第41話 ヒーロー参上!

 2階から飛び降りながら変身をした華たちは、家の周りのゾンビを掃討した。

 さらにコンルの氷でバリケードをつくり、家を安全地帯にすると、すぐに華は児童館へ走り出す。

 だが、児童館まで意外と距離がある。

 見かねてコンルが華を抱き上げ、飛んで向かうが、視界が雨と夜で悪すぎる。


「ハナ、児童館は?」

「あっち」

「あっち?」

「指の方、見て! ほら、そこ! あのレンガの建物!」


 指示して飛んでもらうが、どうにも華は横抱きが慣れない。


「なんか、抱え方、考えてもらおうかな……」

「なんでですか!? 僕はハナの姿がマジマジと見れて、最高です」

「変態だかんな、それ。ふつーに」

「ハナに言われたくありません」


 何度目かのやり取りの中、華は暗闇によく目を凝らした。


「……いた。まだゾンビなってねーのかよ」


 小雨が降る上空から見つけたのは、追い詰められている先輩方だ。

 たくさんの子ゾンに追い詰められているが、手元にはバールが。


 よくあるよね、バールって!


 華は感心しながらも、戦う彼らが虫の息なのを確認する。


「めんどくせ」

「妖怪ハンターになるんですよね?」

「……なる!」


 颯爽とコンルの腕から飛び降りた華は、着地と同時に子ゾンを斬っていく。

 コンルは上空から氷の弾丸で倒していくようだ。


「慧、状況!」

『多数が児童館に到達済。自衛隊、間に合ってない。どっちか行ったほうがいい』

「コンル、あたし、妖怪ハンターすっから、あんたは児童館にバリケードね」

「わかりました。では、先に向かいます!」


 跳ね回る子ゾンは、本当に素早い。

 四方八方から飛んでくるのが、また、気持ちが悪い!(褒め言葉)


 華は刀に紫の炎を移すと、頭のなかで音楽をかける。

 いつも練習で聴いていた飽きた曲ではない。

 華が好きなリンジー・スターリング、Roundtable Rivalをかける。ロックとバイオリンが掛け合わさった大好きな一曲だ。


 つま先立ちでたった華は、刀でリボンをリズミカルに地面に叩く。

 ぼうと紫の火柱が上がるなか、それに向かって、子ゾンが飛び込んだ。


 光に群がった結果、燃えたのを見て躊躇し出す子ゾンだが、標的をすぐに華に変えた。


 飛びかかってくる子ゾンに合わせ、水平にリボンを回していく。リンジーのように足を振り上げ、蹴り上げながら、大きく体を使い、クルクルと自身を回転させる。

 炎が華の体をまとうように、リボンが泳ぐ。

 炎を巻きつけるように肘を伸ばし、地面を這わせて、炎の円を延々と描く。

 軽やかなステップを踏みながら、Y字バランスをとると、切り替えた方向は真後ろだ。


 子ゾンも知能がある。

 華の背後からの攻撃に変えたのだ。

 だが、どう攻撃されようと、華の回す腕は止まらない。


 後方にはぐにゃりと反った体でリボンを回し、燃やしていく。

 そのまま左手をつき、逆立ちをしながら、地面に立ち上がり、軽く跳ねる。

 大振りに回ったリボンは、子ゾンを燃やし、華が3歩目の着地をしたとき、もう一本の火柱が上がった。


 右足を跳ね上げ、体を上下にぐるりと回す。

 まるで左足が地面に刺さった軸のように、上半身がぐるりと回り、上空にリボンを放り出した。


 すぐに降ってきた子ゾンが燃えながら砂になっていく。

 雨と共に落ちてくる砂にも気を止めず、地面に寝そべるように側転と開脚を合わせリボンを流す。


 ぐにゃりと足首から肩をそわすように立ち上がったときには、この近くの子ゾンは燃やし尽くしたようだ。

 辺りを照らすように上がる紫の炎のなか、華はポーズをしていた自分に咳払いをしつつ、先輩に振り返る。

 怪我などないかと見るが、彼らは手を叩いて喜んでいた。


「「すげー!!!」」


 だがその手には、しっかりスマホがある。

 もちろん、カメラがこちらに向いて、だ。


「ちょ……撮られてた……慧、どうしたらいい……?」

『華たちが守ってくれる人って証明になるから黙ってた』

「マジかよ……そっちかよ……」


 華はカメラに向かって刀をかざす。


「ほら、守ってやっから、児童会館までダッシュ、ダーッシュ!」


 ──正義の味方にしては、かなり強引なやり方だが、スタイリッシュな正義の味方になったのは、間違いない。はず!


 その頃、先に児童館に着いたコンルだが、困惑のなか、空の上から見下ろしていた。

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