第十三話:強くなりし仲間
キャムとルッテの叫び。
そして、
激しき闇の波動。それは光と共に現れた白龍姿のディアの生み出した障壁に防がれる。
っていうか、ルッテが何で
あいつが以前使えたのは、覚醒の加護を与えていたからだ。だけど今は違う。あいつには魔力の加護を与えているだけ。
「ルッテ!?」
「ふん。強くなろうとしたのは、お主だけではないぞ」
何処か自慢げな、ルッテの返事が耳に届いた。
「お主が武芸者として強くなると決意した日。我も決めたのじゃ。お主や
口にされた、俺や皆と共に歩み続けようとする決意。
それを聞き、俺の心にある熱が昂まる。
そうだよな。
試練の時のミコラもそうだったけど。皆は俺と共に旅をし、危険に挑むため。
強くなろうとしてくれたんだ。
頑張ろうとしてくれたんだ。
そんな俺の気持ちに応えるように、ふっと俺の身体を青白いオーラが覆うと、
「ルッテに負けるのは癪ね。じゃ、こういう所も見せておくべきかしら?」
これは、聖術、生命回復……って、ちょっと待て。
俺は知っているはずのその術の異変に気づいた。
それは至極単純。瞬間で生命を回復するこの術の回復量が、普段の倍はあるって事だ。
しかも一度で倍じゃない。ほぼ同時に二回同じ術が掛かっている感覚……って、まさか!?
ちらりと眼下を見れば、何時の間にか美咲を背後に立たせつつ、未だに
って事は、本気であいつ、術の多重詠唱をしたってのか。
術ってのは、無詠唱だろうが同時に発動なんてできない。必ず発動にはある程度もラグが出る。けど、彼女は俺に対し、
ったく。こっちもこっちで凄いじゃないか。
『ディア! もう邪魔しないで!』
『譲りません。私やワースにまで希望を
『うるさい! 邪魔だって言ったでしょ!』
と、強い叫びと共に、ぱっとディアがいる方と反対の俺とキュリアの側面に、宙を舞う
既に振りかぶるモーション。
やばっ! これは避けられないか!?
ルッテやフィリーネの活躍に気を取られ、油断が生じていた俺は、一転して絶望を感じていたんだけど。
「まだです!」
今度はディアの方から聞こえたアンナの声にはっとしてそっちを見ると、
「ロミナ! ミコラ! 今です!」
アンナが二人を解放すると、彼女達は氷の足場に着氷した後、再び空に舞い上がる。
「カズトとキュリアは!」
「やらせねえ!」
瞬間、二人は
「迸れ!
「とっておき!
ロミナは瞬間、俺が見せた親父の奥義を、ミコラは両腕を突き出すと、闘気による飛龍を生み出し、勢いよく放つ。
『こんのおっ!』
空中で先にぶつかったのは。ロミナの放った十時の光と闇の波動。
だけど、それは競り合う事すらなく、次の瞬間、一気に闇の波動を引き裂いた。
『な、何よこれ!?』
『キャァァァァッ!』
悲鳴と共に、氷の床より遥か下に突き落とされた
部屋を揺るがす衝撃と、激突音が周囲に響いた。
ルッテやフィリーネだけじゃない。
『絆の加護』とは別に、強くなった皆の強さをそこに垣間見て、思わず笑みが溢れる。
「……ったく。流石だぜ、皆!」
仲間の示した強さに、俺の手の光がより強くなる。
ほんと、俺には頼りになる仲間がいる。
これだけの危険に共に挑んで、俺のわがままな想いにすら応えてくれる奴等がいる!
「私も、負けない!」
強い口調の、キュリアの短い一言。
それを合図に、あいつの手から放たれている光もまた一層強くなり、闇の魔方陣により強いヒビが入っていく。
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
腹の底から、俺は叫んだ。
あいつらの仲間に戻れて、共に旅に出られて良かったという感謝を力にして。
そして、想いが通じたのか。
パリーンという澄んだ音と共に、
残すは俺達とミルダ王女を隔てる、このガラスのみ!
