第十二話:無限の魔力VS強き絆
『今更仲間が増えたからって何よ! 私にはリーファがいるわ! あんた達なんかに負けない!』
ロミナ達の登場に気押されつつも、それでもキャムは
だけど、それより早く反応した奴がいた。
ミコラだ。
「やらせるかよ!
疾さで遅れを取る事なく、はっきりと打ち合う意思を見せ、彼女が
「ぶっ飛べぇぇぇぇっ!」
互いに空中で激突し、拮抗する闇の拳と闘気。だけど、強いミコラの叫びに応えた闘気が、闇を打ち祓うと、そのまま闘気を相手の右腕に叩き込む。
その威力は絶大。
ミシミシッと嫌な音がしたかと思うと、石の腕に一気に亀裂が入り、直後に粉砕された。
『な、何よこれ!?』
「やれやれ。四霊神でありながら、今や
予想外の威力に、腕を失うと同時に大きく身体を逸らす
紅蓮の炎を纏った巨体が、前屈みで勢いよく体当たりをかます。
『こ、こんなもの!』
右腕を少しずつ再生させながら、
ずりずりっと滑るゴーレムの身体から、炎で蒸発した水蒸気が煙のように上がる。
俺が以前ザイードに仕掛けた時に見せた通り、炎に優位なのは水。
しかも再生の
だけど、さっきのミコラもそうだけど、ルッテも。いや、聖勇女パーティーの皆には、既に『絆の加護』を割り当ててある。
実はさっき、あいつらが出てくる場所を予想し、先読みで攻撃強化や魔力強化など、既に様々な加護を展開しておいたんだ。
勿論こっちに来た後に、すぐさまミコラには覚醒の加護を、ルッテには魔力の加護を追加済み。
普段なら視点変更しなきゃ出来ないんだけど、今はそんな事もない。
再生の
その名が示す通りなら、確かに
だけど、同時にそれは、失った分を再生しているだけで、そいつ自身の
そうじゃなきゃ、ディアですらあいつの力を止められない。
そして、再生だけってなら、この状況は必ずしも不利とはいえない。
例えば、確かに火は水で消し止められる。
けど、火の手が強ければそれはすぐにとはいかないし、少量の水をかけ続けたって、蒸発して炎は消えずに残る。
そう。ルッテのフレイムドラゴンに、より強大でより強い力があれば、不利な属性だろうと打ち勝てるんだ。
そして『絆の加護』は、絆が強いほど強くなる。悪いが、俺達の絆は、キャムが思うほど弱くはないぜ。
『な、何なのよ! リーファ! しっかりして!』
「ふん。この程度で絆が折れるものか。炎龍! 豪炎じゃ!」
『ギャオォォォォォッ!』
じわじわと
炎の直撃。とはいえ、最初はそれでも吹き飛ばされはしなかった。けど、より強い蒸気が立ち昇った瞬間。
『キャァァァァッ!!』
未だ周囲から降り注ぐ、狂いし精霊達からの術は、既にフィリーネが俺達を覆った
そんな中、キャムが生み出した狂った精霊やゴーレム達が迫って来た。
「後衛の護りは任せなさい! ロミナ! 前に出て!」
「うん! アンナ! 行こう!」
「はい!」
フィリーネの指示に従い、駆け出したのはロミナとアンナ。
ロミナには
アンナはアンナでこれが凄い。
『我が影よ! 共に戦いなさい!』
そう呟いた彼女が、三人に分身すると、それぞれが独立した動きで、それぞれの敵を倒していく。
暗殺術、
己の分身を生み戦いに駆り出す、これも暗殺術でも高位の技。本来多対一の戦いを苦手とする暗殺者という職の弱点を埋める技だからこそ、こういう時に役にたつんだ。
キュリアは俺の脇にしゃがむと、
『ラフィー。カズトを治して』
そう言って、生命の精霊王ラフィーを呼び出し、俺に精霊術、
とはいえ、彼女にも魔力の加護を掛けてあるから、その回復の早さも尋常じゃない。
荒かった俺の息が一気気落ち着き、身体の痛みや怠けも一気に抜けていく。
……よし。これで形勢は逆転。
だけど、ここからが勝負所だ。
「キュリア。もう大丈夫だ。この後は俺に手を貸してくれ」
「え? 何、するの?」
珍しく真剣だったキュリアが、俺の言葉にきょとんとする。
一旦キャムは仲間に任せても大丈夫。
であれば、俺がすべきは──。
「ミルダ王女を助けに行く」
「きゃっ」
俺は脇に座るキュリアを両手で抱えると、すっと立ち上がり、ミルダ王女の倒れている場所を見上げる。
「王女が囚われている場所に、
俺が真剣な顔でキュリアを見たけど、彼女は惚けたまま反応がない。
……あれ?
