第十一話:故郷へ
俺はその後もリュナさんと町を歩きながら、この町の事とか、砂漠についてとか、差し障りのない会話をしつつ町を歩き、日が暮れ始めた頃、俺達がグラダス亭に戻ったんだけど。
そこでリュナさんは両親に対し、呆れた口調でこう言い放った。
「二人共見る目なさすぎよ。ただ真面目すぎで面白味もないし。私はもっと楽しい人と一緒になりたいの。だからカズトは却下」
「おいおい。その真面目さがいいんだろ!?」
「そうよ。このご時世こんな誠実な子いないわよ」
「ダメダメ。お話にならないわ」
グラダスさんとタニスさんの反論も、彼女が全く相手にしなかったことで諦めへと変わり、何とかこの件は話が丸く収まってくれた。
リュナさんの言葉を恐る恐る聞いていたロミナ達も、グラダスさん達が残念そうな顔で諦めたの見てほっと胸を撫で下ろし安心してたけど、そこまで心配しなくても良かったんじゃ? って思いつつも、口にはしないでおいた。
ちなみに例の
え? 何で四分の一かって?
あの戦士達に、俺達聖勇女パーティー。冒険者ギルド。そしてグラダスさん達の四分割にしたんだ。
「おいおい。幾らなんでもそれは貰わなすぎじゃないか?」
って、グラダスさんが思わず口を挟んだけど、
「彼等だってきっと、俺達だけじゃなく、町に厳戒態勢を引いてくださった冒険者ギルドにも迷惑をかけたって思ってます。それに俺はグラダスさん達に手当してもらいましたから。だからこれ位が丁度いいんですよ」
と、俺なりの意見を口にして、何とか了承してもらったんだ。
翌朝。
あの戦士のリーダーから預かったと、グラダスさんから渡された手紙には、俺達に助けられた事や、報酬を山分けにしてくれた事への感謝。そして酒場での非礼を詫びる言葉が並んでいた。
顔を出さないと約束したから、直接じゃなく手紙で申し訳ないと書かれていたし、きっと彼等も根っからの悪い冒険者じゃなかったんだろう。
昼はロミナ達やリュナさんに連れられ、防具屋に行ったんだけど……。
「やはりカズトであれば、こちらの白の道着がよろしいのでは?」
「うん。落ち着いた感じだし、私はカズトらしくって良いと思うな。ね? リュナ」
「まあ、確かにカズトらしさはあるけど、何か物足りない気もするなぁ……」
「だったら俺やキュリアと同じ赤にしよーぜ! な? キュリア」
「うん。赤、きっと似合う」
「流石にそれは目立ちすぎじゃろ。せっかくじゃ。黒で洒落た感じに決めてはどうじゃ?」
「それは良いわね。すらっとした貴方なら道着でなくてもこういうインナーでも良いのではなくて?」
と、俺の気持ちそっちのけで皆がそれぞれに盛り上がってしまい、やれあれを着ろ、これを着ろって完全な着せ替え人形状態にさせられた。
とはいえ、昨日強く見せてた不安そうな表情もなく、皆が楽しそうに笑い合ってる姿を見られて、ちょっとほっとしたのは内緒だけど。
§ § § § §
それから更に数日。
耐暑の指輪を外し、万が一を考え暑さに慣れるべく港町ディガットで過ごした後。
ついに俺達がここを旅立つ日がやって来た。
日も少しずつ高くなってきた頃。
快晴の空の元、俺達はグラダス亭の前に立っていた。
勿論グラダスさん夫婦やリュナさんも一緒だ。
「もう行っちゃうんだね」
「うん。ミコラのご両親も、首を長くして待ってるだろうし」
「リュナ。これからも元気での」
「うん。ルッテもね。ロミナも」
「うん。絶対また遊びに来るね」
名残惜しそうにリュナとロミナ、ルッテが順番に握手を交わす。お互い涙で目を潤ませてるけど、泣かないって決めたのか。気丈に笑みを向けあう。
こういうのを見るとこっちも少し感傷的になるけど、これが
彼女達を微笑ましく見守っていると、グラダスさんとタニスさんが俺のもとにやってきて声を掛けてきた。
「カズト。本当に世話になったな」
「それはこっちの台詞ですよ。すいません。昼の稼ぎ時に店を閉めさせてしまって」
「いいのよ。例の報酬で十分儲けになってるもの」
「それより……」
と、グラダスさんが突然俺の耳元に顔を寄せてくる。
ん? 何だ?
