第5話 強さ

セシルとレイはアリーが管理をしている「雲海」へと赴いた。


俺はと言うと、セシルは「神々のお社」と呼ばれる地帯を管理しているのだが、そこに自分の領域、異界を作り暮らしている「椿(つばき)」という巫女のところで剣の鍛錬を受けている。巫女というのは「世界の保全」。平和を守るために働く人を呼ぶのだが、七賢者は更にその上位互換なのだろうか。


そして椿の愛弟子、「霊夜」に鍛錬を受けさせてもらっている。



「アビス、本当に君は魔術を剣に纏わせることができたの?」


「できた!いっかいだけ」


鍛錬を始めて2週間、剣技をある程度習得した俺は、剣と魔術の両立を習っているのだがまぁうまくいかない。


「剣技の確認も踏まえてもう一度手合わせをする。魔術もまたあるならやってみろ」


「……はい!」


だがいたって俺は真剣だ。セシルやレイに追いつくには必ず越えなければいけない壁、そして霊夜にも勝たなければならない。


「ふっ…ふっ…」


霊夜の呼吸が荒くなる。そして


細く、鋭利な模造刀が素早く、確実に仕留めに来る。


「はっ!はああ!!」


すかさず対応、だが受け流しきれない。突かれた。渾身の一撃。いや、一つ一つが渾身なのだ。確実に急所を仕留めに来る彼の技は美しく衰えを感じさせない。強い。勝ちたい、これに打ち勝つ剣を!!


「くっ!」


刀を受け流す。そして、一撃、叩き込む


「対応が上手くなったな。けれど」


刀が、桜を纏う。これが彼の魔術。「桜蘭」


「これを受け切れるかぁ!!」


桜の吹雪が剣撃とともに襲い掛かる。

受けろ、受け流す!!


桜蘭の剣撃を受け流す。だが、無数の攻撃がまだ残っていた。




「っだはぁ!!!」


「やっと起きたのか。お前が魔術を扱えない限り、俺にも椿さんには勝てないぞ」


「くっ…」


超えられない。最初の壁。魔術を扱う術が分からない。


「だが焦らなくていい。時間はある。今日は終わりだ。椿さんに挨拶したら今日は帰って休め。」


「はい。また明日もよろしくお願いします」


足取りが重い。やれると思った。恐ろしい妖魔を倒した俺ならと。甘かった。あの時確かに俺は妖魔を倒した。だがそれと同時に無力さを思い知ったことを俺は忘れていたんだ。


「ちょうど今頃じゃない?自分の無力さを思い知っているのは」


長い階段を登った先で、椿は言った。まるでその痛みを、彼女は知っているかのように。


「はい。そうですね。俺は、弱かったです」


「剣技だけならまだ張り合える。けれど魔術が絡むと、この世界は一変する。弱肉強食というわけではないけれど、魔術に優れているほど、この世界では強く在れる」


その顔はどこか悲しそうで、何かを悟っていた


「椿さんの魔術は、すごかったですよ。俺が最初にここへ来たとき見せてくれた桜を使った魔術の弾丸。あんなことができる椿さんは立派な巫女ですよ」


「あら、そんなふうに思っていてくれたの。けれどね、賢者はそんなものではないわ」


「貴方の言う立派な魔術を持ってしても、賢者には敵わない。私はセシルから賢者の座を奪えなかったわ」


賢者の座は、魔術師が現在の賢者に挑戦をして奪い合うらしい。だが賢者と呼ばれる存在。中々座は変わらない。椿は、セシルとの決闘に負け、この地で結界を張り、静かにひっそりと世界を見守ってくれている。誰に言われるのでもなく、自分の意思で。


「けれどね、最近はこの暮らしも悪くないって思ってる。あんたも面白いし。霊夜がなんでもしてくれるし……明日も来るんでしょう?今度は私が相手をしてあげようかしら。魔術はそう簡単に扱えなくてよ?」


巫女と手合わせなんて命がいくらあっても足りないよ。だが


「ありがとう。是非お願いするよ」


笑顔で、俺は答えた。

鍛錬は大事だ。だが俺は、此処が随分と気に入ってしまったらしい。また明日も、俺は強くなるためにこの桜が歌う地で。


次の日


「っあぁああああああああ!!!!」」


「はぁ!!」


なんだ!?こんな早朝に。


外へ出る。そこで見たものは


「いやだ、助けてくれぇええ!!」


妖魔!?あれは、桜?


桜を纏っている妖魔。


「くっ、離れろ!」


妖魔を斬る。良かった。こいつはあの時ほどの強さじゃない。だが、桜…なぜ妖魔が桜を纏った?あの日見た禍々しさとは違う。


嫌な予感が、身体全身で感じさせる。確信なんて無かった。だが俺は自然に、2人がいる

桜舞う領域へと向かった。

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