第三章:首都フィラベ
第一話:オアシスにて
港町ディガットから駅馬車に乗った俺達は、一路砂漠を東に進んで行った。
砂漠の駅馬車は確かに馬が引いているのは他の馬車と変わらないけど、車輪の代わりにスキーの板のような物が付いてて、実際はソリに近い。
しかも馬も暑さに強く、砂丘を乗り越えるだけの力もある大きめの馬だから、普段とはまた違う雰囲気なんだ。
しかも予約したのは隊列を組んで移動するルートの決まった一般客用じゃなく、個人で移動できるタイプ。つまりレンタルでの貸切りみたいなものだ。
従者を連れて運転を任せる事もできたんだけど、そこは馬車の運転にも精通するアンナに、その技術を『絆の力』で得てる俺、そしてこの国出身のミコラもいたからな。
だから俺達だけの完全な貸切りにしていた。
ちなみに、この貸切りは正規冒険者や身分が証明されている一部の者位しかできなかったりする。
そりゃ、ちゃんと一定期間内に目的地の駅に到着し返却する義務があるからさ。
乗り捨てしたりそのまま姿を眩ませたりされたら、駅馬車の運営会社にとっても損失だからこそ、身分がはっきり明かされている必要があるんだ。
まあ、それでもこういう時、正規冒険者で良かったって本当に思うけどな。
運転は皆も大変だろうと思って、基本的に俺が手綱を引き、皆には馬車の中で寛いで貰ってるけど、中でずっといるのは退屈なのか。
交代で俺の座る
砂漠の移動は本当に目印とかがないから、基本は整備された街道伝いに進んでいく。
天気は薄雲が掛かる事すら殆どなく、ずっと晴れ続き。
途中には町や村もあるから宿泊なんかで野宿はここまでなかったし、合間に
とはいえ、最後に立ち寄った町から目的地のフィラベまでは道中が長く、合間に町や村がない。
だから、その日の夕方は、他の馬車馬が宿泊に使うオアシスで野宿する必要があるんだけど。
「あ、あれかな?」
夕方。
隣に座ったロミナが遠くを指差すと、確かに街道から少しだけ外れた場所に、オアシスらしき物が目に留まった。
そこにあったのは、砂漠に似つかわしくない幾つか生い茂る木々に芝生のような草むら。そして象徴でもあるやや大きな泉もある。
「それっぽいな。じゃ、あそこに向かうか」
「うん」
俺は手綱を引くと、そのまま少し街道を外れ駅馬車をオアシスに向かわせたんだ。
§ § § § §
「おー」
日が暮れかけた頃、俺達は無事オアシスに到着したんだけど、駅馬車を降りた瞬間、珍しくキュリアが驚きの声を上げた。
「ほう。これは中々風情があるのう」
「そうだね。町でもここまでの木々は見られなかったし」
「へへっ。今日は他の駅馬車もないし、今日は貸切りっぽいな」
「そのようね。これはこれでありがたいわね」
皆が何処か楽しげな笑みを浮かべる中、俺は駅馬車の後部の荷物入れからテントを取り出すと、砂漠との境界付近の芝生の上にコツコツと組み上げていく。
勿論、これは俺の担当にしてるだけで、皆がサボってる訳じゃないぞ?
「そちらを抑えましょうか?」
「ああ、悪い。頼む」
そんな中、アンナは皆とは別にすぐ俺の行動に付き合いテント作りを付き合ってくれている。
「アンナは休みの日なんだし、俺に任せればいいから」
って言ったんだけど、
「
なんて気遣い見せられちゃってさ。
それを無碍にもできず、結局そのまま手伝って貰っている。
「そういや、今日の料理番は誰だったかな?」
「俺とこいつ。キュリア。早く済ませて皆で泉に入ろうぜ」
「うん。頑張る」
料理当番の二人も意気揚々と砂漠側に焚き火を準備し、料理の準備を始めたみたいだな。
キュリアは以前は料理がてんで駄目だったし手伝いもしなかったけど、共に旅するようになってからは当番になると率先して手伝いをして、少しずつ皆に料理を教わったりしてる。
勿論まだまだな所もあるけど、最近はスープの味付けなんかも随分美味しくなってきたし、成果は出ているみたいだな。
「へー。泉ってもっと冷たいかと思ったけど、そうでもないんだね」
「そうじゃな。この
「下手に冷たいより、ゆっくり浸かれそうね」
ロミナ、ルッテ、フィリーネは先に泉の側に向かい、近くの木にランタンを取り付けた後、泉に手を付けそんな感想を漏らす。
この辺、結構俺がいた砂漠の知識とちょっと違うんだよな。
現代世界だと、大体の砂漠は昼暑くて夜寒いって教わったんだけど。
この世界は精霊が関与しているのもあってか。夜も意外に気温があまり下がらないんだ。
そのせいもあって、泉もそれなりの温度に保たれてるって事なのかもな。
とりあえず野宿の準備を終えて、飯食って皆が泉に入るのを済ませたら、俺も後でゆっくり浸かるか。なんて思いつつ、その時はテント作りに励んでいたんだけど……。
§ § § § §
「いっくぜー! そりゃー!」
勢いよく泉に飛んだミコラが、どぼーんと激しい水飛沫を上げ着水する。って、キュリアもそれに続いて飛び込んでるとか。お前そんなタイプだったっけ?
