第八話:リーダー
「……は?」
思わず耳を疑い気の抜けた声を返したけど、そりゃ仕方ないだろ。
聖勇女パーティーに戻っただけの俺が、リーダーってどういう事だよ?
あまりに拍子抜けした顔をしてるのが滑稽だったのか。それとも俺のあまりに予想通り過ぎる反応に呆れたのか。皆の表情が、どちらともとれる笑みに変わる。
「あ、勿論私達は聖勇女パーティーだし、カズトにリーダー権限を渡して、勝手にパーティー解散とかされちゃうのは嫌。だから表向きのリーダーは私のままだよ。だけど、パーティーとして何かを決断する時には、出来る限りカズトにリーダーとして決めて貰おうって、皆で決めたの」
「は? 何でそうなったんだよ?」
「決まってるわ。貴方は間違いなく、今回のように勝手に人助けしたり、お節介を焼くからよ」
俺の抗議を含んだ反応に、まったくと言わんばかりに肩を竦めたフィリーネ。そんな彼女に続くように、ルッテがにんまりと笑う。
「勘違いするでないぞ。それを嫌じゃと言うておるのではない。そんなお主の優しさを、我等が理解し、認めておるだけじゃ」
「いや、認めるって……」
「カズト、皆に優しい。それ、良いことだよ?」
「いやいやキュリア。そうだとしてもだ。お前らが嫌って思う決断をするかもしれないだろ」
「そんな事はございませんよ。
「そりゃ買い被りだって。俺は散々身勝手してきただろ? 前だって、勝手に俺がいない方が皆幸せになれるって、勝手にパーティー解散したりしただろ? な? ミコラ」
「ま、確かにそうだけど、お前は絶対に考えてくれるだろ。俺達の為にどうするのがいいかってさ。確かにパーティー解散された時の記憶が蘇った時、少なからずショックだったけどよ。お前はお前なりに俺達の事考えてくれたのも話してくれたから、あれに恨みも何も持っちゃいねーよ」
「にしたって……」
「……カズト。あなたは私達なんかよりよっぽど優しいよ。今日、皆から昨日の夜にカズトが嫌な思いをしたのを聞いたけど、私だったらきっと、そんな相手を助けたいなんて、到底思えないもん」
ロミナが彼らに対し少しだけ不満げな顔をすると、キュリアも大きく頷いて見せる。
「私も、嫌だった。でも、ロミナやフィリーネ、言ってくれたの。カズトなら、あの人達助けたら、喜ぶって。だから、頑張った」
「そうね。ああ言わなかったら、きっとキュリアは不貞腐れたまま、助けようともしなかったわね」
「ミコラもそうじゃ。ワイバーンに乗って助けに行く際、ぶーぶーと文句ばかりたれておったしの」
「当ったり前だろ! 俺たちゃ別にあいつらを守る神様でも何でもねーし。それでなくたってあの蠍は、ソロで倒せって言われたらぜってーきちーんだぜ。もしカズトじゃなくあいつらが戦ってたら、間違いなく放っておいたぜ」
まあ、確かに。
重く鋭い鋏と尾の連続攻撃に、素早く間合いを詰められてペースも掴まれっぱなしだったし。ミコラ達が来た後は奴の狙いが逸れて、耐暑対策もできたから何とかなったけど、正直あの時そのまま一人で戦ってたらヤバかったのは確かだ。
「カズト。
「私も、カズト、リーダーで、いいよ」
「俺も異論はねー。前にロミナに言われた時も納得したし」
「あまり気張らずとも、ちゃんと意見したい時はするし、否定する時はするわ。だから安心なさい」
「そうじゃ。我等もお主をリーダーとして頼るからこそ、我等にも仲間として尋ね、頼れば良いだけじゃ」
「急な話だとは思うけど……どうかな?」
アンナが彼女らしい真摯さを見せると、皆もまた様子を伺うように、俺の顔色を伺ってくる。
その視線の重さに、俺は目を泳がせると、視線をあらぬ方に向け頭を掻く。
……正直、今までそんな事を考えた事なんてなかった。
俺は皆のパーティーに戻れて、皆の力になれればって位しか考えてなかったし、昔パーティーを組んでいた時だって、できる限りは彼女達の意見に従ってただけ。
自分にリーダーの素質なんて、感じた事なんか全くないんだから。
「……カズト。嫌?」
キュリアの不安そうな声にちらりと目線だけ向けると、少し不安そうな顔をしてる。っていうか、俺が考え込んでたせいで、何時の間にか皆同じような顔してるじゃないか。
「それ程までに悩むなら、勿論無理はしなくてもいいわ」
「そうだぜ。嫌なら嫌。それで良いって」
「貴方様がそのような気持ちになれないのでしたら、無理強いは致しませんから」
「そうだよ。今のは私達の本音。だけど、カズトの本音も聞きたいの」
……なんて言ってくれるけどさ。
「……ったく」
俺はふっと、自嘲してしまう。
この中でひとり、にこにことしたままのルッテ。彼女を見て、何となく察してしまったから。
「なあ、ルッテ」
「何じゃ?」
「お前今、こう思ってるよな? どうせ、カズトじゃ断れないだろって」
「どうじゃろうな。ただ、こうは思っておるぞ。お主はどうせ、お人好しじゃ」
ルッテの言葉に皆の視線が彼女に集まるけど、物怖じする事なくじっと俺を見たまま。
……お人好しかはわからないけど。
俺は、この申し出を断れないって、自分でも何となく腹を括ってしまっていた。
だって俺は、勝手にこいつらの運命に絡んで、勝手に未来を変えたんだ。その責任を感じてないかといえば嘘になるし。
何より悔しいけど。
この申し出自体、皆に頼られてるような気がして、内心嬉しくなっている自分に気づいたんだよ。
ほんと。
俺って仲間であるこいつらに甘過ぎだな。
「……いいか、皆。何かを決断する時は本音で話してくれ。俺はきっと、お前達が傷付かないようにとか、お前達にとってこうが良いだろって勝手に考える。だけどそれが不満にだってなるはずだし」
「うん」
答えを濁した、だけど否定をしない俺の言葉にロミナを始め、皆が頷く。
……うん。
まあ、こいつらが良いって言うなら構わないさ。
「後、きっと俺は今日みたいに勝手に誰かを助けようとしたりするかもしれない。だけどそれはリーダーとしてじゃなく、個人の決断だ。だからお前達が無理に合わせるな」
「ま、いいけどよ。その代わりお前もちゃんと俺達を頼れよな」
「それはわかってる。とはいえ、基本リーダーはロミナだ。俺はあまり気負わずのんびりしとくよ」
「それで構わんじゃろ。但しあまり無茶な決断はするでないぞ? マルージュでの一件は、流石に一歩間違えば諸刃じゃからの」
「あ、ああ。善処しとく」
ルッテの悪戯っぽい笑みと言葉に、少しバツが悪くなり頭を掻く。
マルージュの一件……ダラム王の部下が仲間を侮辱したもんで俺がキレた時の事だよな。
ま、まあ、あれは確かにやり過ぎっちゃそうだよな。今考えると本当に馬鹿やったなって思うし……。
ただ、そんな俺を見ながら、こいつらは笑みを向けてくれる。
今日だって無茶をして叱られるべき所だってのに。
ほんと。
お前らも俺に甘過ぎだよ。
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