あと少し…

〈エミ視点〉








【 あと20分で着くよ 】





カオル先輩からのLINEを見て

周りの人から気づかれない様に

にやけそうになる口元を隠した





( 1週間ぶり… )





28日にお互い帰省をし

お正月の三が日が過ぎた今日…

コッチに帰って来て

先輩に会うのは1週間ぶりだった…





駅のホームを見渡すと

まだ帰省ラッシュ前なのもあり

トランクをひいて歩いているのは

私を含めても数人だけで

カオル先輩の電車が着くまで

ベンチに座っていようかなと考えていると





ジン「なんでいるんだ」





「えっ?」と首を右に少し向けた先に

ジン先輩が立っていて

特別荷物も持っていないから

帰省してきたわけでも無いようだった…





「明けまして…です…

  今年も宜しくお願い致します」





ジン「カオルから聞いてんのか…笑」






ジン先輩は去年、お爺さんが亡くなっていると

カオル先輩から聞いていたから

「おめでとう」とは伝えずに頭だけ下げると

ジン先輩は「出来た嫁だな」と笑っている





「先輩は…早くに帰って来ていたんですか?」





ジン「今年は帰らずにユウト達と年越したんだよ」





先輩は「着いて来いチビ」と言って

駅の端に設置されている

自動販売機へと歩いていくと

お金を入れて「年玉だ」とボタンを押すように

顎でクイッと自販機をさした





いいのかなと思いつつも

ジン先輩がこんなに優しいのは初めてで

「頂きます」と言ってお汁粉のボタンを押すと

隣りから小さく笑い声が聞こえてきて

先輩は「ババアか?」と言いながら

ブラックコーヒーのボタンを押し

ガコンと落ちてきた2本を取り出して

「ほら」とお汁粉を差し出してきた






ジン「お前…カオルとはいい感じなんだろ?」





「・・・仲良くさせてもらってます」






ジン先輩は今だに少し緊張するし

「付き合ってます」と親しげに答えるのも

変な感じがしてそう答えると




「いつの時代だよ」と呆れた様に笑っているけど

カオル先輩と付き合っていた夏に会った時や

ドラッグストアで会った時よりも

優しい雰囲気で…

少しだけ距離が近づいている気がした







ジン「この子ホントにお気に入りなのか…」






( ・・・最初は嫌な先輩達だったな… )






一年生の時のジン先輩達は

本当に意地悪で嫌な先輩達に見えていて

コンビニで見かけたりすると逃げる様に

コンビニからそっと出て行ったりしていた…





ツカサ先輩は色々あったけど

コウ先輩達みたいに「笑実ちゃん」と

名前で呼んでくれて…

たまに会うと「試験はどうだった」と

声をかけてくれるし




1番苦手だったサトル先輩からは

大きなクリスマスプレゼントをもらった…





( ・・・名前呼びも…嬉しかったし… )





ユウト先輩は最初からいい人で…

アキラ先輩は…





「・・・・・・」





ツカサ先輩から連れ込まれた部屋の中で

アキラ先輩の叫び声とドアを叩く音に

少しだけホッとした自分がいた…




誰も気付かないまま

あの暗い部屋でツカサ先輩と

そうなるんじゃないかと怖くて…

「助けて」と泣きながら何度も叫んだから…





( 店長の事も…気づいたのはアキラ先輩だった… )





アキラ「前に店に行った時あのオッさん変だったしな…」





アキラ「カオルの事が本当に好きなら入れ…

   怖くて、自分が一番なら今すぐ引き返せ…」






アキラ先輩は他の先輩達とは少し違って…

ちょっとだけ特別な存在だった…






( ・・・特別な… )






ジン「イヴの飲み会でサトルが

   カオルを情けねーって散々罵って

   背中を押してやってたからな…」






「・・・えっ?」






ジン「あっ!コレは聞いてないのか?

