第四話:ちょっとした提案
「どうやってここまで逃げてきたの?」
「うん。お父さんとお母さんが私を地下の隠し倉庫に押しやって、私だけ助けてくれたの。数日したら魔王軍も、村の皆もいなくって。それで私は必死に森を彷徨い歩いたの。でも空腹と疲労で街道に出たところで倒れちゃって。その時に別の街から逃げてきた人達に助けられたの。パージの港も混乱状態だったけど、何とか港を出る船に乗せてもらえて、それでそのままここにやってこれたんだ」
「では、今はこの街で暮らしておるのか?」
「うん。
「そっか。優しそうな人達に引き取られたんだね」
「うん。今じゃ本当の両親だって思ってるし。でもロミナとルッテも凄いよね。聖勇女パーティーが魔王を倒したって噂は聞いてたけど、その中に二人の名前があるのを聞いた時は本当に驚いたんだから」
「あれは本当に
「ロミナは昔っからそうやって謙遜するよねー。もっと自信持ったら良いのに。ね? ルッテ」
「それもそうじゃが、こんなロミナじゃからこそ、お主もずっと友であれたんじゃろ?」
「確かにね。今でもカサンドラとだけは絶対友達になれないって思うもの」
宿の亭主の厚意で、リュナさんと俺達一行は酒場の奥まった所にある個室に案内され、そこで別席に座り話し込むロミナ達三人の想い出話を聞いていた。
時に憂いを見せ、時に気丈に笑い合うロミナ、ルッテ、リュナさんの三人。
そんな彼女達が想い出話に華を咲かせる中、残された俺達は別テーブルでその様子を見守りつつ、頼んだ食事を口にしていた。
「凄く、美味しい」
「な? やっぱ間違いなかったろ。ステーキの焼き加減も味付けも最高だぜ!」
「まったく。貴方達は食べる事にしか興味がないのかしら」
なんて、向こうの三人の雰囲気などお構いなしに、夢中になって食事に舌鼓を打つキュリアとミコラ。そしてテーブルの上のアシェ。
俺とフィリーネ、アンナはそんな三人を見て、顔を合わせ呆れた笑みを交わす。
まあでも、一緒の部屋だし、これ位気にせずにいてやった方が、ロミナ達もきっと気持ちも楽だろう。
……しっかし。
この部屋、暑い国らしく向こうとの食堂との仕切りは扉じゃなくカーテンのような布なんだけど。
「なあなあ。あそこにいるのは本当に聖勇女パーティーなのか?」
「確か五人組って聞いてたけど」
「それになんか変な男も一緒だったぞ?」
「じゃあ違うのか?」
「だけどリュナちゃんはロミナって呼んでたぜ」
なんて、向こうから聞こえるひそひそ声と共に、時折ちらちらと布をほんの少しずらして覗き込む奴らがいるから落ち着かない。
まあ、彼女達が聖勇女パーティーと呼ばれるようになってから、パーティーを追放されるまでにこういう機会はそこそこあったからさ。だからこそ魔王が倒れた今、旅が窮屈にならないよう、彼女達の名があまり
「あんた達。これ以上そんな事してたら、ここを
「タ、タニスさん!? す、すいません!」
「まったく……。リュナ、入るよ」
と、そんな中、布を避け入って来たのは、宿の受付もしていた人間の女将さん、タニスさんだった。
中々恰幅のいい彼女もまた、後ろ髪をポニーテールに束ね、エプロンを付けている。
「はいよ。これがグラダス亭特製モーサン焼き。是非堪能してちょうだい」
そこに置かれたのは大きめの魚を捌いて香草焼きにした食べ物。魚を焼いた独特の香りが食欲を誘うな。
「おっしゃー! いっただっきまーす!」
食い気が止まらないミコラが早速口にしては満面の笑みを浮かべてる。味はこれで保証済みって感じだな。
「何かすいません。色々とお気遣い頂いて」
「良いのよー。まさか聖勇女様がリュナの同郷だなんて知らなかったもの」
「でも、リュナさんをお借りしては、お店が大変じゃないですか?」
「まあね。でも久々の再会なんでしょ? 思い出話も沢山あるだろうし、お店はこっちで何とかするわ」
俺との会話に疲れも見せず、タニスさんは笑ってくれるけど。さっき見た限り、この店は亭主である獣人族のグラダスさんとタニスさん、そしてリュナさんの三人で切り盛りしてるっぽかったし、流石にそれだと一人いないだけでも大変だよな。
……そうだ。
「あの、もしよろしければ、店のお手伝いでもしましょうか?」
「え?」
俺が口を開くと、タニスさんだけじゃなく、隣にいたフィリーネやアンナまで驚いた顔をした。
「本職ではありませんけど、料理運んだりとかなら少しはお役に立てると思いますし。如何でしょう?」
「良いのよ。大体あなた達はリュナの客人みたいなものじゃない」
「だからこそです。リュナさんとロミナ達も募る話もあるでしょうし、ゆっくり話をさせてあげたいんです。それにじっとしてるのも苦手なんで」
折角の再会なんだし、ちゃんと時間を作ってあげたいのも本音。
そして、少しこの状況を持て余してたのも実は本音だ。だったら身体動かしていた方が落ち着くし、なんて思ってさ。
「でしたら、
俺の言葉に続いたのはアンナ。
メイドだった彼女ならこういうのは適任か。
何となく変な奴に絡まれないかはちょっと心配だけど、まあその辺もうまくやってくれそうな気はする。
「そうねぇ……」
少し首を捻り考え込んでいたタニスさんだったけど、ちらちらと俺とアンナに目を向けた後。
「じゃあ、折角だし、お願いしようかしら」
そう言って、俺達二人ウィンクしてくれた。
「私達も手伝った方が良いかしら?」
相変わらず気にせず飯を食っている二人を一瞥した後、フィリーネがそう気を遣って声をかけてきたけど、俺は彼女に首を振った。
「いや。フィリーネはミコラやキュリアと一緒にのんびりしててくれ。もし飯も食べ終わって時間持て余すようなら、悪いけど駅馬車の予約を頼んでもいいか?」
「ええ、分かったわ。二人共無理せずにね」
「ちゃんとお前の分食っとくから、こっちは気にしなくて良いからな」
「カズト。頑張って」
フィリーネに続き、魚を頬張りながら、ミコラとキュリアも声を掛けてくる。って、本気でミコラの食い意地がやばいな。よくあれであんなに痩せてるのか不思議だよ。
「ああ。じゃ、アンナ。行くか」
「はい」
思わずまたも呆れ笑いをした俺は、アンナと共に席を立つと、タニスさんに続いて酒場に向かったんだ。
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