〈エミ視点〉








卒業式を終えて

自分達の学科の教室へと行き

一人づつ卒業証書を手渡されていき

自分の名前が呼ばれ「はい」と言って

教壇の前に歩いて行くと

証書を差し出した先生から

「よく…頑張ったな」と言われて

胸の奥と一緒に鼻の奥も…

ツンッとして自分の口元が震えたのが分かった





( ・・・・終わったんだ… )





今の先生の言葉を聞いて

「あと11ヶ月の辛抱だから」と

必死に言い聞かせたあの日々を思い出した…





自分のベッドの上で

交流会に誘われてないと知って泣いた日も…





GWの…あのカラオケでの後に

悔しくて声を出して泣いた日も…






( ずっと…卒業式はくるからと思っていた… )






どんなに嫌で…苦しい学校生活だったとしても

辛い毎日は確かに1日、1日と進んでいて

ずっと…永遠に続くわけじゃないから…





「・・・にっ…2年か…ん

  ありがとう…ッ……ございましたッ」






涙を流したまま証書を受け取り

先生にそう伝えると

「卒業おめでとう」と小さく頷く先生に

頭を下げて証書の入った筒を抱きしめて

自分の席へと腰を降ろすと

教室からパチパチと一つの拍手が聞こえて

顔を向けると橋の席にいる亜香里ちゃんが

手を叩いていた…





アカリ「・・・・・・」





亜香里ちゃんは何も言わないまま

顔を前に向けたけど

それが亜香里ちゃんなりの

謝罪の意味なんだろうなと思い

席に座った後も流れる涙を拭き取った





1度流れ出した涙は中々止まってくれず

1つ溢れる度にあの辛い日々の

1日、1日の記憶が蘇ってくる…





一人でお弁当を食べていた教室の端や…

沙優ちゃんと皆んなの目から離れたくて

毎日通った非常階段も…





大丈夫…平気と

どんなに言い聞かせても

悲しいと感じてしまう自分の心に

必死に蓋をしていた…





最後の挨拶を終えて

ハンカチで涙を拭いて顔を上げると

里奈ちゃんと亜香里ちゃんが

コッチを見ていて「バイバイ」と

口にしているのが分かり

私も「バイバイ」と笑って口にした






一緒に写真を撮ったり

「また…」とお互いに言う合う

事はなかったけれど

この教室で並んで笑っていた日々は

確かにあったから…





サユ「行こうか?」





肩に手を置いてそう言ってきた

沙優ちゃんの目も赤くて

沙優ちゃんもこの学校での日々を振り返り

泣いたんだと分かった…





「うん」と頷いて二人で手を繋いで

教室を出て行こうとすると

入り口の部分で立ち止まり

「写真撮らなくていいの?」と

問いかけてきた






サユ「ある意味…

  カオル先輩との思い出の場所じゃない?笑」





「・・・・・・」






入り口に立って

あの日私が座っていた席を

見上げながらカオル先輩が

「なんで言わないの」と

私を…守ってくれた日を思い返した…






( ・・・1番辛くて…幸せな日だった… )






ツカサ先輩との噂が広まっていて

胸が苦しくなるような言葉を投げかけられて…

涙を流した日だったけれど…




その後に流れた幸せの涙の方が…

遥かに胸に響いた…






「・・・・大丈夫…

  あの日の思い出は胸の中にあるから…笑」






そう言って沙優ちゃんと学食や

就職係を回ってお世話になった

先生達と沢山の写真を撮った…





正門に行こうとすると沙優ちゃんが

繋いだ手をそっと離し

「先に行くね」と言い出し

「えっ?」と問いかけると…






サユ「私が横にいるとカオル先輩から

  邪魔って睨まれちゃうから!笑」





「そんな事ないよ…」






沙優ちゃんと一緒にこの学校の正門を潜りたくて

手を握って一緒に行こうと言うと

沙優ちゃんは首を小さく横に振った





サユ「笑実ちゃん…

  この2年間…すっごく楽しかったねって

  言ったら正直嘘になっちゃうけど…

  笑実ちゃんと一緒にパンを焼いたり

  試験勉強をしたり…寝坊したり…笑

  一緒に…朝まで恋バナしたり…

   楽しかったね?笑」






「・・ッ…うん…楽しかった…」





サユ「1番の思い出はやっぱり…

  一緒に浴衣を選びに行ったり

  笑実ちゃんオススメの変な体操したりで」





「変じゃないよ…笑」





サユ「笑実ちゃんがいて楽しかったし…

  笑実ちゃんに沢山支えて…もらったッ…」






沙優ちゃんは私を抱き寄せて

肩に顔を乗せながら「ありがとう」と

何度も言うから私も沙優ちゃんの背中に

手を添えて「私の方こそ…ありがとうだよ」と

沙優ちゃんの肩にトンっと頭を乗せて

美味しい柚茶を出して笑っていた

沙優ちゃんの笑顔を思い出しながら

「沙優ちゃん…またね…」と呟いた





今日の卒業式が終わり

明日には寮に入って保育園の

卒業式と入園式の準備を手伝う事になっているから

沙優ちゃんとはしばらく会えなくなる…





サユ「うん…またね…笑実ちゃん…」





私がこの学校で勇逸「またね」と

言える相手は私の恋をずっと側で見てきた

沙優ちゃんで…





バレンタインの日に

「カオル先輩が怒るのは当たり前だよ」と

教えてくれなかったら…

あんなに早くに仲直りは出来なかったし





先輩が初めて怒鳴った日も…

あのバイト先に怒って現れた日も…




あんなカオル先輩を前に

私を庇うのはきっと怖かったはずだ…






「電話…沢山するから…

  仕事のそうッ…だんとか…きいて…ねッ…」






サユ「聞くよ…あたしもッ…沢山かけるね…」







沙優ちゃんは私の肩から顔を離し

顔を上げて「がんばれ笑実先生」と言って

ニッコリと笑うと手を振りながら

先に正門のある坂道へと歩いていった…












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