   好きなら泣いて縋って来いよって

   なんか…熱く語ってたぞ?笑」






「・・・サトル先輩が…」






焼き鳥屋で隣の席にいたのは聞いたけれど

そんな風に背中を押していたなんて話は初耳で

改めてサンタクロースだったんだなと思った





ジン「お前と別れた後のカオルは…

   確かに「カッコイイ」とは言えなかったしな」





「・・・・・・」





シュウ先輩達からも

「こんなだったぞ?笑」と

野獣のアニメを見ながら言われたけれど

ジン先輩から聞くと少し私の受け取り方が違って…




( ・・・・早く会いたい… )





カオル先輩に早く会ってギュッとしてほしくなり

上に設置されている大きな時計に顔を向けると

「カオルも帰ってくんのか?」と

コーヒーを飲みながら問いかけてきた

ジン先輩に「はい」と頷くと

「だからか」とまた小さく笑い出した






ジン「お前、成人式なのに

   トランクひいてココにいるから

   何でだって不思議だったけど

   カオルに会いたくて帰って来たんだな」





「・・・・はい…」





一週間もしないで地元で成人式があるから

お兄ちゃん達からも何で帰るんだと

不思議がられていたけど…






「・・・・もう…1月ですから…」






カオル先輩とは…

3月の半ば過ぎまでしか一緒にいられないし

少しでも一緒にいたくて三が日明けには

一度帰ると無理を言って帰って来ていた…






ジン「・・・お前カオルと同じ所で就活しねぇの?」






「・・・・その…12月の…

   クリスマス前に採用の連絡が…」






ジン「・・・あぁ……なるほどな…」







カオル先輩と

また一緒にいれるなんて思ってなくて…

お兄ちゃんの紹介で地元の役場の面接を受けて

来年の春からまた地元に帰る事になっていた…





私の地元の島と

カオル先輩の地元は離れていて

日帰りで会える距離ではなく…

島と行き来する船の本数もそう何本もないし

会えるのはGWやお盆などの長期休暇だけになる…





ジン「・・・・まぁ…

   カオルはお前に惚れきってるみたいだし

   離れても前みたいにはならねぇだろうしな」






「・・・・でも…」






ジン「・・・・ん?」






「・・・・・・」






あの日から…

アキラ先輩が私に会いに来た日から

自分の中で何かが落ち着かなくて…



春から遠距離になる事に

不安を感じていた…





( ・・・もう…直ぐには会えない… )





離れていた時期にも何度か

偶然に会えていたけれど

もう、そんな偶然もないから…





手にあるお汁粉をジッと見ていると

「ちげーからな」とジン先輩が

少し気不味そうな声を発したから

「えっ…」と顔を上げて

ジン先輩の顔が向いている方に

私も顔を向けると

眉を寄せた不機嫌顔のカオル先輩が

トランクをひいて歩いて来た





ジン「別に虐めてもいねーし

   泣かせてもねーからな?」






カオル「・・・・・・」






久しぶりに見るカオル先輩に

嬉しさを感じて「お帰りなさい」と

笑って近づいて行くと

「ただいま」と髪を撫でながら

いつもの様に髪を耳にかけてくれた





ジン「チビ…お前トランクも置いたまま…」





ジン先輩が呆れたタメ息を吐きながら

私のトランクをひいて持って来てくれ

「すみません」と言って

トランクを受け取りカオル先輩のコートの袖口を

チョンッと握るとクスッと笑って

その手を握ってくれた先輩に

もう一度お帰りなさいと伝えた






カオル「ただいま、寒かったでしょ?」






「いえ、ジン先輩が

 お汁粉を買ってくれたので寒くなかったです」






ジン「だから虐めてねーって…」







カオル先輩はジン先輩にお礼を伝えた後に

学校の話を少しすると顔をコッチに向けて

「家に帰ろうか?」と言ってきたから

「はいッ」と繋いでる手をギュッと握り返した







あと数ヶ月の…

カオル先輩との時間をもっと大切にしたい…






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