第2話 妖魔と巫女

光の柱の先に現れたのは、セシルだった。

どうしてこんなところにいるのだろうという疑問は今はなく、ただ安堵と同時に力が抜ける。


「ちょっ、あんたね大丈夫!?」


倒れかかった自分の肩を支える。けどだめだ、やはり力が入らない。


「傷は治しておいたけど、まだ完治してるわけじゃないからこのまま家に戻って安静にしてるのよ」


「それはわかったんだが、1つ聞きたいことがある。なんで今までずっと現れなかった妖魔が現れてるんだ」


妖魔の存在は知っていた。だが今まで見たことがなかった。人を襲う存在というものを。こんな命を危険にさらす出来事が。ただの一度もなかった。


「朝も言ったけどここ最近ラハブレムでは妖魔の出没が多くなってる。それを私たち魔力を持つ者たちが退治しなければいけないのは当然のことよ。ただ、あんたには見せた事なかったね」


昔もそんな戦いがあったのかと必死に納得しようとする。というか、魔力を持つ者?まるで巫女だなとふと思った。俺は小さい頃にセシルに拾われたがそれ以前の記憶はない。


「とりあえず他の場所にも妖魔がいるかもしれないから私は周りを見てくる。あんたは」


「俺も一緒に連れて行ってくれ」


セシルの言おうとしたことを否定するように自分の意見を言った。単なる興味本位じゃない。もっと大事な、崩れた日常を取り戻すために。


「あんたが行っても足手まといなのよ!?死ぬだけ!!だから家に送るからそこで!」


「自分の身は自分で守る!俺のことは気にしなくて良い!俺は…俺で戦う!」


剣の鍛錬をした事はあっても戦ったこともない自分が何を言ってるんだと我ながら呆れる。けど、セシルが危ない目に遭うのなら俺だってそれを引き受けたい。


「戦ったことのないくせになにカッコつけてるのよっ!!第一あんたに教えてきた剣術は妖魔にはほとんど通じない!それくらい妖魔は危険なの!」


「それでもセシルを少しでも守れるなら俺はっ!」


———木々が揺れる


闇が近づく  来る


「はっ…!?」


さっきと同じ気配。まだ妖魔が近くにいるのか!?


「あんたは下がってて!私が!」


「だから俺だってやれる!さっきは、その…不意打ちをくらっただけで真正面からなら!」


「剣は?」


………そんなもの持ち歩いてるわけないだろこのバカ。拳でなんとかしようと思ったが確かに冷静になったらそんなの…不可能だろ!!!


妖魔が姿を現す。赤い目、黒いモヤがかかった身体。さっきの猿のような妖魔とは違う形をしているみたいだ。今回のは人の形そのものだ。


「剣はないのに戦うなんてよく言ったものね。もういいから下がってて!こんなの私だったらぱぱっと終わらせるから」


黒い影が高く舞い上がる。それはもう人の力ではなし得ない跳躍力だって。それに白い巫女が迎撃を…


「はっ?何その動き!?けど甘く見ちゃ痛い目あうわよ」


巫女は飛び上がり、飛んだ黒い影に追いつく。上昇した二体は自分の目では点のようにしか見えない。


「はぁーあ!!」


光の柱が妖魔を襲う。妖魔は体を捻らせそれをかわす。


「う…そ?」


妖魔はすかさず巫女を地面へ蹴り落とす。


「っぁあ…」


白い巫女が地面へ叩きつけられる。


ありえない。そんなことが。さっきは妖魔を圧倒的力で薙ぎ払ったセシルが、目の前の黒い影に圧倒される。


「そ、んな…」


足が震える。呼吸が乱れる。俺は、どこかで期待していた。セシルがさっきのような圧倒的な力でこの妖魔を圧倒する姿を。だがいざ目の前に奴がいると、俺は何もできない。


「な、んで」


「そこの人下がってーー!!!」


「えっ?」


次の瞬間、雷鳴の如く現れた雷が黒い影を吹っ飛ばす。


「は?え、…は?」


「君!セシルなら大丈夫!君は早くこっちへ!」


木の奥から声が聞こえてくる。そっちへ?

セシルを置いて?だが黒い影はまだ倒せていない。今度こそ、あいつを…倒す。

そして俺はセシルを置いて、黒い影の奥へ向かった。

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