漢方少年

双葉 黄泉

第1話 漢方少年

 人は、漢方薬のみでありとあらゆる病に打ち勝てるのか?そんな疑問に答えるかのごとく、「漢方命!!」を座右の銘にして生きている少年がいた。


 彼は幼い頃に風邪を引いた際、市販の風邪薬を服用した結果、全身掻きむしる程の蕁麻疹じんましんに苦しめられた過去があった。


「漢方薬を試してみてはいかがですか?」

 過去のトラウマから薬に対する拒絶反応が強かったその少年は、酷い便秘に悩まされていた中学二年生の頃、近所の薬局のオッサンに漢方の便秘薬を勧められた。

「効くんですか?」

「センナを煎じて飲んでみてください。最初は、少なめの量にしてください」

 オッサンは、そう言って「センナ」と書かれている箱を少年に手渡した。

「お代は?」

「まず、飲んでみてください。効果が見られて副作用も少なければ後払いで構いませんのでお支払いに来てください」



 少年は、オッサンの言う通り分包されたセンナのパックを小児用量だけ煎じて、夜寝る前に飲んでみた。

「まずっ!」

 初めて口にするセンナの味は、ほろ苦くて気持ちの悪い後味がしばらくの間、口の中に残った。それは、例えばファーストキスが、レモン味だとか言う信じたくもない話とは無縁の味だった。



「出た~!!」

 朝六時。少年は、一週間ぶりに頑固な便秘から解放された。

「すげえっ!漢方効いたっ!」

 特に副作用も無い様子の少年は、嬉しさのあまり携帯電話のカメラで自らの排泄物を撮影して保存した。

「おおっ!」

 それは、長い戦いを制した少年の最初の記録となった。




「そうですか。良かった良かった!」

 薬局のオッサンは、そう言って少年に笑顔で対応した。

「お代を払いに来ました!」

「八〇〇円です!」

 お代を払った少年は、ルンルン気分で町の中を散策してからバスで帰宅した。




 月日は流れ、少年は、大人になって彼女も出来て仕事も恋愛も楽しんで充実した日々を送っていた。


 彼女から深刻な相談を受けたのは、六月の半ば頃だった。

「どうしたの……?」

「うん……実は……」

 喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら、かつての少年は、彼女の悩みを聞いてあげていた。

「お通じが……無いの。全然……」

 彼女は、可愛らしく頬を紅潮させながら便秘の告白をした。

「どのくらい出てないの?」

「う~ん、かれこれ一ヶ月くらい……」

 彼女は、自分のお腹を擦りながらそう答えた。

「一ヶ月!?そんなに!?病院には行ったの?」

「恥ずかしくて行ってない……ピンクの錠剤も沢山飲んだけど、お腹がキリキリ痛むだけで全然出ないの……」

 かつての少年は、少しだけ考えた後、

「大丈夫!俺に任せとけっ!!」

 と自信満々の笑みを浮かべて彼女に宣言した。



「おじさん、センナ買いに来たよ!」

 薬局にやって来た二人は、だいぶ年をとって老眼鏡が手放せなくなっていたオッサンに事情を説明した。


「お代は、後払いで結構ですので……辛いですよね。上手く行く事を祈っています」

 薬局のオッサンは、いつでも優しかった。



翌日の朝、彼女から携帯にメールが届いた。

「やった!!凄い出たよ!!ありがとう!」

 メールには、彼女の笑顔の写真が添付されていた。



数年後、二人は、結婚した。


 その一年後には、二人の愛の結晶が彼女のお腹の中に宿った。


 そして、出産……


 二人に新しい家族が加わった。


 今でもこの二人は、何か具合が悪いとあの薬局で漢方薬のみを選んで購入している。


 薬局のオッサンは、もう還暦を迎えていた。


 薬を始めとした自らの体内に入るものは、自らの体質や具合を考えてチョイスすべきなのだろう。たまたま彼らには、センナを始めとした漢方薬がフィットしたに過ぎない。  


このお話は、決して西洋薬を批判するものではありません。


 皆様、お身体をお大事に……

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漢方少年 双葉 黄泉 @tankin6345

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