02話.[結構贅沢な行為]
もう冬休みというところまできていた。
つまりそれはあのふたりが家に来ることを意味しているわけだが、あくまでこちらの方はいつも通りという感じだった。
まあ、当たり前のことか。
俺らはなにもしなくていいのに対して、向こうは動かなければならないんだから。
だから変な発言をしないようにいまから気をつけているというのが現状だった。
「もうクリスマスだな!」
「今年は頑張って誘ってみろよ」
「……確かに来年になったらもう余裕はないからな」
俺達はもう高校二年生で、そして十二月まできてしまっている。
好きでいるなら一生懸命頑張ってみるべきだと思う。
あくまで友達としていたいのであればいまのままでいいだろうが。
ただ、これは最近になってこうなったわけではなく、去年の五月から抱えている感情だからそういう風にはできないんだろう。
その証拠にやらなければいけないという顔をしている気がした。
「明人、どうしてもあれだったら手伝ってほしい」
「分かった」
「まあでもいまはテストも終わったわけだし、ゆっくりするだけだな」
「先に頑張ってからゆっくりした方がよくないか? 心理的にも楽だろ」
「た、確かに……」
テスト週間が終わったということは部活の再開も意味しているわけで。
クリスマスまでは半日で終わることばかりだからすぐに頑張っておかないとチャンスがない。
決して高志だけを優先してくれているとかそういうことではないからな、気づいたら既に約束をしていた、なんてことになる可能性もある。
一緒に過ごさないかと誘って断られてしまったのならともかくとして、そういう理由で無理になるのはなんとも言えない気持ちになるだろうから頑張るならいまだ。
全ては自分のためにだ、そのためになら頑張れるのではないだろうか?
「ねえ阿部君、クリスマスって誰かと約束してる?」
「してないけど」
「それなら阿部君のお家に行ってもいい? あ、もちろん段畔君も誘ってだけど」
「だってよ、高志はそれでいいのか?」
「お、おう!」
なんかそういうことになった。
でも、俺はなんでこうしたのかを分かっている。
きっと
向こうの中学校は二十三日から冬休みになるみたいで、その日に移動するつもりだと父が教えてくれていた。
別にそのことを吐いたわけではないが、冬休みに云々とは既に話してあるからこうなると。
「葉野はいいのか?」
「一乃も誘って大丈夫なの?」
「あー、あんまりしつこく話しかけたりしないならな」
「守るよっ」
そっちの方はしてくれるみたいだったから高志を連れて廊下に出る。
「誤解するなよ、別に俺に興味があるわけではないからな」
「……そのことじゃない、ただ、なにも動かなくても自然とこうなったことに驚いているんだ」
「まあ、これから頑張ろうとしていたところだったから拍子抜け感はあるのかもな」
「そうだな。あと、仮に元丸さんが明人のことを好きになっても別にいいと思っているぞ」
「いいからいまは自信を持って行動しろ」
雰囲気がいいようだったらふたりきりにしたっていい。
葉野もたまに「付き合っちゃえばいいのに」とか言っているから邪魔することはないだろう。
もしそうなった場合には協力してもらった礼としてなにかをさせてもらうつもりでいた。
「段畔君、ちょっと来て」
「分かった」
元丸が高志を連れていき、代わりにここには葉野を残していった。
葉野は壁に背を預けて「咲希から誘ったのはなんでだと思う?」と聞いてきた。
俺としては梓のことが気になるものの、仲良くない俺とふたりきりだと緊張するからじゃないかと言ってみた。
「そっか、確かに阿部とより段畔との方が仲良さそうだよね」
「ああ」
「で、君の方から言ってくれたのはなんでなの?」
「だって元丸と毎年過ごしてきたんだろ? それが今年になって過ごせなくなったら寂しいだろうと思ってな」
「ほほう、確かに咲希とは毎年一緒に過ごしてきたからねー」
何故そういう情報を知っているのかは去年ふたりが教えてくれたからだ。
ちなみに俺はひとりで過ごしたから少し羨ましくなったぐらいだった。
「俺としては元丸がああ言ってくれてよかった、何故なら高志のサポートをしてやれるからな」
