もう一人の…野獣
〈アキラ視点〉
ガチャッと勢いよく開いた扉から
「寒いな」と入っきたサトルは
腕を自分の手でガサガサと摩りながら
電気ストーブの前に座り込み
「コーヒー頼むわ」と言っている
アキラ「引っ越しの準備でそれどころじゃねーよ」
サトル「湯を沸かして混ぜるだけだろうが?笑」
文句を言いながら立ち上がって
ガスコンロの前に行くサトルに
「俺のも頼むわ」と声をかけると
「おぉ」と返事が聞こえ
「ふっ…」と小さく笑ってから
クローゼットの中の荷物を
段ボールへと詰めていった
( ・・・明日だったな… )
サトル「・・・・・・」
シュコシュコとヤカンが温度を上昇させる
音と電気ストーブの音だけが聞こえる中
いつも賑やかなサトルは何も言わずに
ヤカンを見つめ続けていて
アイツが何しに来たのかも
だいたいは分かっていた…
アキラ「・・・お前が…
そんな気遣いの出来る奴だったとはな…笑」
段ボールにガムテープを貼り付けながら
そう笑って言うとサトルは「ふん…」と
笑うだけで何も言わずに
沸騰したヤカンの火を止めて
カチャカチャとコーヒーを煎れている音が聞こえる
マグカップを手に電気ストーブの前に
腰を降ろして「ん」と俺の胡座をかいている
足元近くに湯気のたつマグカップを置く
サトルに「サンキュ」と言って
手に取って一口飲むと予想通りに
熱いコーヒーに少しだけ眉を寄せたが
サトルの煎れるコーヒーを飲むのも
数える位か…今日が最後だろうなと思い
「美味いな」と伝えた…
サトル「・・・・美人と野獣って…知ってるか?」
アキラ「あー…お前とツカサが歌ってた
あの変な曲のアニメだったか?笑」
サトル「俺は歌ってねーよッ!!」
もう1年以上前になるんだなと
あの日の事を思い出し
また口に運ぶコーヒーが美味く感じた…
サトル「・・・カオルは…野獣らしいぞ…」
アキラ「・・・・だろうな…笑」
あの歌を歌ってくれと言ったアイツの
好きなアニメなんだろうと思い
アイツの好きなカオルは…
アイツの…笑実にとっての
野獣だろうからなと思ったから…
サトル「・・・情けなかったからな…
カオルの奴は笑実が離れたら
情けねー…野獣になってたからな…笑」
アキラ「情けない野獣?笑」
サトル「あのアニメのシーンであるじゃん
村娘の女を自分の元から手放して
こう…塞ぎ込んだ
犬みてぇになってるシーンが
あれにソックリだったからな?笑」
そんなシーンあったような無いようなと
曖昧な記憶を辿っていると…
サトル「だから!
カオルにとっての村娘は笑実なんだよ…」
アキラ「・・・・・・」
サトル「お前にとっての村娘は…
そのうち向こうから現れてくるから
それまでは城の中で大人しくしてろ…」
アニメをあんまり覚えていないから
正直…何言ってんだと
訳が分からなかったが…
( コイツから失恋の慰めをうけるとはな… )
俺たちのグループの中でも
ツカサとサトルは直ぐにバカな行動を起こすし
ガキ臭せーなと感じる時もあったが
そのガキ臭いと感じていたサトルから
こんな風にフォローめいた言葉を言われる
日がくるなんて今日まで思ってもいなかったから
何となく可笑しく感じ「ふっ…」と
鼻で笑っていた…
アキラ「・・・・だいたい…
美人って柄でもねーしな?笑」
サトル「だよな!?
カオルの奴は…
アイツは目がどーかしてんのか?笑」
サトルの言葉に「多分な」と
笑いながら答えると
さっきまで気不味そうに
真面目な顔で話していたサトルは
顔を上げて「平凡と野獣だろッ!」と
イキイキとした表情で話していて
相変わらずアイツに酷い奴だなと
呆れながら笑った
サトル「まぁ…平凡で地味で
大して可愛くはねーけど
明日の卒業式が終わったら
笑実とも会えなくなるからな…」
アキラ「・・・・そうだな…
次に会えたとしても…ないか…」
次に会えるのはカオルとの結婚式か
と言いかけたが呼ばれる事は
ないだろうなと思いマグカップを置いて
新しい段ボールに荷物を詰め出した…
カオル「・・・沙優ちゃんはシュウの後輩だよ…」
アキラ「・・・・・・」
カオル「笑実ちゃんの友達だし…」
アキラ「・・・・・・」
カオル「・・・何よりも俺のだよ…」
カオルの言葉に目を見開いて
カオルを真っ直ぐと見ると
「笑実ちゃんは俺のだよ」と
真っ直ぐと射抜く様な目で言われ
カオルも…サトルの様に
どこかで気付いていたんだと分かった…
本人である筈の俺は
ギリギリまでその想いに気付けなかったがな…
サトル「・・・最後に会わなくていいのか?」
アキラ「会う必要はないからな」
サトル「想いを伝えろとは言わねーけど
アッチのガキや笑実の顔位見といたらどうだ?」
アキラ「・・・・多分…会わない方がいい…」
サトル「・・・・そっか…」
あの日…アイツに金を返しに行った日に
思わず手を伸ばそうとした…
俺を見上げるアイツの頬に触れて
自分の気持ちを確認しようとしたけど…
アキラ「・・・あんな顔されたらな…」
サトル「・・・・・・」
きっと俺はサトルの言う通り…
カオルが大切にするアイツを
自分にも欲しかったんだろう…
「先日は…お世話になりました…」
「アキラ先輩のお住まいはこの辺りなんですか?」
「何にも…悪い事してませんから…」
思い返してもヤッパリ変なガキで…
「ふっ…」と笑いが出てくるが…
( アイツな物語に俺は登場しない… )
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