10話 残された罪人
天を裂いた一撃に椿は倒れる
「はぁ…はぁ…あっ…」
その一撃を放ったアビスは、ついには立っていられなかった。
その場に倒れ込む。散っていく桜を見上げ、意識が朦朧としていく。
ダメだ。何も考えられない。
少し、疲れた
そうしてアビスはその場に倒れ込んでしまった
静寂が鳴り響く中で、次元が裂けた
空間を切り裂くように、その空間から1人、誰かが出てくる
「巫女の本能を解放させてはみたが、野蛮だな」
「……あぁ、次は上手くやるさ。今回は実験に過ぎなかったんだ。あの力を、理性を保った状態で解放させてやれたら…もっと…」
そう言って冷酷な声をした者は再び空間の中へ消えていった。
そして2時間後
「んっ…ぅん…」
最初に目覚めたのは霊夜だった。
「……なっ!?」
領域内の惨状に目を疑った。
周りの建物や桜の木がこんなに傷ついている
そして霊夜自身も
急いで階段を登り、主人の安否確かめる。
そこには、傷だらけになって倒れたアビスと椿がいた
「なっ…椿様!!」
———そうして、1週間が経った
椿は無事に目を覚まし、霊夜と椿は自身たちの身を回復させた。
だがアビスは、一向に目を覚まさなかった
「俺たちの中で、あいつが1番重傷を負っていた。椿さんも、何も覚えていないんですか?」
「……えぇ。ただ、私の魔力が酷く乱れて、そして消耗しきっている。私は、彼と…戦ったのかしら。」
「俺も大きい刀傷を一つ、負っていました。こいつは、俺たちに襲い掛かってこうなったのか…」
何があったのか覚えていない。だが、身体は覚えていた。自分たちがしてきたことを。
椿の体が震える。
「……いいえ。いいえ、覚えている。この手で襲った村の民を。アビスを殺そうとした事を」
「………はい」
霊夜も覚えていた。あの感触を。
アビスを切り刻んだあの、感触。そして
悦んでいたことを
人を襲い、傷つけることによって感じた快楽。あれは偽りなく2人は感じていた。
「おれは…なにを?いや、違う。俺は、俺は…」
霊夜は恐怖した。自分の本能を。
震えが止まらない霊夜を、椿は抱きしめる。
「…‥椿様」
「私たちは確かに取り返しのつかない事をしました。けれど、逃げてはいけない。償わなくてはいけない。まずは、彼を。アビスを救わなければ」
そうして彼らはアビスの治療。そして…
「巫女様を信じていたのに…!どうしてあんな事を…!!」
椿が管理をしていた地区にいて、椿が作り出した妖魔に襲われた人たちへの謝罪のため、召集をかけたのだ。
「私がしたことは、決して許されるものではなく、皆さんの信用を損なうものでありました。謝って許されるものではありません。一つ一つ、償わせてください………本当に、申し訳…」
「ふざけんな…!!命を奪おうとしておいて…!」
村人が椿の言葉を遮り罵倒する。
そうして村人は彼女は石を投げつける。
「…うっ…」
「椿様…!」
「いいのです。霊夜。私たちは、許されるわけがない。許されてはいけない。私は、命を…奪おうと…」
彼女の声はもう、巫女の声ではなく1人のか弱い少女のように泣くのを堪えている声だった。
せめてこの謝意を伝えようと。必死に。親に「ごめんなさい」と必死に伝える子供のように。
罵声と共に投げつけられる石
彼女たちはもう、限界だった
頭部からは血が垂れてきて、身体全身はボロボロに。特に、椿の方は。
「ここから、でていけ!いいや、今すぐ死……!!!」
1番石を投げつけ罵声を浴びせていた老人の手と口が止まる。
老人の腕は何者かに掴まれていた。
「お、お前…なんだよ…!」
「これくらいにしてはどうですか。巫女とはいえ、相手は女性ですよ?見えないのですか?あなたたちに石を投げつけられ、ボロボロになった彼女たちが」
椿と霊夜は老人の背後にいる者を確認する
「なっ…」
2人は、驚きと同時に言葉を失う
「椿さん、霊夜。お久しぶりです」
そこにいたのは、アビスだった。
ボロボロで、治癒魔術をかけたとはいえ治療に不慣れな2人が頑張って巻いた雑な包帯を身体中に纏って。
「アビス……わた…しは…」
椿は膝から崩れ落ち、そして口を抑え、涙を流す。
「ごめ…ごめんなさい…私…あなたに…酷いことを…」
「アビス…」
椿は泣きながら謝罪し、霊夜はその光景を哀しそうな目で眺めている。
そしてアビスは、微笑みながら言う
次回 霊界の桜編 最終回
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