「えー、ひとりでいる阿部にできそうにないけどー」
「葉野も協力してくれ。もちろん、元丸が嫌そうにしていたら止めるからさ」
「仕方がないなー」
決して高志のためだけではなくて、結果として彼女の親友のためにもなるんだから動くしかないだろう。
あいつは一方的に要求するわけではないから安心できる。
安心できないのであれば自分から誘ったりなんかしないはずだ。
例え俺や葉野がいるとしてもだ。
「じゃあクリスマスになったらなにかちょうだい」
「え、あげられる物とかないぞ……」
「どうせお昼に終わるんだから買いに行けばいいでしょ? まさかただ働きさせようとしていたわけじゃないよね?」
「分かった、食べ物とかを買いに行った際になにか買ってやるよ」
そういうことになってしまったが、こちらも親友のために本格的に動かなければならないんだ。
文句を言わずにとことん付き合ってやろうと決めた。
「待ってくれてありがとな」
「礼なんか言わなくいい、俺は外にいるのが好きだからな」
これでもまだ十七時過ぎだから余裕はある。
ちなみに元丸と葉野には自分の家で待ってもらっているから問題はない。
ちなみに家は高志が知っているから集まれずに終わる、なんてこともない。
「い、いまから元丸さん達と買い物に行くんだよな?」
「ああ、そういうことになるな」
「き、緊張するぜ……」
どんな形であれ好きな人間と一緒に過ごせるんだ。
話すだけでも幸せになれる人間であるならきっと最高なことだろう。
葉野だって協力してくれるから少なくとも悪い雰囲気になることはないはずで。
「ここが元丸さんの家だ」
インターホンを鳴らしてからすぐに葉野が出てきた。
どうやら元丸は寝てしまっているみたいだったから起こしてもらうことにした。
こういうのはしっかりしている人間がいてくれないと困る。
「ふぁぁ~、段畔君お疲れ様」
「お、おう」
「お家の中は暖かいからつい寝ちゃうんだよね……」
俺としては葉野がそうすると思っていたのに不思議だった。
意外としっかりしているのかもしれない。
「メインを選ぶのは頼む、俺と葉野は菓子でも見てくるから」
「うん、そっちはお願いね」
好みとかは分からないからこういうときに葉野の存在は助かるというもの、ちなみに葉野もなにも言わずに付いてきてくれていたから助かっていた。
「上手いですなあ」
「別にそういうつもりじゃなかったんだが、まあそういうことになったな」
あとは彼女に対してあの約束があったんだから仕方がない。
が、今日は選ばないということだったからとにかく菓子を選んでもらった。
選び終えた後に葉野と一緒に探してみたら普通に楽しそうに会話をしながら歩いているふたりを発見し、これはどうしたものかと考えることになった。
残念ながら元丸の望みだったであろう梓はまだこっちに来ていないというのも影響している。
「仲良さそうだよな」
「そうだねー」
「葉野ならどうする? いまからでもふたりきりにさせるべきだと思うか?」
「んー、段畔的にはよくても咲希的にいいのか分からないからなー」
「そうか」
今日はとりあえず四人でいればいいか。
本人達から言われたら解散すればいい。
そのときは葉野を送ってから少し外でゆっくりするのもいいと思う。
本当に冬の気温だろうが俺にとっては一切関係ないから味わっておくのがいいはずだった。
「葉野が菓子を選んでくれたぞ」
「こっちもいっぱい選んだからふたりもいっぱい食べてね」
「ああ、それに高志が沢山食べられるから大丈夫だ」
総額五千円の買い物となった――って、高えな……。
元丸が付き合ってもらうからということで全額払おうとしたが、流石にそれだと気になって楽しめないから俺が半分払っておいた。
こちらは地味にひとりで過ごさなくて済んで喜んでいるぐらいだからこれでいい。
「持つぞ」
「いやいい、俺は部活もやっているからこんなの余裕だ」
「おいおい、どれだけ鍛えていても辛いのは辛いだろ」
二袋の内片方を奪って持っておいた。
格好つけたいのは分かるが、頑張らなければならないのは寧ろこれからだろう。
ただ、面白いのは自然と元丸と高志、俺と葉野となることだ。
余計なことをしなくても十分というやつなのだろうか?
