第九話:無謀すぎた武芸者
ここまでの戦いで、各艦への損傷は皆無。
それは喜ばしい事なんだけど、結局まだ何も打破はできていない。
そしてそれ以上に、とかく一番艦が一番早く疲弊する展開になるなんて、思ってもみなかった。
あれからも、ひっきりなしに続くザンディオのブレス。
そして、倒しても倒しても、新たに生み出される
勿論ロドルさんやフィリーネ、ルッテ、ミコラはよくブレスを凌いでくれているけど、艦を荒々しいブレスが掠める度に、その恐怖が皆に刻まれていく。
そして現状は、結局何も打破できていない。
「美咲! 三人にマナストーンを頼む!」
「うん!」
途中から美咲が俺の指示で、フィリーネ、ルッテ、キュリアの元まで必死に移動し、マナストーンで
とはいえ、ロミナの最強の一撃を防いだ
「カズトよ。雷撃の槍、試してみるか?」
そんな防戦一方の状況の中。ミストリア女王がそんな提案を持ちかけてきた。
あの槍から放たれる魔術。その威力を知るはずの女王の提案なら、威力は申し分ないのかもしれない。だけど、俺は即答せずこう尋ね返してしまう。
「雷撃の槍を放つ事で、この艦が不利になる状況になりませんか?」
そう。その一撃が通ればいい。だけどそうじゃない時が問題なんだ。
さっきのロミナの技の時のように、止められただけならまだいい。だけど艦の起動に影響が出るような事があれば、それは自らの首を絞めることになる。
「……残念ながら、起動に使う魔石の
「であれば、まだ待って下さい」
「だが、このままでは勝機もあるまい」
俺とミストリア女王が未来の見えない会話を交わす中。またも強く艦が鋭く横に旋回をし、艦の脇を激しきブレスが掠めていく。
『流石に、きついわね』
『でも、がんばる』
『当たり前じゃ』
荒い息遣いと共に聞こえてくる、フィリーネ達の苦しげな声。
『どうすりゃいいんだよ!?』
『このままじゃ、皆が……』
近寄る
くそ。このままじゃ本気で……。
思わず俺もぐっと奥歯を噛む。けど、不安になってなんかられない。
考えろ。何か思い付け。俺は必死に頭をフル回転させる。
……ロミナの技でも抜けなかった
あれに対抗するとすれば、闇術に最も効果を発揮する聖術や勇術。その最高峰が
だけど、『絆の加護』や術で強化しただけじゃ撃ち抜けなかった。だとすればそれはどう補えばいい? 火力をより上げる? 『絆の加護』でも駄目だったのに?
それにザンディオのブレスもそうだ。あの破壊力は凄まじいし、ずっと撃ち続けられていたら保たない。せめてあれに狙われる頻度が下がれば、フィリーネ達だってもう少し踏ん張れるってのに。
あいつはこっちの旋回スピードに合わせ、しっかり向きを変えてくる。
あんな巨体の鯨だし、こそそこまで機敏じゃないと思っていたけど、それも悪い意味で裏切られてる。せめてその速度を落とすなり、動きを封じれれば違いそうか?
……待てよ。何であいつはこの艦だけを狙ってくるんだ?
他の艦なんてまるで気にも留めてない、執拗な攻撃。もしかしてこの艦に聖勇女が乗っている事を理解しているのか? それとも別の要因があるのか?
俺が必死に考えをまとめていた、その時。
『コォォォォォォォォォォォォッ!』
またも天を向き。耳をつんざく程の低い咆哮を挙げるザンディオ。
──『光導きし者よ! 早く! 我を、討て!』
……くっ。まただ。
俺は耳を抑えながら、同時に心に響く苦しげな声を耳にする。だけど周囲を見回しても、誰もそれに言及するような事をしてない。
光導きし者。またこの二つ名で呼びかけられてる。って事は、俺だけに叫んでいるんだよな。
あいつは、俺に倒されたい……まさか!?
ザンディオがもう何度目か分からないブレスを溜める動きを始めた瞬間。
俺は
「お兄ちゃん!?」
『カズト!?』
皆の声を置き去りにして、俺は無詠唱で精霊術、
って高っ!
高高度の恐怖心を振り払い、俺は術の力を借り空中でくるりと回転し、そのまま砂漠に見事に着地すると、勢いよく砂漠を滑る。
ふぅ……、危なかった。
何とか踏み止まりながら顔を向けると……やっぱりだ! ザンディオの奴、俺に向きを変えてやがる。
これで皆は安泰。後は──。
俺はそこまで考えてはっとした。
あんなブレス、どうやって避けりゃいいんだ!?
離れていく
聖勇女と同じ技、
彼女と比べて圧倒的に劣る技で何ができるってんだ!?
──『直撃した奴らは風に引き裂かれ、悲鳴だけを残し一瞬で消えた』
ふっと生まれた心の隙間に、青ざめたスキッドが震え声で口にした言葉が蘇る。
俺は……引き裂かれ、消える?
『コォォォォォッ!』
ザンディオがあげたブレスを放つ予兆となる咆哮。
その先に迎えるかもしれな現実を想像した瞬間、背中に寒気が走った。
『カズト! 逃げて!』
ロミナの悲痛な叫びが
だけどどうやって逃げる? 艦の旋回と皆の術でやっと避けられるあれを?
まるで足元が崩れ、逃げ場がなくなっていく。そんな絶望感が一気に俺を襲い、足が竦み動けなくなる。
ま、まだ! 何とかしないと!
恐怖から逃れたいと、縋るように無意識に
抜刀術? 今この状況で、武芸者の技が何の役に立つんだ。
結局、俺はただの武芸者。
皆のように強くもなれなきゃ、何か特別な力すら誰かのためにしか使えない。
そんな俺に今、何ができるっていうんだよ……。
生まれるのは絶望ばかり。脳裏に過ったのは、切り裂かれる俺の姿。
魔王に殺されかけ、ロミナに殺された時の痛みがそれに重なり、恐怖でびくりと身体が強く震える。
俺はこのまま消えて、皆に忘れられて。
あいつらを助けることもできず終わるのか?
……俺は、死にたくない。
だけど、このままじゃ俺は死ぬ……でも、どうにも……。
走馬灯が見えるかのように、ザンディオの動きがゆっくりに見える。
けど、俺は恐怖の化身から目を逸らす事すらできず、顔を青ざめさせ、目を見開いたまま。
何で俺はもっと強くならなかったんだ……。
何で俺は、武芸者なんて選んだんだ……。
何で俺は、こんなに無力なんだ……。
後悔と恐怖で心が凍りつき。ザンディオがその口からブレスを吐いた、その瞬間。
──『そんなに、武芸者は嫌か?』
何処か優しい、男の声が聞こえたんだ。
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