えたら、二人とも世界を救う存在になるなんて思えなかったけど』

『確かにのう』


 四人は親父達を思い出しながら、楽しげな笑みを見せると、女神や四霊神なんて偉大さを感じさせず、親父とお袋との過去を話してくれた。


 最初は世界に戸惑い、臆病さばかり見せていた二人。

 だけど、アーシェに導かれながら、二人は仲間達と出会い、少しずつ世界に慣れていく。

 そんな中、魔王が現れて、アーシェの願いを叶えるべくみんなで立ち上がった彼等の英雄譚。

 そこに、みんなが経験した多くの思い出話を交え、時に懐かしそうに、時に楽しげに話す四人。


 そんなみんなが語ってくれた、親父とお袋の、優しさと強さを胸に刻みつつ、同時に俺は感じていた。

 親父達も、本当に素敵な仲間と出逢い、世界を救ったんだって事を。

 そして、あの二人の子で良かった。そんな気持ちを。

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