第一章:故郷の友
第一話:一緒だからこそ
「ドゥウォート様、ここまでありがとうございました」
「なーに。シャリアの頼みだ。気にするな。アンナも気をつけて旅をしろよ。聖勇パーティーの皆様、どうかアンナをよろしくお願いいたします」
「はい。師匠によろしく伝えてください」
港町ディガットが見える沿岸に船を止め、俺達は甲板の上で船長であるドゥウォートさんに皆で頭を下げた。
彼は以前の
ディガットの港はそこまで大きくないため、大型帆船では桟橋に寄る事ができない。
だからここからは、小舟に乗り換え港まで行くことになる。
「では、そろそろ乗り込むかのう」
「ええ、そうしましょ」
「よっしゃー! じゃ、先に行くぜ!」
「カズト達も、行こ?」
「ああ、そうだな」
俺達がぞろぞろと小船に降りる縄梯子に向かおうとした時。
「ああ、カズト。ちょっと待ってくれ」
と、俺だけドゥウォートさんに呼び止められた。
「はい。何かありましたか?」
歩みを止め振り返った俺に対し、ドゥウォートさんは先に向かった皆との距離が空いたのを確認すると、がっと俺に肩を組むように覆いかぶさり、耳元に顔を寄せて、こんな事を言ってきた。
「シャリアからの伝言だ。『あいつらとうまくやんな。あと、心が決まったら教えるんだよ』だそうだ」
彼は褐色の顔をにんまりとさせてるけど……心が決まったら?
俺が思わず首を傾げると、ドゥウォートさんは「はっはっはっ」っと笑った後、
「まあ、しっかり気張るんだな。あいつもお前の幸せを願ってるようだしな」
なんて言って離れると、強く背中をバンバンと叩いてきた。
ちょっと痛いって! って本気で思ったけど、まあそこは流石に我慢した。
とはいえ。そりゃあいつらと旅できてるだけで幸せだし、気張る位の心構えや覚悟なんてできてるけど。
シャリアは今更何言ってんだ?
ったく……。
§ § § § §
俺達は桟橋に降りると、小船を操船してくれた船員達を見送った後、晴れてディガットの町に足を踏み入れた。
この世界は結構国によって街並みも随分違うんだけど、砂浜がそのままファイラル砂漠が繋がるここディガットは、砂漠の国フィベイルらしさをしっかりと感じさせているな。
南国っぽさのあるウィバンより、よりジリジリとした暑さを感じるその街は、切り出した石を敷き詰めるように町の基礎にしている。
その上に立つ家々は木造や石造りが多いけど、食べ物屋や食材の店なんかは、出店のような屋根だけあるオープンな店舗が多い。
街の人や冒険者も、ウィバン以上の暑さに軽装な人が多く、結構な人達が日焼けしてるのか、褐色の肌を見せている。
今は陽も回って夕方が近づいてきているんだけど、それでも弱まる気配のない陽射しは、きっと土地柄からくる暑さでそう感じさせる所もあるんだろうな。
因みにこの世界の種族にもやっぱり日焼けのしやすさ、しにくさってのがあるみたいで、天翔族や獣人族なんかは人間と同じで日焼けしやすいみたいだけど、森霊族は日焼けにしくいんだって。亜神族に至っては日焼けなんてしないらしい。
「本当に暑いわね。こんな中で日焼けしないなんて。亜神族が羨ましいわ」
なんて言いながら、暑さにげんなりしつつ魔導帽のつばを抑え日差しを避けるフィリーネに、
「はっはっはっ。我の美貌はそうは変わらん」
なんて笑顔を見せるルッテの顔は、絶対煽ってるだろって思う会心の笑みだった。
ま、こんなので喧嘩になる程のパーティーじゃないけどさ。
「暑い。早く、休みたい」
「そうだね。まずは今晩の宿を決めて、少しゆっくりしようか」
既にへばりかけているキュリアに、くすっと笑ったロミナだけど、彼女もじんわり額に汗を滲ませてるし、俺だって既にこの暑さで汗が流れてきてる。
