03話.[気づけなかった]
「どっちも寝ちゃったな」
「だな」
ちなみに梓も寝てしまったからなんだこれってなった。
まあいい、いつまでも帰さないわけにはいかないから背負って送ることにした。
元丸は任せて俺は葉野の家を目指す。
「葉野、家はどこなんだ?」
「……ちかいよ」
「もっと細かく教えてくれ」
こうして触れているだけで結構やばい行為だから早く終わらせたい。
もちろん起こした彼女に確認してから触れたため、警察署に直行、みたいなことにはならないと思いたい。
「……あ、左」
「あいよ」
まあでも、付き合ってくれたんだからこれぐらいはしないといけない。
俺は葉野の人間性というやつを気に入っているから面倒くさいとかそういうことは思っていなかった。
協力しなければならない関係だからこれからも一緒にいられるなら一緒にいたいぐらいだ。
「というかさ、こういうこともできちゃうんだ」
「歩かせるより安全だからな」
「阿部は本当によく分からない子だね」
よく分からないんじゃなくて彼女からすれば意外性の塊、ということではないだろうか?
制御できるわけではないし、制御したいとも考えていないからこのままでいい。
意外とか分からないとかそういうことを言われるのは初めてではないからだ。
それにまだその程度なら悪口ではないというのもある。
「あ、ここだよ」
「下ろすぞ」
ここでごちゃごちゃ言ってこないだけ彼女は最高だった。
「ありがとね」
「いや、葉野こそ付き合ってくれてありがとよ」
言えるときにしっかり言っておかなければならない。
元丸と違ってすぐに来なくなる可能性が高いからだ。
それにあのふたりが上手くいったら協力する必要もなくなるわけだし。
「じゃ、暖かくして寝ろよ?」
「うん、またね」
「おう」
俺は家に帰る前に高志と会わなければならない。
家に行くと言ってあるからいまから行けば丁度いいぐらいだろう。
三十分が経過しても来ないようだったら元丸となにかがあったと考えればいい。
「よう」
「なんだよ、元丸とふたりきりで過ごしてくればよかったのに」
「できるかよ、それに明人のおかげでクリスマスに一緒に過ごせたんだからもう満足してる」
俺のおかげとか言われても困る。
寧ろこれは高志のおかげと言ってもいいぐらいだ。
ただ、延々平行線でいたくはないからこれは言わなくていい。
「葉野さんはどうだった?」
「あくまで普通だよ、またよく分からないって言ってくれたけどな」
「明人は分かりやすいけどなー」
寒いから中に入りたいということだったため、帰ろうとしたらできなかった。
数秒後には段畔家のリビングのソファに座っていた。
高志は疲れてしまったのか、床に寝転んで寝そうになっている。
「……話せるだけで幸せだ」
「でも、付き合いたいんだろ?」
「それはそうだ。でも、このまま踏み込もうとするのは自分勝手なんじゃないかと考えてしまったんだよな」
確かに相手にその気がないのにいつまでも自分勝手に求め続けていたら違う。
それでもいまは本人から誘ってくれたわけだし、悪く考える必要もないと思う。
彼とは長い間一緒に過ごしてきたからというのもある。
元丸のことを考えなければもっと応援して、できることなら行動してやりたい。
「っと、これ以上は梓ちゃんが不安になるよな」
「大丈夫だと思うけどな」
「いや、どうせ明日また阿部家に行くから気にしなくていい」
「そうか、それじゃあ暖かくして寝ろよ」
「おう、明人もな」
わいわい過ごした後にひとりになるのはなんとなく寂しかった。
