第4話 賢者

微かな明かりが、僕を目覚めへと誘う。

女性の声と男性の声。母さん?父さん?

2人が大きな声で話をしている。ドアを叩く音がうるさい。


それは違う。おマエはそこにはいない


「……っはぁ!!」


目が覚める。そこは普段セシルと暮らしているボロボロの家だった。


「やっと目が覚めたぁ!心配したんだぞ!」


そこに居たのは僕たちを助けてくれた空色の髪を持った彼女


「こいつが居なかったら私たち死んでたかもね」


そんな軽く言われても困る。こっちも死にそうだったのだから。


「というか、アビスはともかくなんであんたが妖魔なんぞに追い詰められてんの」


「あんたも最終的にボロボロになってたじゃないの!あの妖魔は異常よ!あんなの見たことない」


確かにあれほど戦闘能力に優れた妖魔は見たことない。何よりその事はこの2人が知っているのではないだろうか。だがそれよりも


「なぁ、2人は知り合いなのか?俺から見たら他人の女性が急に助けに入ったようにしか見えなかったんだが。仲良さそうだし」


「「仲良くない!!!!」」


「いっ———!!!!」


甲高い声が家中に響き渡る。


「私たちは仕事柄一緒にいるのであって——」


この後2人による叱責は長時間に渡って続いた…


「それで、取り乱した悪かったけど私の名前はレイ。セシルと同じ七賢者よ」


「し、七賢者…?」


初めて聞くワードだ。セシルはこんなボロ家に住んでるだけのろくでなしかと思ったら実はものすごい魔術師でしたみたいな感じなのか?


「七賢者っていうのは、簡単に言うとこの世界の調停者。あんな風に妖魔が出れば退治して、事件が起これば解決する。んで私はこの地区を統べる賢者。レイはここから東、森林地帯の管理をしている。だからレイがここに来るはず無かったんだけど、どうしてかしらね。凶悪な妖魔が現れたと思ったら貴女まで現れるなんて」


セシルはこの辺り一帯を管理していて、レイって人は森林地帯の…理解がなかなか追いつかない。


「あの妖魔はさっきも言ったけど異形。最近ここらで良くない風が流れている、のはあんたも気づいてだと思うけど。そして、手紙を送ったはずのアリーの生体反応が今朝から感じられない」


生体反応が無い…?アリーは小さい頃からよくセシルと一緒に面倒を見てくれた人だ。


「ちょっと待て、アリーがの生体反応が感じられないって。そんな急に、どうして分かる?」


「七賢者同士はお互いの命を感じられる。だから—」


「アリーも七賢者!?賢者って、そんなポンポンどこにでもいるものなのか…!?」


思わず叫んでしまった。


「アビス、君は今まで知らなかっただろうけど、セシルに育てられたあんたは、まぁ…必然的に七賢者たちと親密な関係になっていると思うの。ただ勘違いしないで、この世界に7人しかいない選ばれた魔術師よ。7人で本気を出せば、この世界を消せるほどの力は持ち合わせてる。そのくらい心強く、危ない存在。それが七賢者」


「俺が知らないだけで、アリーが七賢者の1人…そしてそのアリーの生死が分からない。それって大問題じゃ!?」


「だからさっきからそう言ってるじゃ無いの!私たちはアリーのところへ行って事実を確認しなければならない」


セシルはこれまでに感じたことのないくらい焦っている。俺に、俺に何かできることはないのか。


……ある。俺はあの妖魔を、彼女たちを圧倒した妖魔を捨て身とはいえ倒している。だったら俺も、セシルやレイ、アリーも…


「あ、言っとくけどあんたは留守番ね、アビス」


って、はぁああ!!??


「なんでだよ!!俺はあの妖魔は倒した!だったら2人の力にだって!」


「アビス、あの時私たちは妖魔相手だったから手を抜いてた。まぁ、ナメすぎてやられたのは事実だけど…アリーのところにはあんなものじゃない力を持った妖魔がいるかもしれない。そこに昨日まで郵便配達をしてたあんたを連れてく理由がある?」


レイの言葉は圧力を帯びていたが、それはきっと俺を心配しての事なのだとわかっていた。けど…


「俺はあんたたちにも危ない目にあって欲しくない。それが七賢者と呼ばれるものであってもだ。妖精や巫女のように魔術もろくに扱えない俺が言うのもアレだが」


「アビス」


そしてセシルは言う


「あなたに、”その剣”を持つ覚悟がある?」


「ある」


俺は応える。剣を握り、この世界に蔓延る妖魔を討ち倒す。そしてみんなが幸せに暮らせる世界を。



彼は経験した。命を失う恐怖を。痛みを


大切な人を失う無力さを


ならば二度と失うかと、あんな痛みを誰に味あわせてやるかと、彼は握る。理想郷を目指して…




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