第20話 ライバル、登場!

 スマホが震える。

 いつもはラジオが起こしてくれるが、たまにはスマホの震えで起きるのもいいかもしれない。


「……いてて……まじ、あの強化魔法、もう二度とやらねぇ……」


 時間が経つほどバッキバキに。

 寝ている間も寝返りが満足にうてなかったほどだ。

 とはいえ、久々のベッドは気持ちがよかった。

 あれだけ活躍した日なのだから、たまには体を労ってあげてもいいだろう。


 しかし、大怪我はしなかった分、怪人からの衝撃が、体に蓄積されている。

 昨日よりもだいぶマシにはなっているが、ぎこちなさが抜けない。


「ふぁーーーー! あーーー……」


 ベッドから起きて、寝間着から、ジャージに着替えていくが、部屋の中が少し寂しい。

 いつもは見えるところにある防具たちが、部屋にないからだ。


 昨日から、すべてアンゴーが管理してくれることになった。泥まみれの制服すらシワひとつなく綺麗にしてくれるアンゴーには、感謝しかない。


「アンゴーに人参、用意しなきゃ……柔く煮てやろう……」


 今日会った時に食べてもらえたらと考えつつ、華はもう一度、大きく背伸びをした。


「よし、軽く、流すか……」


 袋にしまってある木刀を背負い、寒いのでタオルを首に巻きつけてから、外へと急ぐ。

 流れとしては、村の中をランニングした後、柔軟、木刀で素振りで、朝練終了予定。


 どこまで走るかは決めていなかったが、玄関を出て、ふと思う。

 昨日、怪人を倒した場所まで行ってみよう。

 決めると、ランニングルートを構築していく。

 昨日は地下から帰ってきたが、普通に走れば30分程度だろうか。

 ニシ商店を過ぎて、村営のグラウンドを越えて、サイクリングロードに入って、防風林の細道を抜けていけばたどり着くはずだ。


 霧が少し濃いせいか、物陰が黒くにじむ。

 昨日の、黒い人影の話を思い出し、華は視線を泳がすが、あくまで影でしかない。


 実物を見てみたいと思っているうちに、太陽が高くなり、霧も薄まっていく。


 今日も晴れそうだ。

 思えばしばらく雨が降っていない。

 今年は水不足の年だった。

 季節外れの台風が来なければいいと、華は思う。


「……飲み物忘れた……」


 息が白い。

 体が温まってきた証拠だ。

 予定通り、サイクリングロードを走っていく。

 横の小川は、家の裏の小川である。

 ここまで来ると、少し水かさが増す気がする。

 小鳥が飛び立つのを眺めながら、ススキが季節を彩っている。だが、あまり風情は感じられない。


 ぴったり30分。

 昨日、戦った牧草地が現れた。

 コンルでいうキーパーが現れた土地は、数日、立ち入り禁止となるため、黄色のテープが張り巡らされている。


「やっぱ、牧草、傷んじゃってる……」


 召喚したモンスターが復活しないかを見るためだが、畑の手入れにすぐ入れないのは困るだろうな、とふわりと思う。


 とはいえ、黄色いテープが貼られているのみで、監視する人も、誰もいない。

 見上げてもみたが、ドローンもいない。


 確かに村人は『入るな』と言われれば、入ることはない。

 それでも、復活してきたモンスターの監視はしてほしい気持ちもある。


「……ま、危険じゃないってことか」


 華はその場で深呼吸を数回繰り返す。

 息を整えつつ、柔軟体操に入る。


 じっくり筋肉をほぐしながら、体のこわばりを取っていく───


 木刀の素振りまで終えたところで、スマホが震えた。

 7時15分。朝ごはんの時間だ。

 華はすっかりほぐれた身体で、来た道を再び走りながら戻りだした。


 ──が、村営グラウンドを通りすぎたときだ。


「三条さん、お待ちなさい」


 華を呼び止める声がする。


 あー! 止まりたくない。

 だけど、止まらないと、あとが怖い……!


 華は諦めて、振り返った。


 予想通り、華を呼び止めたのは、小中学いっしょのクラスメイト・斉藤深玲さいとう みれだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る