たづねるもの
思わず感奮の歓声を上げてしまったのは致し方ないことだ。
先程の取り乱しを棚に上げて、はしたなく大声を出してしまった、否。引き出されたのはこの麗しく幻想的な光景のせいだと胸の内にだけ言い聞かせて、りんごの妖精は目を細めながら銀杏の巨木を仰ぎ見た。
見守っているのか、見守られているのか。
鈍く光る銀白を身に染め上げた、頼りなく、それでも天へ天へと挑み続ける幹枝から離れて。
ひらひらりと。
いくいくつも。
扇の葉は音もなく優雅に空を舞い、つま先を着地させては優しく弾ませて踵を静かに下ろす。
鈴の実は音もなく、けれど迷わず真っ直ぐに堂々と扇の葉に抱きしめられる。
雅な色合いとゆるやかさで時の移ろいを忘れさせてしまう、永久の景色。
ほうっと。
りんごの妖精は震える魂を落ち着かせるべく、吐息をくゆらせて、外玄関で待っていてくれている巴と九尾の妖狐の元へと歩き出した。
無論、先達の銀杏に華麗に会釈をしてのち。
公園から徒歩十五分で辿り着いた巴の平屋の一軒家でまず目を奪われるのは、銀杏と重ねてきた年月を想像させる外壁の黒い木目であった。
「どうぞ。いらっしゃい」
「おじゃまします」
「ただいま」
「はい、おかえりなさい」
がらがらと開けにくい音が鳴りそうな硝子と木の玄関扉はけれど手入れを怠ってないせいか、すんなりと横に引き開けられた。
「九尾の妖狐さん。私は台所でお茶を用意してくるから、りんごの妖精さんを居間に案内しておくれ」
巴と九尾の妖狐は靴を、りんごの妖精は下駄を脱いで、巴の先導の下、洗面台へと向かったりんごの妖精と九尾の妖狐は、そこで手洗いうがいを済ませるとそう言われた。
はいと快い返事をした九尾の妖狐は短い廊下を進み、ところどころ茶色に変色している襖を開けて畳を踏み進め、大きな木机を前にして腰を落ち着かせた。
りんごの妖精は畳の不思議な感触に目を輝かせつつ、九尾の妖狐と向かい合わせなる位置で膝を正しながらも、顔を庭へ、銀杏の木へと向けて、全身の力を抜き言葉を紡いだ。
あなたも待ち焦がれているお相手がいるのね。と。
(2021.11.10)
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