18話 囚われの子

レイは館の更に地下へと進んでいく


そこから感じる魔力は禍々しく、ドス黒かった。

賢者のレイはそこから感じる魔力はいけないもの、これ以上進んではいけないとわかっていた。


だがこの先に何があるのか、1人の魔術師としての好奇心も持っていた。


「ここの扉から…」


扉を恐る恐る開ける。

一瞬戸惑い、息を呑む。

だがレイは扉を開けた



広がっていたのは誰でも見てとれる子供部屋だった。おもちゃが乱雑に置いてあり、奥には気持ちよさそうなベッドが置いてある。


明かりは暗く、その部屋の奥にぽつりと、

親の迎えを待つ子供のようにしゃがみ込む影が一つあった


「……君は?」


少年はレイの方へ振り返る


「お姉さんこそ」


確かに、おかしな気配がしたから入ったものの、人の部屋に勝手に入ったとなればそう聞かれてもおかしくない


「あ、えっと…私はレイ。この館からおかしな雰囲気がしたからここまで来たの」



「クルーエルはどうしたの?」


「クルーエル?あぁ図書館にいたあの?」


こくりと、少年は頷く


「倒したわ」


一言、さっと伝える

我ながらカッコいいと思った

きっと今の私、すごい顔してる


「…え?た、倒したってあのクルーエルを…?」


「その人ってそんなにすごい人だったの?魔術を扱いきれてない素人のように見えたけど」


「そ、それでもおかしいよ!クルーエルを倒しちゃうなんて…もしかしたら、お姉さんなら…僕の姉さんを止められるかもしれない」


姉さん、か


「姉さんって、君の姉さんがこんな事を?」


「うん、いきなり『私たちだけの世界をつくる』と言って、妖魔を放って…みんなもそれを当然のように実行して…僕だけは止めたんだけど、ここに閉じ込められて」


なるほど、段々見えてきた。

館の主人であるこの子の姉があいつらに命令をして妖魔を放ち、この状況を作り出した、と


「姉さん、昔は優しかったんだ。僕を閉じ込めることなんてしなかった。なのに、急におかしくなって…」


急に…確か椿と霊夜も”急に”


「お願い、どんなことでもする。だから姉さんを止めて!」


「言われなくても私は君の姉さんを止めるわよ。それか、私と一緒に来た人が、もう止めちゃってるかも」


「え、もう1人来てるの!?お姉さんと同じくらい強い人が?」


「えぇ。あとレイでいいわよ。私の名前。じゃあ行くわよ。君のお姉さんを止めに」


「いや…僕は行っても意味ないよ…」


「あのね、君が行かなきゃ意味ないの!

力づくで止めるのは任せなさい。けど説得できるのは、あなただけなの。だから、一緒に来て」


私とセシルならきっと止められるだろう。

けれど本当の意味で姉を止めたいのなら、彼自身から伝えないと意味がない。と私は思う


「……けど、また何か言われるかも…」


「言われて当然!だから言い返してやるのよ!私にさっき言った事を!あなた自身の口で!ほら、行くよ!」


「え、ちょちょちょ!!」


少年を引っ張り部屋から出る

そして


「姉さんのいるところは、きっと2階、ロビーから上がって行けるよ」


「まぁ、そこしかないわよね。さっさと行くわよ!」


ロビーへ戻り、階段を上がる。

すると


「血の匂い?」


戦いはもう始まっているのか

それとももう決着はついたのか


奥へ進むと、そこには


「あ、レイ…あんた少し遅すぎんじゃないの?」


「……え?」


そこには槍を持つ少女の前に跪くセシルの姿があった


セシルは背中を切り付けられ重傷を負っている


「ね…姉さん…」


「エドワード、部屋にいなさいと言ったはずよ。どうしていう事を聞かないの?」


「ぼ、僕は…」


レイは苦渋の表情を浮かべる

状況は思ったより悪かった

彼女、こいつはどれほどの

あの槍から感じる魔力、尋常じゃない


止められるか?

セシルを守りながら

セシルを回復させた方が早いか

様々な思考が判断を鈍らせる


「もういいわ。あなたたちを殺して夢幻眼を奪います。エドワード、離れていなさい」


「ぁ…くっ…」


何もできずに屈服するエドワード

槍に魔力を込める館の主人


今、決戦の火蓋は切られる

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