嘘は…

〈コウ視点〉









シュウ「久しぶりの学食喜んだだろうな?」





ファミレスのメニュー表を広げて見ていると

シュウが定食のページを見ながら

「なっ?カオル先輩?笑」と上機嫌に笑いだした





ヒカル「まさかずっと学食行ってなかったなんてな」





ヒョウ「チワワは手作り弁当派に見えるしね」






揶揄い続けるシュウに「煩いよ」と

カオルは笑っているけど…






( ・・・ホントに…カッコイイ奴だな… )






顔がいいのは前から知っていたし

ヒョウやシュウやヒカルだって

カッコイイ顔をしているから

ズバ抜けてカッコイイなんて

感じた事はなかった…




カオルが笑実ちゃんと付き合いだし

歪んだ愛情には少し…引いた部分はあったが…





クラスで孤立している笑実ちゃんの為に

隣の女子大に乗り込んで行ったり

ツカサの時もドアを蹴破ったのはカオルだった…





(数人がかりで押してもびくともしなかったのに… )






カフェテリアで教授に呼び出された

ヒカルを皆んなで待っていると

「カオル」とルナがやってきて

お金を渡してきたから

「何の金だ?」とシュウが問いかけると…






シュウ「学食行ってねぇの?」





コウ「そういやカオルと付き合っているの

  2年になった初日にはバレたんだったな…」






クラスでも…学校でも

浮いた存在だった笑実ちゃんが

学食に行けるわけがなく…

カオルは自分と別れた後は

沙優ちゃんと行けているのかと思っていたらしく

年が明けても毎朝弁当を作る笑実ちゃんを見て

1年生以来行けてないんだと気付いたらしい…





笑実ちゃんがカオルの事を

大好きな映画の野獣みたいだと言った時は

酔っていた事もあり皆んなで揶揄ったが…





「・・・いつも…守ってくれます…」





笑実ちゃんから見たカオルは

まさにヒーローなんだろうなと

「フッ…」と笑って

メニュー表を覗き込んでいると






♫〜♩〜♪






カオルのスマホから

聴き慣れた陽気な曲が流れ出し

「電話だぞ」と顔を向けると

横から画面を覗き込んでいるヒョウが

「チワワじゃん」と言って

学食のお礼を早速かけてきたのかと思い

相変わらずカオルに懐くチワワだなと

メニュー表に目線を戻した






カオル「お疲れ様…笑」





「おっ…お疲れ様です…」





LINE電話は通常の電話よりも

音量が大きくスピーカーにしていなくても

声が漏れ聞こえる事がよくある…





( ・・・なんだ… )





てっきりニコニコとした声で

話すと思っていた笑実ちゃんの声は

少し緊張しているようで…震えていた…





「カオル先輩…あの…

  学食…ありがとうございました」





カオル「美味しかった?笑」





「ハイッ…日替わり定食にしました…笑」





カオル「今日の日替わりはなんだったの?」






笑実ちゃんの声の異変には気付いているだろうが…

気づいてないフリをして

カオルが優しく問いかけると

笑実ちゃんの声も笑いが混じりだし

ホッとして聞いていると

日替わり定食のメニューの話が終わり

また笑実ちゃんが「あの…」と

不安気な声を上げ出し…






「少し帰りが遅くなると思うんです…」







( ・・・・・・ )







カオル「今ファミレスに来たばかりだから

   1時間半くらいはココにいると思うよ」






「1時間半…でも、その…

  どれ位かかるか分からないので

  先に帰っててください…」






年明けからの笑実ちゃんは

学校が終わるとカオルの元に直ぐに

走って来て以前よりも

カオルの隣りにいるイメージだったから

何かあったのかと顔を上げると

ヒョウやヒカルも顔を向けていた





「その…しゅっ……」





カオル「・・・・・・」





「就職係に行くので…」





シュウ「・・・・・・」




コウ「・・・・・・」






ここにいる5人全員が

きっと…あの9月の事を思い出しただろう…





( よりによって、また就職係… )





沙優ちゃんの部屋に行きますとでも

言えばいいのにと内心頭を抱えていると

「そう…」とカオルの声が聞こえ

また怒っているのかと嫌な冷や汗をかきだした…







カオル「ファミレス後は…

   シュウの部屋にいると思うよ」






カオルの声はやはり笑ってはいないが

9月の様に怒っている感じもなく…

「帰って来るな」なんて言いそうな

雰囲気もなかったから少し肩を下げて安心した





「・・・・・・」





カオル「用事が終わったらシュウの部屋においで」





「・・・カオル先輩…

  私…もう嘘はイヤです…」





カオル「・・・・・・」





ホッとしたのも束の間で…

雲行きの怪しい会話に(えっ…)と

また顔をあげると

「離れたくないです」と聞こえた…





「カオル先輩と…離れたくないです…

  だから…就職係に行ってきます…」






カオル「・・・・・・」






「今度は…本当に…

 就職係に行ってから…先輩の部屋に帰ります」






俺は固まったまま

カオルを見続けていると

カオルも目を見開いたまま固まっていて

隣りに座っていたヒョウが

カオルの手からスマホを取り上げて

「チワワ島に帰んないの?」と

大声で問いかけていて

カオルもヒョウがスピーカーにした

自分のスマホを見つめていた






「ヒョッ…ヒョウ先輩??」





ヒョウ「ちゃんとカオルも横にいるよ

   それよりも就職係に行って

   カオルの地元の就活始めるんだよね?」





「ネッ?」と再度問いかけるヒョウに

笑実ちゃんは少し黙った後に

「カオル先輩…」と不安気にカオルを呼び

カオルはスマホを見つめたまま

「ちゃんといるよ」と小さく答えると





「・・・・島には…帰りません…

   カオル先輩と…一緒にいたいです」





ヒョウが口を開けたままニコニコと笑って

カオルの背中をバシバシと叩いていて

それなりの音が響いているから

間違いなく痛いはずだが

カオルは笑ったまま

ヒョウの手からスマホを取り

自分の耳にあてて

「一緒にいたらいいよ」と

電話の向こうで緊張しながら

スカートをギュッと握り電話をしているであろう

笑実ちゃんに優しく話していた





カオル「でも今日は求人の

  企業資料だけ貰ったら帰っておいで」





「えっ…」






カオル「地理…分かんないでしょ?

   治安の悪い地域だってあるし

   変な会社の面接取り付けたら大変だからね?」






カオルの地元は確かに

治安の良い地域ではないが…






( 一緒に住める距離の会社にする気だな… )






相変わらず独占欲の強い

歪んだ愛情だなと小さく首を横に

振りながらも自分の口の端が

上がっている事にも気づいた





シュウ「オイッ!帰るぞ」





メニュー表を閉じて棚に戻し

コートを着ろと促すシュウに

イキナリ何だと顔を向けると

「今日はうちで鍋を食いながら飲むぞ」と

笑いながらカオルに顔を向けていて

笑実ちゃんが地元の内定を蹴って

カオルの側にいようとした事の

お祝いに飲むと言っているんだと分かり

「内定なくなって飲むのか?」と

呆れながらコートに手を通した






カオル「お鍋準備してるから早く帰っておいで」






「ハイッ…笑」






スーパーで買い物をして

鍋の準備をしていると笑実ちゃんが帰って来て

貰って来た資料をカオルに見せていると

カオルは笑実ちゃんの腰に腕を回し

抱き寄せたまま資料を眺めていて

「カオル先輩ってば野獣!笑」と

揶揄うヒカル達にカオルは

「だいぶ我慢してるよ」と言って笑っていた







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