これがデフォルトになってしまうと面倒くさいから変えなければならない。
俺はまだまだ外でゆっくり過ごしたいからこれを守りたい。
屋内を好きになるのは社会人になってからでも遅くはないし、結婚して家族ができてからでも遅くはないんだ。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
「あれ、寝ていたんじゃなかったのか?」
布団を敷いたら速攻で寝たというのになにをしているのか。
中学生であればこんな時間まで起きていたら駄目だ。
……何気に二十二時を過ぎていたんだよな。
だからこそ女子組は早く帰さなければ不味かったということになる。
それだというのに「まだいいでしょ?」と言われ続けて、結果として何時間も経過してしまって……。
「気づいたらリビングが真っ暗で驚いたよ……」
「流石に連れて行くわけにもいかなかったからな」
流石になにかがあった際にふたりを守れる自信がなかった。
治安が悪いというわけではないが、やる奴は特に理由もなくやるから気をつけておかなければならないことには変わらない。
また、これからやりますと事前に教えてくれるわけではないからな。
「うぅ、ひとりにされて普通に怖かったんだけど……」
「それより風呂を溜めるから入れよ」
「うん、分かった」
溜まったら入ってもらって、梓が出たら俺もさっさと入って出てきた。
流石に今日は俺も疲れたから外に出ることはせずに部屋に戻る。
「ふぅ」
やっぱり学校外で誰かと過ごすことになると疲れるということが分かった。
それでも今日は楽しかったからこんなことがこの先もあればいいと願った。
「あけましておめでとうございます!」
「……梓、いま何時だと思っているんだ?」
「一時ですね! 実は少し寝てしまいました……」
俺は神社に行ったりはしないから朝まで普通に寝るつもりだった。
でも、いまので起きてしまったから高志には同じような内容のものを送っておく。
「もしかして行きたかったのか?」
「あー、そういうのはちょっとあるよ?」
「いまから行くか?」
「えっ、いいのっ?」
「おう」
しっかり暖かい格好をさせてから外に出た。
相変わらずあまり得意ではないようで「寒い」と何度も言っていた彼女ではあったが、顔はなんか楽しそうに見えたからなにも言わなかった。
それより夜中に合法的に外にいられるというのが大きいのかもしれない。
いやまあ、親も連れてきていない状態でこうしているのは普通にアウトとしか言えないが……。
「あんまり目立たないようにな、そうしないと連れて行かれるぞ」
「あっ、そうだね、しー」
「はは、まあ近所の小さい神社に行くだけだからな」
結局、全く人がいなかった。
だから中学生と歩いている身としては少し安心できた。
「今年も問題なく過ごせますように」
「再婚して転校することになったのは問題じゃないのか?」
「当たり前だよ、お母さんに大変な思いをこれ以上味わってほしくなかったもん」
「そうか」
いつまでもここにいるのは問題になるから戻ることにする。
梓はハイテンションすぎていまから寝る、という感じはなかった。
まあでも冬休みなんだからそれぐらいの緩さでいいか。
徹夜みたいなことをして夕方頃まで爆睡、そんなことを一度はするのが人間だ。
「付き合ってくれてありがとう」
「いや、夜中に外にいられて楽しかったからな」
ただ玄関前の段差に座って過ごすのとは違う。
こんなこと一年に一度ぐらいしかできないから普通にありがたかった。
いやほら、流石に仕事で疲れている父に付き合ってもらうわけにはいかないだろ?