「口数が少ないけどどうしたんだ? やっぱりみんなでわいわいみたいなのは苦手なのか?」
「寧ろ阿部が普通に付き合っていることの方が意外なんだけど」
「俺は人といるのは好きだぞ」
「ふーん、あ、別にそういうことじゃないから安心してよ」
「そうか、だけどなにかあったら遠慮なく言ってくれ」
とはいえ、これから協力してなにかを作ったりするわけではなく、あくまで既にできている物を食べてゆっくりしようとしているだけだ。
それになにより、そこまで遅い時間までいなければならないというわけではないんだから上手く対応をするかと片付ける。
仮に不満があっても親友だっているんだからいまこのときだけは、というやつだ。
「あ、元丸」
「ん? どうしたの?」
「残念ながらまだ家には来ていないんだ、それが目的だっただろうに悪かったな」
「え? あっ、確かに気になっていたけどそれが主な理由じゃないから安心してよ」
それならどうしてわざわざ俺の家なんだ?
おいおい、親友に敵視されることだけにはなってほしくないぞ。
「着いたな」
「いま開ける」
今日父は向こうへ行くことになっているからふたりが気まずいということもないだろう。
「はぁ、地味に重かったぞ……」
「当たり前だ、二本もボトルがあるうえに飯とかも入っていたんだからな」
話すことは食べながらでもゆっくりできるから早速食べることになった。
皿とかを持ってきたら元丸が上手くどんどんわけてくれるから地味にありがたい。
こういうのはそうやって動いてくれる人間がいないと空気が段々と最悪なことになるからな。
少し気になったから葉野には特に多くわけてくれと頼んでおいた。
「ちょいちょい、阿部は私を太らせたいの?」
「元気がない人間は沢山食べた方がいい」
調子が悪いのでなければ食べられるときにしっかり食べておくべきだ。
細い人間が少しの肉を気にしてダイエットとかしているのを見るとなんでだよと言いたくなる。
少食アピールもいらないし、別に無理な量を食べさせているわけではないんだ。
食べられるのであれば遠慮なくどんどん食べてほしかった。
「元気がないとかそういうことじゃないよ」
「あー、俺がいるからか」
「え? 阿部がいるからなんなの?」
「いやだからさ、葉野とそんなに仲良くない人間がいるから素を出せないということだろ?」
高志と元丸だけだったら自分らしく盛り上がることができるってことだ。
が、残念ながらここは俺の家だし、当然そうなれば俺がいるんだからそうはいかないと。
流石にここでどこかに行くことはできないが、なるべく出しゃばらないようにするから気にせずに楽しんでほしいと言ってみた。
「阿部は勘違いをしているね」
「そうなのか?」
「苦手だとかつまらないとか、そういうことを考えているわけじゃないよ」
結局本人じゃないから分からないままだ。
葉野はそれきり元丸や高志と話し始めたから強制的に終わりとなった。
帰ろうとしているわけではないからそうなんだと片付けておけばいいか。
「さあほら、明人ももっと食べろよ」
「そうだよ阿部君、阿部君はお金を払ってくれているんだから特にこのふたりより食べないと駄目だよ」
「それを言ったら元丸だろ」
誰かといられて嬉しいというのはよく分かる。
ただ、話せただけで幸せ~なんてことは感じたことがないから分からなかった。
高志はいま、どういう気持ちでここにいるんだろうか?
