11話 桜花舞う冥界の春風

アビスは言う


「2人とも、僕の治療をしてくれたんですね。ありがとうございます。助かりました」


何の悪意もなく、アビスは微笑みながら口にする


「いいえ、いいえ。私は…あなたを…」


椿は冷静さを失っている。

今できることは


「とりあえず皆さん、今日は僕の顔に免じて終わりにさせてください。また後日説明します」


「何言ってんだ、こいつらを俺たちと同じくらい痛めつけるまで…」


老人は再び石を握り締める。


「やめてください」


老人に腕を握る

自分でも気づかないくらい力が入ってしまい 


「いた、いだだだだ!やめろ!離せ!」


「僕はあなたたちのことももちろん守ります。それがこの剣を持った僕の使命ですから。けど、俺は許しあえる世界を目指します。だから」


「許さない」


睨みつける。


瞬間、空気が変わる


アビスの瞳が変わる。


暗黒を纏うその瞳は、全てを恐怖させる


「わ、わかったよ…今日は帰るよ…」


集まっていた人たちが帰っていく。


「すみません。少し手荒な真似になってしまいました。大丈夫ですか?」


「アビス。お前は」


霊夜は見た。アビスが発現させたあの暗黒の瞳を。


「アビス、ごめんなさい。私は貴方を殺そうとした。どんな罰でも受け入れます。私はもう、巫女の資格はない」  


どうしてそんなことを言う

誰が言わせた 


彼女に寄る


「一つだけ聞きたいことが。2人は、どうしてあんなことを?」


その言葉に沈黙が続く。そして


「わからないんだ」


霊夜が言う


「今の俺たちは、どうしてあんなことをしたのかわからないんだ。けど…」


「けど?」


「楽しんでた」


言葉が詰まる。楽しんでた?


「今ではその行いを悔いてる。けど、確かに俺は楽しんでた。あの状況を。戦いを。俺は…」


………


「霊夜、椿さん。他者に罰を与えられるのは、償いじゃない」


「アビス…」


「探しましょう、これから出来ることを。僕も手伝いますから」


あの行動が彼らの意思でないなら、何か必ず理由があるはずだ。俺はそれを知らなくてはいけない、ような気がする


「そうね…ありがとう、アビス。そう言うことなら早速行動しないとね!」


「はい、椿様…」


必死に笑顔を作る椿は見てとれた。

だが、今はこれで良いのかもしれない


必死に努力して努力して、


   

   人は”花を咲かせる”のだから



1ヶ月後


ある街中を歩く

そこに咲き誇る桜


「おぉアビス!うちの魚買ってくかい!!」


「お!霊夜もいるじゃねぇか!椿に綺麗な桜をありがとなって言っといてくれ!」


彼らはこの世界を守ると言う役割と償いを全うしている


最初はとても大変だった

信用を失った住人は1人ずつ謝罪とこれからどうするのかを真剣に話し合った


「積み上げるのは大変だが、崩すのはとても大変なのだな」


霊夜のあの言葉は今でも覚えている

そう、いつだって崩すのも壊れるのも一瞬なのだ


その中で俺たちは希望を見出すしかない

生きることを、諦めてはいけない


「さて、今日は戻りますか」


そして今日も俺は、あの冥界の結界の中で剣の鍛錬をする


これから待ち受けるもの

それは分からない。けど見つけてみせる


自分が剣を握る理由を


冥界に桜が舞う

暗かった景色を照らすように



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