そういう理由があるから一度と言ってもおかしくはないというわけだ。
「一乃さんから外にいっぱいいるって聞いたけど、本当なの?」
「ああ、それで警察の世話になったことが十回もあるぞ」
「えーっ」
「梓」
「あっ、し、静かにしないとだよね」
どうせいつかばれることだから言っておいた。
別にそれを自慢しているわけではないから許してほしい。
あと、気づけば何時間も経過しているこの能力に文句を言ってほしい。
もしかしたら狭い空間が苦手なのかもしれないとまで考えたものの、学校のときとかは全くそういう風に感じていないから単純に外が好きなんだと再度考え直した。
冬であれば決して理解されることのない趣味だと思う。
「俺は悪い奴だからな、もしかしたら梓のことも――」
「ちゃんとしますっ、敬語にもしますからっ」
「それはいいから楽しく過ごしてくれ、なにか困ったら遠慮なく言ってくれ」
悪いところがあったらちゃんと指摘してくれとも言っておいた。
他人から言われないと気づけないことというのは多くあるから。
「ひゃわ!?」
「なんだ?」
「な、なんかごそっと音が……」
彼女が指差した方を見てみてもなにかが出てくるようなこともなかった。
そろそろうるさいと文句を言われそうだったから早く帰ることにする。
家に着いたらなんか物凄くほっとした。
「ふぅ、やっぱりお家は暖かくていいね」
「梓って頑張っているだけなのか? それとも、それが素なのか?」
「え?」
「いや、普通はもう少しぐらい慣れるのに時間がかかるものだろ?」
「そうかな? 基本的に昔からこんな感じだけど」
なにかが変わってもすぐにそういうものかと片付けられるらしかった。
それでも寒いのだけはそういうものかと片付けられなくて困っているとも教えてくれた。
中学生とかであれば、向こうの家に異性がいるとかであれば多少は引っかかりそうなものだが、これを見る限りでは偽っているようには見えない。
「
「そうか」
そういうことで片付けておくしかない。
クリスマスのときの葉野も同じだったが、本人ではないからこちらは発言だけを信じて動くしかないんだ。
悪く言われているわけではないんだから裏を考えようとしないでいいんだろう。
こういうところは分かりやすく直さなければならないところだと言えるし、とはいえ、相手のことを考えないで動くことはできないと止めようとする自分もいる。
「あ、この前から聞きたいことがあったんだけど、いい?」
「おう、言ってくれ」
「明人さんは咲希さんと一乃さん、どっちが好きなの!?」
えぇ、まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。
ちょっと特殊なところがあるだけで中身は普通に女子で乙女だということか。
勝手な偏見で女子=恋バナが好きみたいなそれがあるから違和感はないが……。
「どっちともそういう関係じゃないぞ」
「え、じゃあどうしてクリスマスに一緒に過ごせたの?」
「元丸から誘ってきたんだ、高志も絶対という約束でな」
普段俺がどう過ごしているのかなんて分からないから仕方がないか。
俺だって梓のことを元気だということしか知らないんだからそういうものだ。
「一乃さんとそういう関係だと思ったんだけどなあ」
「ないない」
残念ながらそんなことはない。
あくまで元丸と高志が来ているから来ているだけ。
それがなくなったら俺と葉野はあくまでクラスメイトというだけ、というか、現時点でもそのようなものだった。
分かりやすく友達だと言えるのはやはり高志しかいない。
別にそれで寂しいとかそういう風に感じたことはなかった。
誰かひとりでもいてくれるというのは大きい。
「梓こそ彼氏とかいたんじゃないのか?」
「いないよ、だって学校生活自体が上手くいっていなかったもん」
「苛めとか……か?」
「んー、もっと軽い感じだけど……」
そうか、そういうのはやっぱりどこにでもあるということだな。
見ていて気持ちのいいものではないが、かといって、それをなくすために動こうともしていないんだから偉そうに言う資格はない。
こっちのに来られたことでそれが少しでも変わってくれればいいと願っておいた。
「おはよう、こんな早い時間から外で過ごしているんだね」
段差に座ってのんびりしていたら元丸に話しかけられた。
実はまだ六時とかそれぐらいの時間だからなにをするのかと聞きたくなったので、
「元丸こそどうしたんだ?」
実際に聞いてみた。
