第九話:大問題
結局グラダスさんの申し出については一晩考えさせて貰う事にして、この日は一旦お開きとした。
夜は酒場もやってるし、そんな中で話に行くのは迷惑だしさ。
一応、夜中には予定通りルッテとこっそり会って色々したけど、まあそこは無理しない程度に抑えておいた。
流石に彼女も今日は随分気を遣ってくれたけど、それでも中々激しかったけどな……。
§ § § § §
そして翌朝。
俺が目を覚ましたのは、窓から入る陽射しも随分と明るくなった頃だった。
ま、昨日皆には自分のペースで起きたいって伝えてあったから、誰かが起こしにくる事もなかったし、寝不足になりそうな分ゆっくり寝させて貰った。
上半身を起こし、身体を捻ったりしてみる。流石にまだ身体が重いけど、痛みは随分とマシになったし、今日は買い出し位はいけそうだな。
……しかし。
ふっと、俺は寝起きにある事を思い出し、再びベッドに横になると、両手を頭の後ろに回し、物思いに
昨日のあの夢、一体何だったんだ?
俺なら救える相手。
森霊族らしき少女、キャム。
知らない男の声もしたけど……一体何を示唆したんだ?
確かに以前も、何度か夢だったり、夢のような世界だったりで何かを視た事はあった。
生死の狭間でシャリアの弟、シャルムに助けられたり。
別の場所にいたロミナ達の事だったり。
両親だった
とはいえ、ここまではっきりと何者かに道を指し示されるような夢は初めてだった。
でも。俺はどうやってその少女を助けりゃいいんだ?
何処にいるかすら知らない、顔すら見た事のない相手。それが何で俺じゃないと救えないんだ?
大体、声を掛けてきた男は何者なんだ?
正直謎だらけで、あまりにもすっきりしない夢。
脈絡もなければどうすりゃいいかもわからない。だからこそ、まだこの事は誰にも話せてはいない。
何時か勝手に首を突っ込む事になるのか。
そうなった時、皆を危険に晒したりしないのか。
……うーん。
「まずは、飯にするか」
考えすぎて鬱々とするのが嫌になった俺は、一旦頭を振ってその事を忘れると、部屋を出て一階に降りていったんだけど。
そこはそこで、色々と大問題になってたんだ。
§ § § § §
「は!? 何言ってんだよおっさん!」
俺が宿の階段を降りていく途中聞こえたのは、ミコラがあり得ないと言わんばかりの叫びだった。
ん?
何があったんだ?
俺は階段を降りる途中で足を止め、その会話に耳を傾けてみた。
「いいだろ? な? 頼む!」
「絶対、だめ」
「流石にそれは無茶じゃ」
「だけどカズトも満更じゃなさそうだったんだよ?」
「ですが、昨晩
「そりゃあんな出来事の後で言いそびれただけだろ」
「そういう話はちゃんとカズトも交えてすべきでしょう。幾らグラダス様達の申し出とはいえ、安易に受けられませんわ」
「つまり、カズトが良いなら良いって事かい?」
「あ、えっと、それはその……」
ちらちらと俺の名前が出てきたけど……もしかして、昨日話してたクエスト報酬の件か?
まったく。
グラダスさん達も随分気持ちが
あ、もしかしてあの四人組が急かしてるのか? 一応リーダーの奴の治療費の話とかもあるかもしれないし。
そんな事を思いつつ、俺は再び階段を降り酒場に足を運んだ。
勿論、今までのは聞かなかった振りを決め込んで。
「よ。おはよう。何があった……ん、だ?」
俺は普段通りを心掛けて、皆に挨拶をしようとしたんだけど。目に飛び込んできた異様な光景に、思わず言葉を失った。
そこに見えたのは、カウンター越しにグラダスさん達に噛み付かんとする必死な形相の仲間達と、そんな彼女達に困り顔を向けるグラダスさんとタニスさん。
何でそんな食って掛かってるんだ? って思わず唖然とした次の瞬間。
「カズト! ずっと、一緒だよね!?」
珍しく声を張り、キュリアが涙声で俺の両腕をぐっと掴んで懇願してきたけど、それだけじゃない。
「おめーよー! 昨日あんな事言ってたのに、もうパーティー抜ける気か!?」
……は?
「カズト。貴方は私達との旅が嫌だったとでも言うの!?」
……へ?
「きっと何かの間違いでございますよね!?」
いや、その。
何が間違いなんだ?
「カズト! あなたがリュナと結婚したいって本当なの!?」
これまた悲痛な顔で俺に叫んだロミナの言葉を聞いた瞬間。
「……あ」
脳裏に過った昨日の出来事を思い出し、俺は何となく状況を察して呆れ顔になる。
グラダスさん達、まさかあの話を……。
そんな俺の心を代弁するように、グラダスさん達は笑顔になりこう口を開いた。
「なあカズト。お前リュナと結婚するよな?」
「昨日あの
……おいおいおいおい。
どんだけこの二人、押しが強いんだよ!?
俺が思わずため息を漏らし頭を抱えると、唯一席に座ったまま、動向を落ち着いて見守っていたルッテが楽しげにクスクスと笑ってる。テーブルの上でごろっとしてるアシェも呆れ顔だ。
「……グラダスさん」
「何だ?」
「俺、昨日の時点でOKなんてしてないですよね?」
「だけど否定もしてなかったろ?」
「あれだけ言い訳並べたんですよ? 少しは察しませんか普通」
「だって、娘が良いなら良いんでしょ?」
「昨日、そうは言ってないって伝えましたよね!?」
「ん? そうだったか? だけど聖勇女様達の誰とも付き合ってないし、皆を仲間としか思ってないんだろ?」
「そりゃそうですけど、だからリュナさんを選ぶって話とは別ですよね!?」
思わず同意を得ようと皆に視線を向けたんだけど、何故か皆は声も上げず、呆然としたまま俺を見てる。
は?
こっちはこっちで何でこんな反応なんだ!?
予想外の展開に
「だけど、うちの娘は気立ても良いし、可愛いし最高だぞ?」
「そ、それは何となくわかりますけど」
「でしょ? だったら良いじゃない」
「いやいやいやいや。良くないですよ」
「どうしてだ?」
「俺、ここに来てまだ三日目ですよ!?」
「良いじゃない。恋は一目惚れからも始まるものよ?」
「一目惚れしてませんから! それに実際、俺もリュナさんも、お互いの事殆ど知りませんし」
「それってつまり、私の事を知ったらカズトは結婚を考えてくれるの?」
「そういうわけじゃ──って、え?」
突然違う声が背後から耳に届き、俺達が振り返ると、買い出しから戻ったのか。両手に食材を持ったリュナさんが立っていた。
彼女はカウンターに荷物を置きながら俺に笑顔を向けた後、胸の前で両腕を組み、呆れ顔で両親を見る。
「まったく。お
「あ、いや、その。お前はずっと浮いた話もないしだな」
「あのねー。恋愛だって結婚だって、したい時に相手がいたらするわよ」
「だけど、お
「別に関係ないわよ。娘の好きにさせてよ。二人は口を挟まないで」
「そうはいかん。俺達だってお前の幸せをだな──」
「お
食い下がるグラダスさんを一喝したリュナさんは、大きなため息を漏らす。
この感じ……きっとこの両親故に、苦労してる部分もあるんだろうな。
なんて同情した目を向けていると。
「じゃあ、今日は一日私がカズトと二人で出掛けるから。そこで私が気に入ったら、その話をしても良いから。それでもいい?」
なんて、リュナさんは突然そんな爆弾発言を口にしたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます