第十三話:決着
『えっ!?』
俺は大声でそう叫ぶと、怯えたロミナの返事が届く。
そんな声を出す理由は分かってる。今の指示は、いわば俺を攻撃しろって言ってるようなもの。
『そ、そんなの……できるわけ……』
だからこそあいつは震え声で指示を拒否し。俺はその声を聞き、ぐっと奥歯を噛んだ。
……ロミナは俺を殺したことがある。その恐怖を今だって持っている。
それなのに、俺はこんな指示をするしかない。己の力のなさ。それがこの状況を生んでいるのは確かだ。
だけど、今ザンディオの
そしてそれを俺一人で何とかしようとすれば、俺はきっと生き残れない。
だからこそ、
離れているのに。背中を向けているのに。
雨に濡れたロミナの苦悶の表情が脳裏に浮かび、胸がズキリと痛む。
『カズト! 来おるぞ!』
ルッテの声にふと見れば、ザンディオの側で復活した
ったく。流石に見逃しちゃくれないか。
あいつが決断するまでの間、何とか時間を稼ぐしかない。余計な消耗は避けたいんだけどな。
大きく息を吐き、雨の中で抜刀術の構えを取ると、奴らが迫ってくるのをじっと待つ。
……よし。いくぞ。
そう覚悟を決めようとした瞬間。
「やらせるかよ! アンナ! いくぞ!」
「はい!」
威勢の良い声と共に、俺の頭上を幾つもの気弾や矢、そして炎弾が抜けていくと、迫る
この攻撃は!? はっとしたその時。俺の脇に立つ奴等がいた。
「ふん。護りはやはり性に合わん。たまには暴れさせてもらうぞ!」
右手にドスンと降り立ったのは、フレイムドラゴンとその背に乗ったルッテ。
「ここは
「ロミナ! 怖えのは分かる! だけど今はカズトを信じろ!」
左手にはアンナとミコラが立つと、三人は
雨に濡れるのも厭わず、疲労感も隠せぬまま。だけど、そんなもの構わないと言わんばかりに次々に
──『信じなさい。あなたには、最高の仲間が付いています』
ふと、脳裏にあの時の言葉が過ぎる。
……本当だよ。やっぱり最高の仲間だぜ。
「分かった。そっちは頼む」
俺が思わず笑みを浮かべ感謝を口にしていると、
『お兄ちゃん! ザンディオが!』
悲鳴のような美咲の叫びが耳に届いた。
気づけば氷に入るヒビが随分と増えている。
『うぐぐぐ……カズト……もう、限界……』
苦しげな声をあげるキュリア。それが絶望を煽ったのか。
『ロミナ! 覚悟を決めなさい! このままじゃ間に合わないわ!』
『でも……もしまた、カズトを斬り殺しちゃったら……』
ルッテやフィリーネがロミナに発破を掛けるけど、未だ弱々しい声をあげるロミナ。
このままじゃ間に合わないか!?
そう思った瞬間。ガシャーン! という激しい音を立て、
……やっぱり、ロミナには辛かったか。
まあいい。こうなったら、命を懸けてでもやるしかない。
「皆、散開してくれ!」
「お前一人でやれるのか!?」
「やれるか分からないけど、意地でも止めてやる!」
周囲に叫ぶと、俺から離れるようにミコラ達が離れる。
ブレスは間違いなく俺に向く。それは同時にロミナや艦の人達すらも危険に晒すんだ。それだけはさせるかよ!
俺はブレスを溜め始めたザンディオを抜刀術の構えのまま横目で見ると、
『カズト。動くな。
こんな状況でも冷静沈着なミストリア女王の声が届くと、ザンディオがブレスを吐くよりも早く、俺の頭上を轟音と共に巨大な雷撃の槍が通り過ぎていき、溜めていたブレス毎ザンディオに突き刺さった。
『やったか!?』
思わずミコラが興奮した声を上げる。
けど、俺には分かる。あれじゃ駄目だって。
ブレスを打ち消し、その身を大きくのけぞらせはした。
けど、雷撃の槍が消えた直後、撃ち抜かれた部分はまたも砂で覆われていく。
『あの威力ですら駄目だと言うの!?』
そう。あれじゃ駄目なんだ。
やっぱり
結局これじゃ現状は変わらない。
そんな状況に思わず舌打ちすると、女王がロミナにこう問いかけた。
『ロミナよ。これで我が艦は暫く動けん。だからこそ選ぶが良い。我らを見捨てるか。カズトを討つかを』
は? まさか女王は無駄撃ちだと分かってて今のを仕掛けたってのか!?
