第五章:貫く想い
第一話:謁見の日
キュリアを何とか説得できた俺は、あの後部屋に帰って状況を説明し、皆に部屋に戻って貰う事にした。
「ほ、本当に大丈夫なのか? また怒り出したりしねーか!?」
なんてミコラが随分ビビってたけど、大丈夫だって念押しして、何とか皆と一緒に向かって貰った。
後で部屋にやってきたロミナも、戻った矢先にしおらしく皆に謝ってきたキュリアの変貌ぶりには驚いたみたいで、
「カズト。どうやってキュリアを説得したの?」
と本当に不思議そうにしてたっけな。
流石に指きりとか俺が美咲と喧嘩した話をした事は伏せて、普通に話を聞いて
因みに昨晩はルッテとの夜更かしも無しにしてもらった。
正直、蜃気楼の塔に美咲の件。それにキュリアの件まで色々あり過ぎて疲れちゃってさ。
とはいえゆっくり眠れたかっていうと、寝付くまで色々と考え過ぎて、ぐっすり寝られたとは言えない。けどまあ、これは仕方ないか。
§ § § § §
翌日。
ミコラがミロに話をして謁見の日が明日に決まったけど、その日の俺のやる事は変わらない。
蜃気楼の塔の情報収集をして、それが終わった後、美咲に逢いに行く。
そんな流れを崩さなかった。
今日のパートナーはキュリア一人。
本当はルッテとアンナの番だったんだけど、昨日の一件もあって、ロミナ達が気を遣い順番を譲ったんだとか。
塔については、王立の施設とかに手掛かりがあったりしないか気になって、昨日の研究館の館長に会いに行って話を聞いたけど、
「国の法により、宮殿にて従事した者は、王立の施設内の事は話せない事になっておるのです」
と言葉を濁されてしまい、結局手掛かりは得られず仕舞い。
とはいえ一般人にも入れない様にしてるだけの理由もあるって事なんだし、この答えには納得するしかないな。
仕方ない。
こっちは明日の謁見の際にでも、施設の利用を願い出てみるか。
残りの時間は昨日行ってない他の区画の図書館とかを巡ろうかと思ったけど、
「カズト。デザート食べたい」
「カズト。買い物、付き合って」
なんて、キュリアが妙なわがままを言ってきたもんだから、その日は諦めて彼女に付き合った。
まあ明日の事を考えたら彼女も憂鬱なんだろうし、少しは気持ちを楽にしてやりたいしな。
夕方はキュリアと別れた後、少しだけミコラの実家に行き、美咲の所に顔を出した。
昨日の今日だったから、どんな顔して逢えばいいか分からなかったけど、結局美咲だけじゃなくミコラも一緒だったから、彼女がキュリアの一件を俺に色々聞いてきて、終始会話のペースを握られっぱなしだったな。
美咲も普段通り楽しげにその話を聞いてたし、会話も何時も通りにしてくれたけど、内心どう思っていたかは分からない。
ただ、俺は昨日の話題に触れずに終われた事に、内心ほっとしていた。
こうして、フィラベに着いて三日目もあっという間に過ぎ、女王との謁見の日当日を迎えたんだ。
§ § § § §
お昼時を過ぎ、俺達は旅の正装とも言える冒険者としての装備を見に纏い、宿に来たミコラと合流した後、宮殿へと歩き出した。
街の大通りを歩いていくと、程なく道は緩やかな階段となっていく。そして宮殿の敷地となるエリアに近づくと、宮殿を囲う様に存在する、シンボルでもある闘技場に、王立博物館や図書館が近づいて来た。
「どの施設も何か歴史を感じるね」
「確かにそうね」
先頭を歩くロミナとフィリーネが感嘆の声も最もだろう。
博物館や図書館の建物は、オリエンタルな雰囲気と共に、どこか時代を感じる歴史建造物感がある。
特に闘技場は、外観から見ても古来からありそうな石造りで、ヒビや風化してできたであろう傷などが外観からはっきりと感じられ、古来からあったと思わせるだけの物があった。
「しかし、随分物々しいのう」
「そりゃ、女王様の住む宮殿だぜ。この辺からは一般人は立ち入り禁止だし、それだけ警護も厳しいからな」
ルッテの感想にミコラが普段通りの軽い感じで返す。
確かに宮殿区画に近づいてから、一気に警護する兵の数がかなり増えた。
景観を大事にしてるのか。
街の構成上、区画を分け隔てる外壁は殆どなくって、やや高い崖位しかない。だからこそのより厳しい警備なんだろうけど、確かにこの物々しさは緊張感を煽るな。
「アンナ。あくまで参考だけど、お前ならこの警備を掻い潜って、宮殿に近づけると思うか?」
隣を歩くアンナにそう小声で問いかけると、彼女は苦笑してこう答えた。
「試してみなければ何とも。ですが、見た限り相当骨が折れる事は、容易に想像がつきます」
アンナの実力でもその感想か。
別に忍び込む訳じゃないけど、暗殺者としての正攻法でも流石に歯応えありすぎって所なんだろう。
ちなみに、こんな会話を交わす中、アシェを首に巻いたキュリアだけは、俯き加減で終始無言のまま。
きっと帰りたい気持ちを抑えるのに必死なんだろうけど、それを感じ取ってか。皆も下手に声は掛けないでいた。
ま、一応心に直接話しかけられるアシェに、フォローは頼んでるけどな。
そうこうする内に周囲の施設群を抜け、噴水のある庭園を抜けると、宮殿の入り口が見えて来たんだけど、近くで見ると結構大きいもんだ。
他国の城なんかは本当に高さがあるんだけど、この宮殿は二階建ての高さしかない。でもその分横に広い建物なんだ。
遠くからだと屋根が独特で少し高いイメージこそあったけど、それほど大きく見えなかったけど、各階の天井まで高さが随分あるんだな。
とはいえ……先程までの施設とは打って変わって、華やかさばかり感じるオリエンタル感溢れる庭園に、真新しく見えるほど整備された建物。こりゃ本気で豪華だ。
色々な物が物珍しくてキョロキョロとしている内に、俺達一行は宮殿の入り口までやって来ると、警備の兵と話していた屈強そうな武闘家風の男がこちらに気づき、深々と頭を下げて来た。
日焼けした白髪混じりのぼさっとした黒髪の人間。年齢は三、四十代って感じか?