冬の六時はまだ普通に暗いからもう少し明るくなってから出歩くべきだろう。
また、元丸も寒いのが得意ではないはずだからなにをしているのかと言いたくなってくる。
「食べ過ぎちゃったから歩いて消化しているんだ」
「それなら俺も一緒に歩いていいか?」
「えっ、あの阿部君が珍しいねっ」
実はこの後高志と会う約束をしていたからだ。
そうでもなければ親友が狙っている人間と積極的に一緒にいようとはしない。
つか、あの阿部君ってなんだよ……。
まあ、元々イメージというやつがよくないからなにも言わなかったが。
「ねね、段畔君って優しくていいよね」
「そうだな」
「だからあのときも誘ったんだ」
「俺としてはありがたかったけど、元丸の家か高志の家じゃ駄目だったのか?」
「それは駄目だよ、だってそうしたら阿部君はひとりになっちゃうから」
確かに去年はひとりだったからなにも言えない。
まあでもそうだな、仮に元丸の家で開催となれば俺を誘うことはできないもんな。
仲良くない異性を家に入れることはできないというもの。
「よう」
「あれっ、なんで段畔君がいるのっ?」
俺にとってはなにも問題があることじゃない。
約束をしていたんだからこれは当然のことだと言える。
でも、正直に言えば中で待ってろよと言いたくなることだった。
心配しなくても俺の方から誘っているんだから行くからさと。
「それは明人と――」
「まあこうして偶然会うこともあるだろ。高志、一緒に行こうぜ」
「お、おう」
なんでいるのってそもそもここは段畔家の前だからだった。
もしかしたらとぼけてみたい年頃なのかもしれないと考えつつ、ふたりに付いていくことにしたわけだが……。
「この前はありがとね、まさか寝ちゃうとは思っていなかったけど」
「いや、あの状態なら歩かせるより運んでしまった方がよかったから」
「重くなかった?」
「おう、全く重くなかったぞ」
「そっか、ありがとう」
俺がいる必要がなくなってしまったことになる。
前も言ったように、こちらがなにかをするまでもなくふたりは勝手に並んで歩き始めるというのも面白い話だった。
「元丸さんは明人となんで一緒にいたんだ?」
「ダイエットに付き合ってくれていたんだ」
「え、そんなの必要ないと思う――」
「だめだめ。段畔君達からすればそう見えるかもしれないけど、本人からしたら小さいことでも気になるんだよ」
そういうことらしい。
他者からどう見えるかが重要だから他者がこう言っているのなら安心していいと思うが。
大体、それ以上細くなったところでメリットがない。
これも整形と同じで自分が見ると醜く見えるんだろうか?
「そ、そうか、悪い……」
「ううん、謝らなくていいよ」
ただ集まってゆっくりしようとしていただけだからここで別れることにした。
俺は学校で話せるぐらいで十分なのかもしれない。
外でともなると変わってくるから自然と楽しめなくなる可能性があると、普通に疲れながらも楽しんでいた人間はそう考えた。
いやでも、実際に誘われる可能性というのが低いからこれぐらいでいないと危険な気がする。
「「あ」」
新年になってから初めて葉野と遭遇した。
クリスマスに過ごしてから全く一緒に過ごしていなかったからどうするべきか少し悩んだ。
だって俺らはあくまで元丸のことで話すことがある程度だから。
「よう」
「うん」
会話終了……。
家が嫌いという理由で外にいるだけだから挨拶程度に留めて別れるのが一番か。
じゃあなと言って数秒歩いても話しかけてくることはなかったから気にせずにどこかに行くことにした。
「ここでいいか」
「そだね」
「……葉野は忍者だったのか?」
「いーや? 普通に付いてきただけだけど」
それでは近づかれていたのに気づけなかった馬鹿ということになってしまう。
だからここは絶対に忍みたいに静かに近づいたと言ってほしかったが、言ってくれなさそうな気がしたから言わないでおいた。
「夜遅くまでいると思えば、朝早くから外にいるんだな」
「今日に限って言えば咲希も段畔も阿部もそうだよ」
「会ったのか」
「うん、咲希が来たからね」
その後はその謎の能力を使って近くにいたということか。
その能力があるなら家でも問題なくいられる気がするが。
まあでも、それも言わないでおいた。
だって本人的には家自体から離れたいだろうからな。
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