「まったく。
「そうですね」
なんて言いながら、泉の端で水に浸かっているルッテと
と、そんな中。
「ほらほら。カズトも一緒に入ろう?」
「温かくて気持ち良いわよ。早くなさい」
なんて遠くから声が掛かったんだけど。
「ああ、分かってる」
なんて言いながら、俺は着替え終わってテントから出た後、そんな皆の所に混じるのを躊躇していた。
……いや。
確かに皆も俺も半袖のシャツに下はトランクスっぽい水着だけど、何で一緒に入る事になってるんだ!?
昔の野宿だって、ずっと覗くんじゃないと釘を刺され、遠くで留守番だったってのに。
思わずため息を
仕方なく、俺は渋々と泉に向かい、泉の
……確かに多少温いとはいえ、これは入ってて気持ちいい。けど……やっぱり目のやり場に困ってしまう。
「お、やっと来たか。な? 一緒に向こうまで競走しようぜ!」
なんて笑顔でこっちに声を掛けてくるミコラはスポーティーな赤いチューブトップのビキニ。
「ダメ。カズト、一緒にゆっくりする」
と、俺が浸かったのに気づきこっちに寄って来たキュリアは赤いスクール水着みたいな奴。
「そうだよ。今日は御者もしてもらったし、テントも立ててくれてるんだし」
と同情した声を掛けてくれたロミナは白のビキニ。
「そうよ。明日の御者はミコラだから良いけれど、夜の火の番もあるのだから」
なんてミコラをたしなめるフィリーネは紺のワンピースタイプだけど、所々肌が見えるやや露出度がある独特なデザイン。
「ほんにミコラは落ち着かんのう。お主とて明日は
と呆れたルッテは、何か俺の世界でもおじさんとかが着そうな二の腕、太腿まで覆った黄色とオレンジのボーダーの全身水着。
そしてそんなやりとりを微笑ましく見ているアンナは前と同じ黒のビキニに腰にパレオを身に付けている。
ちょっとルッテはダサく見えるけど、それを除けば色々と刺激的すぎるこの光景。しかもランタンの灯りで浮かび上がる神秘的な彼女達。そりゃ目のやり場に困るに決まってるだろ。
「ねえ、カズト」
俺が目のやり場を求め、敢えて泉の淵に背をもたれ、誤魔化すように対岸を眺めていると、フィリーネが声を掛けて来た。
「ん? どうした?」
「貴方はどの水着が好みかしら?」
「はぁっ!?」
何処か意味深な、だけど悪戯っぽさを感じる問いかけに、俺は変な声を上げた。
「ななななな、何で急にそんな話になってるんだよ!?」
「無論、我等が気になったからじゃ。のう? ロミナ」
「う、うん。ちょっと、気になるかも……」
おいおいおいおい!
ロミナが少し恥ずかしそうな声出してるじゃないか!
「べ、別に。皆似合ってるし良いだろ!」
「とか言ってよー。どうせ胸大きい方が良いとか言うんじゃねーの?」
「な、何でそうなるんだよ!」
何処か羨ましげな声と共に、キュリアの脇に並んだミコラがちらっと彼女やアンナ、ロミナ達に視線を向ける。
そ、そりゃこの三人は胸がある……ってのはどうでも良いって!
「カズト。水着、似合ってる?」
キュリアが様子を伺うようにずずっと前に迫ってくるけど、いや、その近いから!
「み、皆凄く似合ってるから安心しろって!」
慌てふためきつつ何とか俺が言葉を返していると、
「皆様も、カズトが困ってらっしゃいますし程々になさりましょう」
ってアンナが助け舟を出してくれたんだけど。
「あら? でもカズトはハーレムに憧れてるらしいわよ」
「言ってねー!!」
突然のフィリーネの言葉に、俺はマッハでツッコミ返してしまった。
あまりの
皆がクスクスっと笑うのが気恥ずかしくって、俺は隠れるように顔を半分水に付ける。
ったく。
男心を弄びやがって……。
もう、今後は誘われたって一緒に泳いだりしないからなと、固く決意するのだった。
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