第九話:決意を胸に
俺とロミナは一度そのまま仲間が宿泊する四階の部屋に向かった。
結局かなり遅い時間にも関わらず、誰一人寝てないし、何ならミコラまで駆け付けてて、俺達二人の無事に安堵してくれてた。
「カズト。無事で、よかった」
なんて言いながら胸に飛び込んできたキュリアが涙目だったのは、なんかちょっと胸に来るものがあったな。
俺達は何時も通り、宿に泊まっているメンバーとアシェにはベッドに、俺とミコラはテーブルの椅子を持ち出して円を組むように腰を下ろす。
アンナがそんな中、さっと準備してくれた紅茶を、俺とロミナに淹れて渡してくれた。
「で、収穫はあったのね?」
「あったにはあった。けど、ここからの話は一旦俺達以外には漏らさないでくれ。あと、多少覚悟を持って聞いてほしい」
「今更だろそんなの。分かってるからさっさと教えろよー」
「まったく。ミコラよ。二人とて大変じゃったんじゃ。気を遣ってやれ」
普段通りの雰囲気を見せるミコラ達だったけど、俺がそこから話した一通りの内容には流石に唖然とするしかなかった。
話したのは、女王達がヴァルクさんの師匠によって忍び込んでくる事を知っていた事。
蜃気楼の塔の伝承とその力。そして塔に辿り着く鍵が
その力を聖勇女であるロミナが持っているかもしれない事。
そして、俺達の力を借りたい理由が、
「神獣って……シャリアの言ってた奴、だよな?」
焼き菓子を食べようとしたミコラの動きが止まり、あんぐり口を開けたままそう漏らすと、ルッテも事の重さにため息を漏らし、流石に参ったと言わんばかりの顔を見せる。
「ヴァルーケンとは別物じゃろうが、仮にも神獣。一筋縄ではいかんじゃろう。しかし、そんな物がこの砂漠にもおったのか」
「ああ。しかも神獣の再来を予兆させる、
「……もし本当に姿を見せれば、由々しき事態にございますね……」
あの冷静さが売りのアンナの顔色が青ざめている。
きっと彼女にとって、得体の知れない脅威を相手にしなければいけない現実が、相当堪えてるんだろう。
実際、他のメンバーだってそうだ。
ロミナは覚悟を決めてるからこそ、まだ落ち着いている。
だけど、キュリアも。フィリーネも。ミコラやルッテだって顔色は良くない。
「……魔王より、
「分からない。けど、あいつとの戦いとはまた違った厳しい戦いになるだろうな」
「私達だけで、戦うの?」
「そこは分からない。流石にあの女王の事だし、有事に備えていそうな気はするけど、最悪は覚悟してくれ」
「まったく。神も我らに随分酷な試練を寄越すもんじゃ」
『……言っとくけど、私のせいじゃないわよ』
無意識だったんだろうな。
アシェの突っ込みに、はっとしたルッテが彼女に目を向けると、思わず自嘲する。
やっぱり突っ込まれたか。
なんて予想が当たった俺を始め、重苦しくなり始めた皆の空気がそれで少し和らいだ。
「……いいか? 俺はお前達に無理をさせたいわけじゃない。だから、思うがままの本音を聞かせてくれ。もしもの時、女王の申し出を受けるのかを」
俺は顔を引き締めると、真剣な顔で皆を見つめる。
誰だって恐れはあるはずだ。
何かを護るより、自分の命が大事。
普通はそうなんだ。しかも聖勇女パーティーとして魔王に挑むのとは違う、選択できる立場だからな。無理はさせられないしな。
俺の言葉に続いたのは暫くの沈黙……だったんだけど。最初にふっと笑ったのはミコラだった。
「……ったく。こういう時、お前の言葉は一々刺さるんだよな」
「どういう事だ?」
「お前はきっと、今回だって逃げてもいい。無理しなくってもいいって言ってくれるだろ。優しいからよ。だけどその度に思うんだよ。お前に言われるのはやっぱ癪だって」
「……そうね。貴方は何時もそうやって、優しさを見せていたものね」
会話に割って入ったフィリーネは、少しだけ柔らかな笑みを見せた後、何処か
「分かってるのよ? もし私達が恐れを見せて残る選択をしても、貴方は一人でも戦おうとするのでしょう?」
「え? いや、その……」
突然の言葉に俺がしどろもどろになる。
いや、正直それは考えてた。やっぱりミコラの故郷を護ってやりたいって思ってたし……。
そんな俺の反応を楽しげに見たフィリーネが、満足そうに笑う。
「私はもう、置いていかれるのも、貴方を忘れるのも嫌よ」
「……そうじゃな。我は……いや。我等はもう、忘れる怖さを知っておる。神獣が恐ろしくないといえば嘘となろう。じゃがそれ以上に、お主を忘れるのも怖いわ」
「ルッテ……」
真剣な顔でそう続いたルッテの言葉に、何かが昂まりそうになる。けど、次の瞬間。あいつの悪戯じみた顔でそんな気持ちは吹き飛んだ。
「それに、我は昔怒鳴られたからのう。戦力分散は愚の骨頂じゃと。また怒鳴られては構わんからのう」
「ぐ……」
……確かに言った。
ロミナを呪いから解放するため、独りで旅立とうとした朝。部屋にやってきたルッテが付いてくるって言ったあの時に。
俺は言葉に詰まり、歯がゆさを顔にしてしまう。それを見てしてやったりな顔をしたルッテに釣られ、皆がふっと笑った。
「カズト。貴方様は
「そういう気負いはなしだって。一緒に行くなら生きて帰ろうぜ」
「……はい。これからも、共に歩めるように」
微笑みの中に決意を見せ、じっとこちらを見るアンナ。
「私も、行く。カズトや皆、一緒なら、怖くないから」
「王子の件もあるけど、いいのか?」
「……うん。王子、嫌い。だけど、ミコラの故郷、守りたいから」
俺の心配を他所に、しっかりと頷くキュリア。
「……カズト。決まりで良いよね?」
真剣な顔で俺に確認を求めてくるロミナ。
これに返事をしたら、俺はパーティーのリーダーとして決断した事になる。
……乗り越えられるか?
……戦い抜けるか?
……そして、勝てるか?
俺は自分に問いかけ、
……越えてやるさ。
……戦い抜くさ。
……勝つ。そして、皆無事で帰る。
俺は自分で答え、決意を決める。
そして。
「ああ。皆。力を貸してくれ」
そう皆に願い出たんだ。
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