こがれるもの
扇の鮮やかな黄。
月の落ち着いた橙。
骨の茫と発光する白。
天空にも、地上にも新たな広彩を与えんとする銀杏。
葉は音もなく空を舞い、音もなく地へ落ち、音もなく地で跳ねる。
どこからかかっさらってきたか、秘泉からくんできたか、まっとうにか。調達方法はさまざまだが、どちらかが用意した酒の肴にしていた。
まずは目だけで。
その内に酔いが回り、全身で楽しみたい欲求が擡げ始めて、おとなしく座っていた縁台から飛び立つ。
あいつが風で一気に集めた枝葉に実にと俺が狐火で燃やし、頃合いを見てあいつが風で器用に殻を取り出す。
今度は全身への肴にする。
橙のやわいが口には含めない果肉は火によってそげ落ち、露になった肌色の固い殻を割り、
食べ過ぎるなよ。
互いに注意をして、銀杏の焚き火の前で、膝を曲げて踵を地につけた状態で、ほくほくの銀杏の実をいただく。
顔が真っ赤なのは、酒のおかげ。焚き火のおかげ。
身体が温かいのは、酒のおかげ。焚き火のおかげ。
心が温かいのは。
酒と。
焚き火と。
銀杏と。
別段何があったわけでもなし。
ふと。
何かの拍子に。
こぼしてしまったのだろう。
あふれださせてしまったのだろう。
眼前の相手を意識して。
意識してしまって。
酒と焚き火に感謝するのだ。
深く。
ふかく、
『なあ、長老たちに見せつけてやろうぜ』
消えるというのに、快活に笑ってみせるあいつに俺は誓ったんだ。
美も知も才も技も想も。
この身にあまねく浸みつかせる。
骨にも肉にも血にも、魂にさえ同化させて、本物にする。
あいつを迎えるまでに。
どこの誰にも文句を言わせない。
完璧な存在になってやる。と。
あいつを驚かせてやる。と。
(2021.11.6)
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