「なあ。すぐじゃなくっていいからよ。本気でリュナを嫁にどうだ?」
……おいおい。
まだ諦めてなかったのかよ。
俺が思わず呆れてため息をつくと、
「おい、おっさん。カズトは俺達の仲間なんだからな。リュナも合わなかったって言ってたんだし、そろそろ諦めろって」
「痛ててててっ! 耳引っ張るんじゃねぇ!」
脇でそれを聞いていたミコラが、露骨に嫌な顔をしてグラダスさんの耳を引っ張り、俺から引き離した。
「でも、カズトがいたらリュナも楽しい家族を持てると思うわ」
「絶対、ダメ。カズト、一緒に行く」
タニスさんの言葉にも、はっきり不満を顔にしたキュリアがつっけんどんに突き放す。
まったく。
折角感動的な旅立ちかと思ったら、また雰囲気悪くなったじゃないか。
「お
流石にリュナさんも呆れ顔で二人を見ていたんだけど。
「ま、でも、カズトがあまりにモテなくって彼女とかできなさそうなら、考えてあげてもいいけど」
なんて冗談じみた言葉を口にすると、皆の顔色が一気に変わった。
「リュナ!? あなたはまたそんな事言うの!?」
「リュ、リュナ様。それは流石に横暴ではございませんか?」
「そ、そうよ。カズトは私達聖勇女パーティーと共にあるの。彼女とか以前に、まずは私達との旅があるのだから」
「でも、カズトだって何時かこのパーティーの誰かじゃない人に心奪われたりするかもしれないじゃない。そうなった時、あなた達は無理強いするの?」
「さ、流石にそんな機会があればそこまではせん。じゃが、カズトはそもそもあまり、
「え? いや、まあ。すぐにどうこうって事はないけど……」
「そ、そうだよな! だったら当面は俺達と一緒でいいだろ? な?」
「うん。カズト。皆と、一緒にいよ」
何か皆が慌てふためきながらリュナを牽制すると、彼女はそんなロミナ達を一瞥すると、くすっと笑って悪戯っぽい笑みで俺を見た。
「ほんと。カズトって皆に気に入られてるのね」
「どうなんでしょう? ただ、こんな彼女達だから、仲間として一緒にいられるとは思いますけど」
こりゃ、リュナさんは彼女達の反応を楽しんだっぽいな。
ま、きっと別れ際に湿っぽくなるのが嫌だったんだろう。
「ロミナ。そろそろ駅馬車の時間もある事だし、行きましょうか」
「うん。リュナ。絶対また会おうね。グラダスさん達もお元気で」
「うん。楽しみに待ってる」
「おう。また是非遊びに来てくれよ」
「楽しみにしてるわね。勿論カズトもよ」
「はい。皆様お元気で」
互いに笑みを交わしを振った後、俺達はグラダス亭に背を向け歩き出した。
駅馬車の駅に向かう曲がり角まで、何度か振り返っては手を振るロミナとルッテ。離れていくリュナさん達も、俺達が見えなくなるまで最後まで店の前で手を振ってくれていたな。
「しっかし。リュナも最後に何言ってんだよほんとに」
「きっと湿っぽいのが嫌だったんだよ。許してやれって」
彼等が視界から消えた後。
脇でぶーぶー言いつつ歩くミコラを
奥歯を噛み殺し、ぐっと何かを堪えた顔。
……きっと、寂しさが募ったに違いないよな。
「……故郷が懐かしくなったら、また逢いに来ようぜ」
「……うん。ごめんね」
俺が頭を撫でてやると、少し震えた声を絞り出すロミナ。
反対側のルッテがハンカチを差し出すと、彼女はそれを受け取り涙を拭う。
「カズト」
「ん?」
「そういえば貴方にはやはり黒がお似合いだったようね」
「そうか? まあ、皆の見立てが良かったって事だろ」
フィリーネが湿った空気を誤魔化すように、振ってきたのは俺の装備の話題。
結局あの時俺は自分で決められなくって、皆の多数決で決めてもらったんだけど、その結果勝ったのが彼女だったんだ。
ちなみに、今の俺は黒の袴に、ぴっちりとしたノースリーブのようなインナーという、かなりすらっとした出で立ちだ。一応袖のない道着も付けてるけど、今は袖を抜いて袴に重なっている。
「カズト、黒も、かっこいい」
「そうですね。シックな姿もよくお似合いですよ」
「それなら良いんだけど。皆も似合ってるよ」
今回からルッテ以外は皆、耐暑向けの軽装に変貌しているけど、アンナも結局俺が防具屋で見つけて勧めてみた白のメイド服姿だ。
ルッテは暑さに影響を受けないし、母親から貰った装備っていう
他愛もない話をしながら歩いていると、視界の先に多くの馬車が停まる駅馬車の乗り場が見えてくる。
俺達はあれに乗って、今度はミコラの故郷フィラベに向かう。
ロミナとリュナさんの一件を見ながら、きっとミコラもまた同じように喜んだりするんだろうなと微笑ましくなると同時に、俺は少しだけ寂しい気持ちにもなった。
まあ、俺を昔から知る人達との再会なんて、ありもしないしって思ってたからなんだけど。まあ、今更そんな事考えても仕方ないな。
さて。
今度はミコラが故郷の家族と再会か。
あいつも泣いたりするんだろうか?
どんな反応をするか、ちょっと楽しみだ。
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