「キュリア! 後は任せろ!」
「うん」
俺は迷わず一人ガラスの前に立つと、
最後に鍔と鞘を当てた、カチンという音。それを合図に、三角形に斬られたガラスは、そのまま内側にバタリと倒れた。
その奥に見える、倒れたままのミルダ王女。
顔色が悪いし息も荒い。だけど、まだ生きている。
「キュリア。王女を頼む。アシェはこっちに来い」
「うん」
『分かったわ』
俺の指示に従い、キュリアは王女の囚われた場所に入っていくと、生命の精霊王ラフィーを呼び出し彼女を回復し始める。
アシェも俺の目を見て何かを察したんだろう。真剣な目で頷くと、たたたっと氷の床を駆け、そのまま俺の身体をささっと駆け上がり、首に巻きついた。
よし。
これで後はキャムのみか。
俺は氷の床から下を覗き込むと、失った腕や、胴体に大きく入ったヒビを修復しようと、またも
「カズト!?」
俺は、まるで飛び込み台からプールへ飛ぶかのように、背筋を伸ばしたままふっと前に身を投げると、そのまま空中でくるくると回転し、最後は綺麗に、フィリーネ達の前の床に着地する。
暗殺術、
『もう! 絶対許さないんだから!』
完全に修復が終わる前から、立ちあがろうとする
怒りに燃えるキャムの声に釣られ、あいつだけじゃなく、塔自体の壁にもまた、闇の稲妻が強く走る。
きっと、リーファがこいつに感化され、その力を貸しているから、この塔にも闇が満ち始めたんだよな。
「リーファ。お前は何故キャムに手を貸すんだ? こいつは勇者でも魔王でもないだろ?」
俺は凛とした態度で
『私を護ってくれるキャムの、哀しみを癒すためです』
「そうか。で、お前が見たかったキャムの姿はこれか?」
『うるさい!』
中途半端に直った腕で拳を作り、あいつらしからぬ露骨に見える走りで俺に迫った
だけど、俺は動かない。
俺は仲間を信じてるから。
巨大な拳がフィリーネの
『邪魔! 邪魔よ!』
頭に血が昇り。冷静さを欠いたキャムは小細工もせず、白く光る障壁と力比べをするように、叩きつけた腕を振るわせながら、押し切ろうとする。
『……世界を滅ぼす。そんな望みを持つのなら。それで哀しみが癒えるなら。私は、四霊神であるキャムに、その力を貸し与えるだけ』
僅かな沈黙の後に口にされた言葉。
俺はそこに、リーファの隠された想いを感じ取る。
「それは答えじゃない。ちゃんと答えろ。お前が見たいのは、人々を恐怖に陥れ、狂気に満ちた笑顔で、残虐に振る舞うこいつか? それとも、
『うるさい! もうカズヒトも! アイリスも! ディアもワースも要らない! 哀しむくらいなら、一人っきりでいい!』
そんな歪んだ想いを打ち砕くかのように、上空からズバンと、凄まじい光の奔流が
そして支える腕を失い、勢いあまった奴がぐらりと前のめりになった瞬間。そこに降ってきたミコラが、巨大な闘気を纏った見事な蹴りを空中で繰り出すと、
『うざい! うざいうざいうざい!』
絶叫するキャムを他所に、俺の背後にアンナが。その両脇にミコラとロミナが何も言わずに降り立つ。
「リーファ。お前だって本当は望んでるんだろ? 優しかった頃のキャムといたいって」
『……私は……』
『リーファ! あんな奴の言葉なんか聞かないで! 私と一緒に世界を滅ぼして!』
迷いを感じさせる、歯切れ悪い言葉に、キャムがストレートな、だけどリーファが望んでない想いをぶつける。
だけど、それにもまた彼女は答えない。
……ま、分かるさ。
きっと再生の
だからこそ迷うんだ。
もう叶わない。そんな日なんて来ない。そんな気持ちで、それでもキャムの側にいてやったんだもんな。
だけど、それじゃ何も変わらない。
キャムは哀しみを忘れられなんてしない。
誰もいなくなった時、また感じるんだ。何も残らない哀しみをな。
俺は、同情を吐き捨てるように一度大きく息を吐き、呼吸を落ち着けると。俺が見せるべき未来のため、こう口にしたんだ。
「リーファ。俺に力を貸してくれ」
ってさ。
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