「キュリア。行けるのか? 無理なら──」
「がんばる」
改めて声を掛けると、はっとした彼女の顔に真剣味が増す。と同時に、突然俺達を八人の精霊王が囲んだ。
「カズトの、力になる」
何時になく。力強く頷くキュリア。
とはいえ、ぶっちゃけ
心なしか、ラフィー以外の呼び出された精霊王達に、強い戸惑いを感じるけど……ま、まあ、キュリアにやる気があるのは悪いことじゃない。
「フォローは任せなさい」
「そうじゃな。大船に乗った気でおれ」
「ああ。頼む。行くぞ。キュリア!」
「うん」
頷くキュリアに頷き返すと、俺は一度切れた命魔転化を、再び無詠唱でかけた。
決して褒められた選択じゃないけど、今なら仲間に生命は回復してもらえる。だからこそ、必要な
『余計な事をしないで!』
俺の行動に気づいたキャムが、
疾い! が、避けきってみせる!
俺は奴の術が生み出す風を読み切り、空中でまるで何かを蹴るように方向転換しながらそれらを避けていく。
暗殺術、
精霊術、
アンナが一度使った技がここで役にたつのも、俺がここまでにしてきた行動があってこそだ。
そして、王女が囚われたガラスの高さ付近まで来た所で、俺は
ガラスまでは距離があるし、蹴り自体は空を切る。でも、これはただの回し蹴りじゃないぜ。
そこから放ったのは、まるで道のように伸びる氷の衝撃波。精霊術、
流石にあそこを守る
ちなみにこの足場の作り方は、ザイードが体術に合わせ繰り出した、炎の斬撃を真似たもの。キュリアを抱え両手が塞がってても、これならできると踏んだんだ。
問題は、この足場をキャムに狙われないか。
流石に俺が乗るのは容易に想像がつく。となれば……。
『もう! 余計なことしないで!』
……だよな。
キャムの苛立った声と共に、
あの構えは、
だから、ここはそのまま目的を成す!
俺は氷の足場に降り立つと、キュリアを俺の右に立たせる。
「キュリア! 行くぞ!」
「うん!」
俺はキュリアと一緒にガラスに向け走り出す。それに反応して、ガラスの前に展開される赤黒い魔方陣、
「やらせるかぁぁぁっ!」
「くそっ! まだまだぁぁぁっ!」
ミコラが
ロミナとアンナはまだ数の多い周囲の敵を捌くので手一杯。
フィリーネとルッテもまた、狂いし精霊達の放つ弾を止めるのが精一杯に見える。
このままじゃやばいか?
いや、それでも信じろ! 俺は仲間を頼るって決めただろ!
俺はキュリアに目配せをすると、勢いをそのままに叫んだ。
『生命の精霊王ラフィー! 俺達に、闇を打ち祓う力を!』
『ラフィー! 力を貸して!』
そして、俺は右手を、彼女は左手を、同時に勢いよく伸ばした。
「いけぇぇぇぇっ!」
俺とキュリアの背後に、精霊王ラフィー姿を現し、俺達二人の手に、強い光が生まれる。
それが
「うぐっ!」
「ふんばれ! キュリア!」
「う、うん!」
ロミナの呪いを解こうとしたときと同じ、稲妻のような闇が俺達の腕に痛みを与える。それに呻くキュリアも、必死に堪え術を維持する。
少しずつ、魔方陣にヒビが入るが、抵抗も強い。これは時間を要する。けど、もう引けない!
俺が必死に術を維持していると、より強大な闇を下から感じる。
くっ。ここまでか!?
俺が思わず奥歯を噛んだ瞬間。
『もう消えて!』
『母上! どうか力を!』
キャムとルッテの二つの叫びが、俺の耳に同時に届いたんだ。
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