俺が驚愕していると、ロミナは『私は……』と、未だ迷いの声をあげる。
……あいつは聖勇女。だからこそ、皆を見捨てはしないだろう。
けど、同時に分かってる。俺を仲間だと想ってくれてるからこそ迷うんだって。
……悔しさに唇を噛み、ぐっと刀の柄を強く握る。
結局、俺はロミナに不安ばかり与えてる。そしてここまで色々あったからこそ、あいつだって俺を信じきれてないに違いない。
どうすれば、ロミナに信じてもらえる?
答えが出ぬまま自問自答していたその時。またも心に過った言葉があった。
──『いいか? 信じろ。お前には絆で結ばれた仲間がいる
……そうか。そうだよな。
「……ロミナ」
俺はぽつりと彼女の名を呼んだ後、自然と笑みを浮かべる。
そう。あいつにはずっと信じていた物があるじゃないか。
「俺達は、あれだけの別れ方をしても、再会したんだ。信じてくれ。俺とお前の、強い絆をさ」
俺はそこまで口にすると、
鞘に収まった相棒が、あの白昼夢で見せたのと同じ、眩い光を放つ。
『カズト!? 思い出しおったのか!?』
「いーや。だけど俺ならやれる! ロミナと俺の絆があれば!」
構えは勿論抜刀術。
だけど、放つのは勿論、
後は、ロミナの決意を待つ。
間に合わなければ勝ち目はない。けど、もう迷うもんか。俺はあいつを知っている。
俺のことを忘れても、追いかけてくれて。
俺を傷ついた時、あれだけ後悔してくれて。
俺が死んで、あれだけ涙して。
それでも俺と再会し、一緒にいてくれてるんだ。
だから、あいつは応えてくれる。
なんたってあいつは俺が尊敬する、偉大なる聖勇女様だからな。
ザンディオが耳障りな咆哮と共に、再びブレスを溜めるモーションに移る。そんな中。
『……カズト。信じてる』
「……ああ。見せてやろうぜ。俺達の絆の力」
『……うん』
耳元に俺が望んだしっかりとした声が届き、背の向こうで強い輝きが起こる。
『聖剣よ! 私達の絆の力で、皆を未来に導いて!』
強い想いの篭った叫び。そしてより強くなる輝き。
覚悟を決めたあいつの力が今まで以上に昂まり。そして──。
『輝け!
強い叫びと共に放たれた光の奔流を、背中越しに強く感じた。
ロミナは応えてくれた。後は俺だ。
いいか? ザンディオ。見せてやるよ。
俺の武芸者としての本気を!
『和人お兄ちゃん!』
『カズト!』
構えをそのままに避けすらしない俺に対し、向けられた皆の叫び。
背後から迫る、勇気の乗った風。
……ここだ!
風に合わせてその場で真上に大きく跳躍した俺は、その身を捻って砂漠に水平となり鋭く錐揉み回転する。直後、眼下を通り過ぎようとするロミナの
あいつのこの想いを、俺が導く!
回転を利用したまま鋭く抜刀し、俺自身の
だけど、その光をまだ
反動でより加速して回転する俺が手にする刃の光が、空中で弧を描き光輪となる。
この光こそ、俺とロミナの
そして、この力を抜刀術、流星を使い、一点に集め、ザンディオに放つ!
いくぜ! これが俺とあいつの絆の力!
「いっけぇぇぇぇっ!
ザンディオがブレスを放ったのと同時に、俺は光輪を解放し、
鋒より解放された光が、ぎゅんっと一筋の流星のように長い尾を引き、まばゆい輝きと共にあいつの
と同時に、
「うわっ!!」
あまりの勢いに吹き飛ばされた俺は、錐揉みの勢いそのままに吹き飛ばされると、砂漠に落下すると、ゴロゴロと砂煙をあげ転がっていく。
どうだ!?
痛みに呻きながらも、何とかうつ伏せになって踏みとどまると、痛みと気力の限界が来た重い身体を何とか起こし、光の行く末に目をやる。
思わず手放してしまった
その勝負は拮抗すら見せず、ブレスを突き抜けあいつの
最後に立ちはだかったのは
流石にこいつをすぐに破る事はできず、激しく光と闇が干渉し、火花を散らす。けど、少しずつ、闇の魔方陣にヒビのような模様が入る。
「いっちまえ!」
『貫けぇぇっ!』
『ぶっとばせ!』
『神様……』
仲間や兵士達の様々な願いが光に向けられる中。
『お願い!』
ロミナがそう強く叫んだ瞬間。
パリーンと澄んだ音が聞こえると同時に、
『おおっ!!』
皆の歓喜の声が聞こえた瞬間。
『グオォォォォォォッ!』
ザンディオが咆哮を上げたかと思うと、同時に
──『感謝する。後は、友を……頼む……』
感謝の声を心に聞きながら、
フィリーネの術で広がっていた雨雲も衝撃で一気に吹き飛ぶと、まるで勝利を祝福するように砂漠を暖かな太陽が照らし出し。
そして……そこに兵士達の大きな歓声が生まれたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます