19話 姉弟喧嘩
館の主人、アンビの猛攻は止まらない。
無数の槍がレイとセシルを襲う。
「ちっ…これじゃあ近づけない。」
「避けることに精一杯ね。賢者の名が聞いて呆れるわ」
この魔力量、並の魔術師じゃ無い。
更にセシルを庇いながらだと近づくことすらできない。
「もう飽きてきたわ。これで、終わらせる」
更に多くの槍が現れ、レイめがけ放たれる。
「なっ…くっ…」
夢幻眼の準備をする。
この量を対処するとすると相当な負荷がかかるが仕方ない。
だが、その槍をエドワードが魔弾で弾き飛ばす。
「……エドワード、何をしているの?あなたはそこでじっとしていなさいと言ったはずよ」
「ね、姉さん…こんな事はもうやめよう…誰かを傷つけてまで自分たちの世界が欲しいの…?」
「えぇそうよ、今まで私たちを助けてくれなかった世界をこのままにしておくわけがないでしょう?」
「姉さんの…わからずや…」
エドワードが赤い槍を出す。
アンビの青い槍に対してエドワードは赤い槍を使う。槍と槍がぶつかり合う。
「もう、もうやめてよ!!僕はみんなと一緒にいれればそれでいい!何もいらない!だから、こんな事はもうやめて!」
「……っ」
アンビが頭を押さえる。
アンビの頭の中にノイズが流れる。
君はどうしたい
なぜ世界を? 私は…
「私は、許さない!助けてくれなかったあいつらを!ひどい仕打ちを受けた!間違っていたのはあいつらだったのに!!あんな!あんな!!」
槍がぶつかり合う轟音が響く。
館の窓ガラスがギチギチと音を立てている。
「そう…そうだけど…今姉さんがやっている事は、あいつらと一緒だ!罪のない人たちから奪うことは間違っている!だから、目を覚まして!!」
ギチン、と槍が交差する。
そしてエドワードの槍がアンビの肩を突き刺す。
「あ…がっ…」
思い出す。
悲しみの日々。
家を追いやられ、雪の中を歩いた日々。
手足は冷え、全ての感覚が無くなる。
辛い、辛い、辛い、痛い。
けれど、みんながいた。
ナナミ、クルーエルにエドワード。そして門番さん。
辛いことだって、みんなといれば乗り越えられたのに、私はどうしてこんなことを。
アンビは涙をこぼしながらエドワードを抱きしめる。
「あ、姉さん…ごめん…なさい」
「いいのよ…私の方こそ、ごめんなさい…あなたに辛い思いをさせて。それよりもありがとう。私、目が覚めたわ」
「姉さん、どうしてこんなことを?」
「わからないの…何もかも嫌になってしまったような。全てが許せなかった。けど、もう大丈夫。」
「やっぱり止められるのはエドワード、あなただったでしょ?」
「レイさん…いろいろすみませんでした。そして、ありがとうございます。」
「けれどエドワード、まだ終わってないのよ」
「え?」
アビスは立ち上がり、レイとセシルの方へ寄る。
「永遠の闇の魔術はまだ消えてない。私を倒さないとこの術は止められない。だから、お願いできるかしら。”賢者様”?」
セシルははぁ…とため息をつく。
「いいわ、事情は後々聞かせてもらうからね。まずはこの術を止める。」
「ま、待って!」
エドワードがセシルとレイの間へ入り込む。
「賢者様、僕からも一つお願いをして良いかな」
「んー…まぁ話だけは聞いてあげる」
「ただ姉さんを止めるんじゃなくて、戦って僕たちを止めて欲しいんだ」
「えっと…?それはどういう意味?」
「ちゃんと戦って、僕たちの罪を裁いて欲しいんだ。それが賢者様の役目でしょ?」
アンビは驚いた顔をしてエドワードを見つめる。
セシルやレイも彼の成長ぶりに驚く。
レイは笑い、答える
「いいわよ、賢者の力とくと見せてあげるからせいぜい頑張りなさい!セシルも、やるわよ」
「全く随分と回り道をするのねあなたたちは。けど、いいわ。しっかりその罪を裁いてあげるわ」
「行こう、姉さん。僕たちは賢者様と戦うんだ!」
「……えぇ、行きましょう。エドワード」
賢者二人と罪人二人の戦いが、幕を開ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます