おせっかいもの




 騒がしい時も、無言の時も、身を寄せ合わない時も、殴り合う時でさえ。

 心を通わせる二方ふたかたが傍にいようが遠くへいようが、存在がこの世から消えようが、心を寄せ続けた。

 長年見守り続けてきた銀杏のお節介なのだろう。


 九尾の妖狐に待ち焦がれている存在がいることを伝えたのも。

 九尾の妖狐が待ち焦がれている存在の正体を伝えたのも。

 九尾の妖狐が臆病になってしまって、まごついていると伝えたのも。


 ぜんぶ、ぜんぶ。


 ただただ幸福になってほしいからだ。




(光栄だわ。私にその役目を担わせてくれて)


 りんごの妖精として美しいものをより美しくさせる。

 生まれた理由といえる役目を果たせなかったから。

 などと、ダサイことは言わない。

 感謝をするのは、美しい手助けをさせてもらえることに対してのみだ。




 りんごの妖精は細めた目をなにものも見逃さぬように厳かに開かせ、口を軽くすぼませては血色のいい唇を弾ませ、銀杏から真正面に座る九尾の妖狐に全身を向けた。

 妙な気迫を漂わせるりんごの妖精に、九尾の妖狐が胡乱な目で何だよと訊くと、りんごの妖精は言ったのだ。



 さっさとつかまえないとすり抜けちゃうわよ、と。










(2021.11.14)


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