こりゃ、耐暑の付与がされた防具でも探さないとヤバそうだな。
「なあなあ。だったらあそこの宿にしようぜ!」
街中をキョロキョロと見回したミコラが指差した先には、石造りの三階建ての建物があった。
何々? 『冒険者の宿 グラダス亭』か。
丁度すぐ向かいが冒険者ギルドで色々便利そうだし、建物の雰囲気的にもやや新しめだから過ごしやすいかもな。
「俺は構わないけど、反対の奴はいるか?」
「
「私も異論はないわ」
「私も大丈夫」
「うん。いいよ」
「我も構わん。じゃが、何故あそこを選んだのじゃ?」
「決まってるだろ? 美味そうな飯の匂いがしたから」
ルッテの問いかけにドヤ顔を見せるミコラに、思わず皆して呆れ笑いを見せたけど、実際こいつのこういう嗅覚は馬鹿にできないんだよな。選んだ店大抵美味いし。
「ロミナ。早く、行こ?」
「そうだね。じゃ、行こう」
もう我慢できないといった顔で、彼女の服の裾を引っ張り催促するキュリアに釣られて、俺達はその宿に入って行ったんだ。
§ § § § §
グラダス亭は、冒険者の宿を名乗るだけあって、中々に賑わっていた。
一階はフロント兼酒場になっていて、食事なんかはここで取れる。そして二階より上が宿になっている。
チェックインの代表者は敢えて俺にして、宿帳にさらさらと名前を書く。
一応パーティーリーダーはロミナなんだけど、その名前を出すと大体の宿の人が騒ぎ立つからな。
聖勇女パーティーって、名は大陸に響き渡ってるけど、結局目撃してる人って限られてるし、名乗らなきゃ意外に一部の場所じゃなきゃ気づかれない事も多いんだよ。
だから今までもウィバンなんかで目立たずに済んでたって訳。
まあ、祝典をしたロムダートやマルージュでは、今じゃ有名人なんだけどさ。
「それじゃ、ゆっくりしてね」
無事部屋を確保した俺達は、気前の良さそうな女将さんに頭を下げると、二階に上がり一旦それぞれの部屋に入りゆっくりする事にした。
勿論女子との旅。
昔と同じように、俺はこじんまりした個室に、彼女達は六人が同時に休める大部屋と別々の部屋。
やや宿として
っていうか、キュリアじゃないけど、さっきまでの暑さで流石にぐったりだな。
マジで耐熱性の道着や袴が欲しいけど、あまり大きくないこの街であるもんなのか?
少し陽が落ちたら探しに出てみるか。
バックパックをテーブルの側に置き、中からタオルを取り出すと、上半身をはだけて汗を拭う。
ああ、やっとここれで落ち着きそう──。
「カズト。こっちの部屋、来よ?」
「キュリア。勝手に部屋を開けてはカズトに怒られ──」
と。
突然ノックもなく部屋のドアが開き、現れたキュリアとアンナと目が合った。
……えっと?
アンナは一気に。キュリアはほんのり顔を赤らめたまま。二人してじーっと俺を見てくるけど……って、何でそんなガン見なんだよ!?
「ちょ!? お、お前らせめてノック位しろよ!」
「は、はい! 大変失礼致しました! キュリア。一度外に」
「……」
慌てふためくアンナに促されるまま部屋の外に出た二人だったけど……キュリアよ。お前目線くらい逸らせって。恥ずかしい。
ほんと、一人旅じゃないとこういう事があるから大変なんだよな。
ちゃんと後で言っておかないと。上半身ならまだしも、風呂上がりとかで見られたら目も当てられない……って、以前フィリーネの時にもそんなのあったな。
やっぱ、そろそろちゃんと鍵くらい掛けるべきかな……。
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