幕間:リュナの想い出

「リュナちゃん! エール四つ頼めるかい?」

「こっちはステーキ二つ!」

「はーい! お義父とうさん。エール四つとステーキ二つ追加ね!」

「おうよ!」


 ロミナ達が旅立ったその日の夜。

 久しぶりに夜の酒場経営を再開したんだけど、待ち望んでた常連客が押し寄せちゃって、もう大繁盛。

 正直少し身体がなまってたからちょっと大変ではあったけど、ロミナ達が旅立った寂しさを感じる暇もなくって、ある意味助かってるかな。


 店の壁にはミコラちゃんが足で見事に打ち抜いたテーブルが、脚を切って壁飾りのように飾られてる。そこにはお義父とうさんがせがんで聖勇女パーティーのサインが書き加えられてるの。


 ロミナやルッテ。フィリーネさんやアンナさんは達筆だけど、ミコラさんはちょっと字が汚いし、キュリアさんのなんてただ名前書いただけって感じで、何処か個性的かな。

 ちなみにカズトは、


  ──「こういうの苦手ですし、俺はあくまでおまけなんで」


 って頑なに譲らなくって、そこに名前は書かなかったんだけど。

 ほんと。どこまで控えめな性格なんだなって、皆で笑っちゃった。


 ……でも、ここ数日。本当に夢のような日々だったな。

 まさかロミナとルッテに再会できるなんて思ってなくって。ロミナ達だって気づいた瞬間、皆の前で泣いちゃったあの日。

 夜遅くまで話をしたけど、ロミナやルッテがあそこまで酔っ払うのなんて初めて見たかも。


 ルッテが先に酔いつぶれて、ロミナが酔いどれの中、カズトへの想いを話してたのを見て、本当に彼が好きなんだなって感じちゃった。


  ──「カズトはね。忘れられ師ロスト・ネーマーなの」

  ──「え? 嘘!? あの噂の!?」

  ──「そうなの。それで、私達を沢山、たーくさん助けてくれてね。皆をいーっぱい、幸せな気持ちにしてくれたの」

  ──「へー。そうなんだ。ちなみにロミナはやっぱり、カズトに気があるの?」

  ──「ふふっ。勿論。あんな素敵な人いないもん。優しいしー、勇気もあるしー、強いしー。いつも気を遣ってくれるしー。かっこいいしー。それから──」

  ──「はいはい。ロミナ。惚気けすぎだよ」

  ──「そっかな? でも、好きなんだもん。仕方ないんだよ? ……カズトのこと、好き……なんだもん……」


 結局酔いつぶれて寝落ちして、寝言でもカズトが好き好き言ってるなんて、村にいる時のロミナじゃ考えられなかった。

 きっとそれだけカズトの人の良さに惹かれて、沢山助けられたんだよね。


 別れ際に私がちょっとからかった時の、皆の反応も面白かったな。

 カズトはあそこまでされても何処か落ち着いてたけど。あれ、絶対皆カズトに想いを寄せてるよね。まあカズトは人も良さそうだし、それだけ魅力もあるって事なんだろうけど。ロミナも苦労しそうだなぁ。


 でも、カズトは忘れられ師ロスト・ネーマーの呪いで、パーティーから抜けちゃうような事があったら、皆に忘れられちゃうんだよね……。

 だから、幸せにできないって気持ちは何となくわかるし、きっとロミナ達が気にしなくっても、カズトは絶対無責任な気持ちじゃ、告白されても受けてくれなさそうな気がする。

 カズトもロミナも。それこそ皆にも幸せになってくれたら嬉しいんだけどな。


 次にこの街に立ち寄ってくれた時にはどうなってるだろう?

 もしかしたら奥手なカズトのことだし、結局誰とも付き合ってない可能性もあるかな?


「リュナ! エール四つできたぞ!」

「あ、はーい!」


 っと。ここでぼーっとしてたらいけないよね。

 ロミナ。ちゃんとカズトの心を掴んで、次に来た時にはちゃんとハートを射止めて、イチャイチャして見せてよね。盛大に祝ってあげるから。


 まあ、うちのお義父とうさんとお義母かあさんは、残念がるかもだけどね。

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