おいつづけるもの
巴さんの手伝いに行ってくるわ。
台所へと向かうりんごの妖精を呼び止められなかった九尾の妖狐。わしゃわしゃと、艶やかで柔らかい銀色の長髪を片手で乱暴に掻き回してのち、顔だけを銀杏へと向ける。
恨みがましい目つきで。
わかっていた。
りんごの妖精と銀杏。同じ植物同士言葉を行き交わせたのだろう。
不甲斐ない自分にさっさと手を伸ばせと蹴り飛ばす為に。
言葉を行き交わせたことなどはないが、心は通じていると思い、愚痴をこぼしてしまったことは多々数えきれないほどある。
主にあいつへの態度や言動に関して。
不安だったのだ。
共に居ようが通じ合っていようが、楽しんでいる時でさえ、いつだって、不安だった。
自分はあいつに相応しいのか。と。
互いの長老たちに認められなかった時。
あいつが消える時。
疑念は確信に変わった。
相応しくないから引き離された。
このままの自分ではまた認められないまま、同じことを繰り返すだけだ、と。
だから、美も知も才も技も想も。
己に宿ってないものでさえ、己の血肉として廻り流れさせてみせると決めたのだ。
相応しい相棒になって、堂々と迎えに行く、と。
月日が流れて今や、堂々とあいつの相棒だと胸を張れる自分にはなれた。
長老たちには。
あいつにも。
(いや。嘘だ)
りんごの妖精に美しくなれると言われた時、歓喜に打ち震えただろう。
本当はまだ足りないと思っていただろう。
まだまだまだまだまだ。ぜんぶ。
『さっさとつかまえないとすり抜けちゃうわよ』
「知ってるっての」
弱さを吐き捨てた瞬間、残り全部が落ちたのかと思わせるくらいに一斉に、一直線に、葉へと降った銀杏の実の雨を目の当たりにした九尾の妖狐。目を丸くして、次いで、くしゃりと顔を歪ませた。
(2021.11.22)
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