また、元丸がどうしてここで集まろうとしたのかが気になっている。
「あ、ちょっとトイレ」
「はーい」
外にいるのが好きな自分としてはこれが意外と困る点だったりする。
どこにでもトイレがあるというわけではないからぼうっとするにしても場所選びというのは大事だった。
「ふぅ……う゛」
「こ、こんばんは」
「うわあ!?」
流石に俺の大声に反応して三人がこっちにやって来た。
これはだいぶ絵面がやばいわけだが、ちゃんと理解してくれるだろうか?
……扉を開けた瞬間に気づけたからよかった――というか、便座に座っている状態なのに気づけなかったらやばいだろう。
「もしかしてその子が梓ちゃんなの?」
「あ、ああ、なんかここに隠れていたんだ」
とりあえずは出てもらうことにする。
梓はすぐに三人と普通に会話をし始めたから少しだけトイレにこもった。
驚きすぎて流石に俺の心臓も激しく跳ねていた。
「ご、ごめんね?」
「いや、父さんが入れてくれたんだろ?」
自分で聞いておきながらアホかと言いたくなった。
それしかないだろ、寧ろそれ以外の手段で入っていたら怖いわと言いたくなった。
やばい、もしかしたらクリスマスに誰かと過ごせることになって浮かれているのかもしれないぞこれは……。
「うん、帰ったときには誰もいなかったから外で待っていたんだ」
「寒かっただろ、風呂に入ったらどうだ?」
「あー、それよりお腹が空いちゃったかな」
「それなら一緒に食べればいい、まだまだ量はあるからな」
自分の分を渡してゆっくり炭酸ジュースでも飲んでおくことにした。
なんとなく窓の外を見てみたら空が綺麗でそれだけで満足できた。
できれば玄関前にでも座ってゆっくりするのが一番だが、そこだとこの賑やかな話し声が聞こえないから難しい。
「梓ちゃん可愛い!」
「あ、ありがとうございます」
「阿部とはもう仲良しなの?」
「そういうわけではありませんが、明人さんは優しいので不安にならずにいられています」
「明人はそういう人間だからな」
別に問題はなさそうだったから実行してみることにした。
ジュースを飲みながら夜空を見るなんて結構贅沢な行為だと思う。
「なにが見える?」
「星だな」
「それを見て楽しいの? 私は星だなーぐらいにしか感じないけど」
「普通に楽しいと思うけどな」
まあでも、理解してもらえなくても構わなかった。
外にいるのが好きな人間もいれば、中にいることが好きな人間だっているということだ。
また、俺みたいな暇人ばかりというわけではないからそもそもそういう過ごし方は無理なのかもしれないが。
「葉野だって外で多く過ごしているだろ? なにを楽しみにそうしているんだ?」
「私は家が嫌いだからああしているだけだよ」
「へえ、不仲だったりするのか?」
「端的に言えばそーだね」
家族と喧嘩をしたことがない俺としてはどんな感じなのか全く分からなかった。
分からないなら余計なことを言わない方がいいということで黙っておいた。
葉野も元々口数が多い方ではないのか、上を見つつ黙ったままで。
「あのー……」
「ん? おお、どうした?」
別にそんな顔をしなくてもこちらはそういう関係ではないぞ。
もしかしたらあのふたりが仲良くしすぎていて出てきたのかもしれなかった。
「もしかしておふたりはそういうご関係、なんですか?」
「あはは、きみは面白いことを言ってくれるねー」
「す、すみませんすみません!」
「謝らなくていいからここに座ってよ」
正直不安だったのは梓が上手くやれるかどうかだったからこれには安心した。
いきなり俺の友達と普通に楽しそうに話せたのであれば新しい学校でも上手くやれるだろう。
なんてな、まだまだちゃんと見ておいてやらないといけない。
俺にできることは少ないが、なにもできないというわけではないから再度しっかり見ておこうと決めたのだった。
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