フィベラでも見慣れた軽装な服の上から、胸当てや籠手、ナックル、脛当て程度の最低限の装備は、防具としての意味を成すのかって位質素。だけどきっとこれが、実力の裏返しか。
俺は初めて会ったけど、この人からはっきりと武闘家としての実力を強く感じるのは、がたいの良さもさる事ながら、精悍な顔立ちと鋭い視線もあるんだろう。
「お待ちしておりました。聖勇女の皆様。魔王との決戦以来ですかな?」
「はい。お久しぶりにございます。ヴァルク様」
ロミナの言葉に合わせて俺達も軽く頭を下げると、彼は俺とアンナに爽やかな笑みを向けてくる。
「こちらの
「魔王討伐後、共に旅しております仲間にございます」
「先日のマルージュでの一件では五人と
何かを勘繰ったのか。探りを入れるかのようにそう問いかけてきたヴァルクさんに、ロミナは微笑みながらも首を振る。
「いえ。二人とは以前より面識がありまして、マルージュでの一件を終えた後、縁があり仲間として加わって頂きました」
「そうでしたか」
ちらっと彼が俺を見たけど、あまり奇異の目は向けて来ない。聖勇女パーティーに男が一人混じってるってなると、大体変な目で見られるから、ちょっと珍しいな。
実際、視界に入る衛兵達は、ロミナ達に見惚れるかのような羨望の眼差しを向けつつも、俺の存在に首を傾げたり
「女王陛下と王子、王女がお待ちです。こちらへどうぞ」
ヴァルクさんが歩き出したのを見て、俺達も続いて宮殿に入っていく。
しっかしこりゃ中も華やかだ事。
花瓶。絵画。彫刻なんかで飾られた
「あ、あの、ヴァルク様」
と。俺の前を歩くミコラが、珍しく
だけど、後ろから見ても猫のような尻尾をくるくる落ち着きなさそうにしてるし、少し落ち着きないようにも見える。
「はい。何か?」
「あ、実は、そのー……」
歩きを止め、すっと振り返るヴァルクさんに釣られ、皆も足を止める。
後ろの俺からは、彼女の表情は見えない。
けど、何となく耳を少ししおらしく倒し、モジモジしてる仕草は分かった。
そういや、武闘家を志した憧れの相手だもんな。あいつも実はちょっと気があるとか──。
「今度暇な時、手合わせしてほしーなー、なんて……」
……前言撤回。
やっぱりこいつは戦闘バカだ。
実際こんな時そんな事言われると思わなかったのか。肩越しに振り返ったヴァルクさんも一瞬唖然としただろ。
「……聖勇女パーティーきっての斬り込み隊長。Lランクのミコラ様よりそんなお声が掛かるとは」
「ほんに、こんな所で願いでる話ではあるまい」
「だってよー。やっぱヴァルク様めっちゃ強そうなオーラ出てるし。闘技大会二連覇した実力、見てみてーじゃん」
呆れ顔のルッテに素直に本音を語るミコラは、少恥ずかしげに顔を赤くしてる。
お前さぁ。そういう顔は告白する時にする顔だろ? まったく。
「……構いませんよ。是非何処かでお手合わせを」
「やりー!」
嬉しそうな声をあげるミコラに、少し緊張していた一行の緊張が解け、くすりと笑い合う。
ほんと。ミコラは何時も良い意味でも悪い意味でも変わらない。お陰でこういう時に本当に助かるんだよな。
「さて。もうすぐ玉座の間ですが、今のようにあまり硬くならずに」
俺達を見てヴァルクさんも釣られて笑うと、また歩き出す。
まあ緊張するなってのは無理だけど、さっきまでよりはよっぽどマシだな。
さて、女王様や王子達はどんな人達なのか。楽しみにでもするか。
俺はそんな風に気持ちを切り替えると、再び歩き出したロミナ達に続いて、玉座の間に向け歩き出したんだ。
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