〈エミ視点〉







沙優ちゃんの背中を見送ってから

止まらない涙を必死に

拭き取りハンカチでパタパタと

自分の目を仰いで乾かしていると





話した事のない違う学科の子が

「あの…」と声をかけてきて

「えっ…」と顔を向けると…





女「あの…多分…早く行った方が…」





「・・・・へっ…」





女「その…皆んな…待ってますから…」






先輩達の事かなと思いながら

ペコッと頭を下げて正門の方へと歩いて行くと

坂の上に立ち正門に顔を向けて

歩く足が止まった…





正門には沢山の人がいて

ガヤガヤと騒いでいるのが分かり





( カオル先輩は? )





不安に思いながら

下駄の狭い歩幅で一歩ずつ降りて行くと

人混みの人達がコッチを見て

「来た」と騒ぎ出したから

(えっ…)と戸惑い顔を下に下げて

なんだろうと少しずつ降り行き






女「本当にカオル先輩の彼女なんだ…」





女「シンデレラじゃんッ!」






耳に入ってくる声に

正門にいるカオル先輩を見て

噂しているのかなと思い

少し顔を上げて見ると…







( ・・・・ぁっ… )







カオル「笑実ちゃんの卒業式には

   正門で花束を持って立っててあげようか?笑」






「かすみ草の花束がいいです…笑」






カオル先輩が約束通りに

かすみ草の花束を持って

待っててくれているのは

知っていたけれど…






「・・・・目立ち…すぎでッ…す…」






せっかく止めた涙は

また、視界を滲ませていき

何でこんなに人が集まっていたのかも

カオル先輩を見て…分かった…






カオル先輩は…私が想像していたよりも

大きな花束を両手に持っていて

沢山のかすみ草の中に

大きな赤い薔薇が一輪輝いていた…






誰が見ても特別なその花束を

抱えているカオル先輩の元へと歩いて行くと

「うちのお姫様は待たせるからね」と

笑っていて「すみません」と謝ると

周りからスマホを沢山かざされているのが分かり

「カオル先輩は人気者ですね」と

マーチ曲に出てくる歌詞を使って揶揄うと

「約束したからね…」と優しく微笑んでから






カオル「笑実ちゃん…卒業おめでとう」






そう言って花束を差し出された瞬間

周りから悲鳴と一緒に沢山のフラッシュと

シャッター音が聞こえてきた…








カオル「守ってあげるよ…俺の可愛い彼女だからね」







カオル「来年からはヒョウ達にもあげていいけど

   今年のこのチョコだけは

   誰にもあげちゃダメだよ?」






カオル「笑実ちゃんの誕生日には…

   サングリアでお祝いしようか?笑」






2年生の楽しい学校生活を

手放してしまったとしても…



カオル先輩のくれた幸せな日々は

それ以上に私を幸せにしてくれた…






カオル「ふふ…そうだね?笑

   俺は…笑実ちゃんの〝普通〟を

   好きになったからね…」






カオル先輩が…

私を好きになってくれて…良かった…




私の初めて恋をした相手が

カオル先輩で…良かった…






カオル「・・・・この学生最後の年は…

   俺との思い出で一杯にするよ…」






( 本当に…約束…守ってくた… )






きっと…来年も再来年も…

10年経っても…20年経っても…




私の短大生の思い出をたぐろうとすれば

今日この日を真っ先に思い出すだろう…






「ありがとうございます」と受け取り

カオル先輩の目を見て

「大好きです…カオル先輩」と伝えると

私の手にある大きな花束を見て

「意味は分かってる?」と問いかけられた






「・・・意味…ですか?」


 




カオル「笑実ちゃんからの

   プロポーズへの答えなんだけど?笑」






「・・・…ぷろ……えっ!?」






私からプロポーズなんてした記憶は無く…

カオル先輩の言葉に驚いていると






カオル「かすみ草の花束は永遠の愛を誓う…だよ?笑」






「・・・へっ…」






カオル「その花束を下さいって言われたら

   俺も返事をしなきゃいけないからね?笑」






「・・・へん…じ…」






腕の中のかすみ草と薔薇一輪の花言葉を

想像してみるけれど…






( かすみ草の花束の時点で… )






カオル先輩の返事は…

そう思いながら花束から

カオル先輩の顔へと首を上げていくと






カオル「その意思がなかったら

   あんな事はさすがに出来ないよ…笑」






そう言いながら人差し指で

私のお腹をトンっとついてきたから

先輩の言う〝あんな事〟が分かり

顔に熱を感じてパッと俯けた…






カオル「俺の学生最後の年は

   ホント…笑実ちゃん一色だったよ」





「・・・・・・」






ゆっくりと顔を上げて

カオル先輩の顔を見上げると

先輩の両手が私の頬に添えられた…







カオル「連絡取れなくて探し回ったり

   知らない人間と食事に行って  

   柄にもなく緊張してたし

   女の子と二人だけで花火大会なんて

   行った事なかったし

   俺にとっても初めての事だったからね…」






「・・・・カオル先輩…」






カオル「キャンプにも行ったし

  門限で縛り付けて

  俺の側に置こうとしたり…」






「・・・・・・」






カオル「離れてる間は…

   毎日スーパーに探しに行ってたし

   10月13日には…

   キツイ誕生日を経験させられたし…

   ホント…笑実ちゃんには…

   だいぶ泣かされたからね…」






私もカオル先輩との思い出の中には

幸せな記憶と一緒に泣いた記憶や

無茶な門限にムクれた日々もあったけれど…





( きっと…先輩も同じだったんだ… )





カオル「クリスマスに笑実ちゃんを

   抱きしめた時には

   長かったなと思ったよ…

   俺の腕の中に帰ってくるまで

   本当に長かったなって…」





「私も…先輩に抱きしめられながら

  そう思ってました…

  やっと…帰ってきたんだって…笑」






先輩の腕の中で目を閉じながら

夢なら覚めないでと何度も思ったから…





カオル「花束の…返事ちょうだい…」





そう言って額を私のオデコに

くっつけてきたから

私が答えを伝えると

この大勢が見ている前で

また…キスをするんだろうと思った…





あざとくて…狡くて…可愛くて…

とってもカッコイイ私の…

私だけの…野獣さんだ…






「記念日には…

 毎年かすみ草の花束をください…」





カオル「ふふ…毎年その〝返事〟に返してあげるよ」



 




カオル先輩の唇が近づくのが分かり

目を閉じて先輩からの優しいキスを受け入れると

また…周りから沢山の悲鳴とシャッター音が聞こえた…





出会ったあの日から…

カオル先輩は私との約束を全て守ってくれた…






カオル「お願いだから…戻ってきて…」






( ・・・今度は私が約束します… )






唇を離してカオル先輩に

「ずっと…側にいます」と伝えると

先輩は「約束してよ」と言ってきたから







「・・カオル先輩との約束は必ず守ります…

  もう…カッコ悪い位に離れません…笑」






カオル「ホントに悪戯好きになったよね…笑

   あんまり生意気だし…久しぶりに躾けようかな…」







そう言ってまた近づく唇に

今度は深いキスをしてくるつもり

なんだろうなと思いながらクスリと笑った…







( 本当に…困った野獣さんですね…笑 )









♡Fin♡










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