8話 本能

長い、長い階段を登る。

さぁもう少しだ。もうすぐ始まる。巫女への謁見が。


「ぐっ…!?」


奥から感じる。なんだこの圧は。

気を抜いたら気絶してしまいそうな魔の流れ。俺がくるのを拒んでいるのか、それともこの程度の魔力で倒れるのなら彼女に会う権利すら得られないと言うのか。


気を集中しながら先へと進む。

すると


「待っていたわ」


顔を見上げる。そこには…


樹。一片の揺るぎもない樹が、そこに浮遊していた。彼女は何者にも砕くことのできない意志を持っていた。賢者になれなくても、認められなくても自分の意志で世界を守る。

彼女はどんな嵐にも耐えてきた樹。

それが、何故


「霊夜を倒したのね。すごいわ、アビス」


「椿さん。こんなこと、こんなことはやめましょうよ」


「嫌よ。どうしてかしらね。私、欲しくなっちゃったの。賢者の地位を。その為なら、この地に住む者たち全てを犠牲にしてでも私は獲ってみせるわ」


「……本気で、そんな事を望んでいるんですか。あなたは」


「あなたに何がわかるの!?私の苦しみを!どんなに努力しても手に入れられなかったこの悲しみを!私は必ず手にしてみせる!絶対なる力を!!」


空気が変わる。始まる、本気になった巫女との命のやりとりが。


魔術弾を放つ。 回避

ギリギリだが、これならかわせる。


「貴女は、この世界を、みんなを愛していた!何が貴女を変えた!どうして!?」


「それが私の本能だからよ!!」


乱れた魔術がアビスを襲う。

剣で弾き、かわす。


「ずっと心の中で思ってた。私こそが賢者にふさわしいと!気持ちがどんどん大きくなって、私は、私は!!」


充填された魔弾が発射される。これは受けきれない。ならば


「地天!!」


剣を地へ突き刺す。椿が放ったあの魔弾を自分の剣へ纏わせる。纏わせ…


「なっ……!?」


あまりに強大な魔力。それを剣だけでは受けきれなかった。ならば受けきれない魔力はどこへ流れる。


「かはっ…!」


アビスの全身に血が迸る。

全身が焼けるように痛い。

そう、この技を使えば何もかもが自分の力になるわけではない。彼にも限界がある。受けきれない分は直接身体へ流れる。


「けど、受けたぜ。この剣で!」


全身を使って剣を振るう。魔の斬撃が椿に向かって飛んでいく。


「そんなものっ!」


それを椿は…

片手で受け止め、抹消した。


「私は椿。賢者になる者。貴方の即席の魔術を打ち消すなんて、造作もない」


なす術無しか…?

考える前に、口が動く


「貴女の考えに、俺は感激したよ。賢者になりたい気持ち、それはこの前話を聞いた時によくわかった。貴女なら相応しいと思った。賢者に。民を、世界を大事に思う貴女を」


「遺言かしら?そう、君がそう思うように、私は賢者に相応しい」


「けど今は、そうじゃない。」


「………は?」


「今の貴女は、賢者に相応しくない!民を襲い、その力を誰かを傷つけるために使う今の貴女は、賢者になる資格はない!」


椿が笑う。彼女はもう俺を許さない。必ず殺しにくる。だが俺もそのつもりだ。勝たなければ、何もかも失う。勝利しかもう選択肢はないのだから。


「いいわ、なら消えて。私の世界に、君はいらない。」


これまで感じたことのない力が流れる。

来る。それを迎撃するは


剣を天へ刺す。そう、”全てを受け入れる”構えだ。俺は今から、彼女の放つ攻撃全てをこの剣と体で受ける。それだけが、勝機。


「俺は、貴女の夢を奪う。」


「私は、貴方を殺し、夢を叶える。」


貴女を、取り戻す。この身体朽ちても。

負けて、死んで失うならせめて勝て。

取り戻してから死ね!


「こいっ!!椿!!」


「くっ…!!桜花『開花』」


魔力の充填。充填完了。


「桜花『満開』」


「さようなら、アビス」


いいや、終わらない。俺も、貴女も。


天へ刺した剣へ誓う。特定の魔術を纏う地天では無い。そこにある全ての魔力を俺の力に…!!


「廻天っ!!!!」


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