野獣の背中…

〈エミ視点〉








いつもと違う寝心地に

違和感を感じながら目を覚ますと

頭の下には柔らかい枕じゃなく

カオル先輩の腕があり

抱き枕の様に抱きしめられていた…





( ・・・・固い… )





少し重たい頭で周りに目を向けると

自分のアパートでもカオル先輩の寝室でもない

壁紙や照明にどこだっけと考えていると

数人の寝息が聞こえている事に気付き

ここがシュウ先輩のリビングだと思い出した





( 昨日…帰らないで寝ちゃったんだ… )





先輩達は予告通りに

梅酒をガバガバと飲んでいき

酔いの回った先輩達が

「カッコ悪いカオルの話を聞かせて」と

絡んできて…

私もお酒で口元が緩み

あの映画の話をしてしまった…






シュウ「カオルが野獣?

   そりゃ、カオル先輩は野獣だよな?笑」



 


ヒカル「どんなアニメだったっけ?」







シュウ先輩は直ぐに

ネズミーチャンネルをダウンロードし

野獣のアニメを再生しだしたけど…






ヒョウ「チワワにピッタリな歌だよ!笑」





ヒカル「間違いないね!笑

   確かに風変わりな村娘だよッ!」






出だしの歌を聞くと

先輩達はテーブルを叩きながら

上機嫌に笑い出して

「納豆パンも、おでんに茄子も!」と

私の普通じゃない部分を話して盛り上がっていた…






シュウ「挨拶が硬いサラリーマンみてぇだしな!笑」






ヒョウ「チワワと同い年の子達は

  〝お先に失礼します〟

  なんて寝る前に言わないよッ…笑」






「・・・・ふっ…普段は…

  ちゃんとお休みなさいって言いますもん…」





コウ「〝もん〟が出だしたら

   少し怒ってるから気をつけろよ?笑」






いつも味方をしてくれるコウ先輩も

酔っ払って揶揄ってくるから

少し唇を尖らせると

「ふふふ…」と笑って

「煩いロウソクや食器達だね」と

カオル先輩が私の耳元でそう囁き

何となくしっくりきて

私の口の端も上がっていた…





( ・・・・何時だろう… )





今日まで学校があり

2限目からだから少し余裕はあるけれど

昨日学校を休んだ沙優ちゃんの事が気になり

登校する前に沙優ちゃんのマンションに

寄ろうと思っていたから

体を起こしてスマホを取ろうとすると

腰をグッと引かれ

カオル先輩の腕の中に戻された…





起きているのかと思い

顔を上げて先輩の方を向くと

眠たそうに少しだけ開いた目は

ボーっと私を見ていて

重い瞬きを数回した後に

「戻ってきて」と小さく呟くと

そのまま目を閉じて

小さな寝息が聞こえてきた…





( ・・・・・・ )





コウ「ホント…こんな感じだったよ…」





カオル先輩がトイレに行くと

コウ先輩が私に体を寄せて

小さな声でそう言いながら

テレビの中の野獣を指差した…





コウ「笑実ちゃんと別れた後のカオルは…

  こんな風になってたよ…」




「・・・・えっ… 」





コウ先輩の指差したテレビの中の野獣は

ヒロインを村に帰してあげて

一人で薔薇を眺めている背中が

とても…寂しそうに見えた…






シュウ「梅酒のある戸棚を何度も

   開けては閉めてを繰り返してたしな…」






コウ先輩の声が聞こえたのか

呆れた様な笑みを浮かべて

キッチンを指さすシュウ先輩は

「飲みもしないのに…」と

小さく笑いながら首を横に振ってる





コウ「部屋の荷物が

  全部なくなっているのを見た時も

  中々クローゼットから出てこなかったからな…」





「・・・・・・」





カオル先輩が邪魔だと

感じているんじゃないかと思い

タクシーを使って運び出したあの日…

先輩が靴箱を見て驚き

玄関から寝室に走って行った話を

コウ先輩から聞いて

胸が…苦しくなった…




あの寒い夜空の下で

私をずっと待っていてくれた様に

私が帰らなかった日も…

連絡がつかなかった日も…

ずっと…待っていてくれていたんだと思った…





( ・・・・綺麗な野獣さんだな… )





先輩の寝顔を見つめながらそう思い

自分の手を先輩の頬へと伸ばした







カオル「もしも…

  あの日に戻れるなら…戻りたい?」





「・・・・・・」





カオル「俺は…戻りたいよ」






あの日のカオル先輩の言葉は

私が思っていたよりも…

ずっと…ずっと…

私への想いが込められていたんだ…





何処にも行かせないと言うかの様に

抱きしめられている腰と

片脚を乗せられて少し重く感じている

自分の下半身をチラッと見て

クスリと笑みを溢し…





( ・・・沙優ちゃんには後で電話をしよう… )





そう思いながら目を閉じ…

私も先輩の背中に腕を回して

ギュッと抱きつき

カオル先輩の胸の中で

もう少し眠る事にした…







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