笑実ちゃんの…

〈シュウ視点〉









ヒョウ「チワワは就活どうなったの?」





カオルと笑実ちゃんが元鞘に戻ったと聞いて

久しぶりにまた鍋をしようと

ヒカル達が色々と買い込んで来て

6人で鍋をつついていると

ヒョウが急に笑実ちゃんに就活の話を振り

俺も気になっていたから顔を向けた





「一応…決まりました…」





笑実ちゃんがトランクを引いて駅にいた日は

地元の面接に行ってきた帰りだったらしく

無事採用が決まり春からは

地元の…島に帰ってしまうらしい…




話の途中でチラッとカオルに目線を向けると

知っていたようで食べる箸を止めて

笑実ちゃんの取り皿に

鍋の具を取り分けてやっている…





( もっと不機嫌になるかと思ったが… )





こう言ったらアレだが

笑実ちゃんへのカオルの執着は

なかなか猟奇的に見える時がある…




連絡がつかないと

不機嫌なタメ息を吐いて

イライラとしだしているし

あり得ない時間の門限を作り

守れなければ「帰って来るな」と言い…





春になればカオルも自分の地元に帰るから

否応無しに遠距離になる二人に

大丈夫なのかと心配な目を向けると

コウも同じ様な顔でカオルを見ていた…






ヒョウ「へぇ…臨時さん…あれでしょ?

  市役所とかの臨時さんってお見合い要員ってやつの」






ヒョウの言葉に思わず「ぶッ…」と

口の中の物を吹き出しそうになり

慌てて手で押さえゴホゴホと咳をしていると

「大丈夫?」と笑うヒョウに

少しだけ眉がピクリとした…





( お前のせいだよ… )





ヒカル「何それ??お見合い要員??」






ヒョウ「そっ!!ほら、20代後半とか30代の

   独身男達に20代前半の若い女の子は

   いいお見合い相手らしいからね?

   臨時さんだとパッと仕事を辞めて

   直ぐ家庭に入ってくれそうだからかな?」





ヒカル「確かにな…

  笑実ちゃんオジさんウケもいいしな?笑」


   




何でそんないらない情報を知ってんだよと

目の前の空気を読まないバカ二人に目を向け

左隣りに座っているカオルに怖くて

顔を向けられずにいると

「うちは町役場ですから」と

笑実ちゃんが答えているのが聞こえてきた





ヒカル「役場も市役所も一緒じゃないの?」





「働いている人達はだいたい顔見知りですから

 お見合いとかにはならないですよ」

 




笑実ちゃんはカオルに顔を向けて

「大丈夫です」と笑っていて…

何となく…少し大人になった様な気がした…




前はカオルに誤解されそうになると

顔や手をブンブンと振って

必死に「違います」と訂正していたが

今は、文字通りカオルの隣りに

肩を並べて座っている様に見える





( ・・・・〝彼女〟になったな…笑 )





カオルは笑実ちゃんの髪を撫でながら

「外泊は禁止だよ」と笑っていて

数ヶ月前のファミレスの時の様に

一方的に怒ったりはしていないし…




カオルはカオルで…

成長したのかもなと小さく笑って

目の前のビールに手を伸ばした






ヒョウ「チワワも帰って来たし

   今日はやっと梅酒が飲めるね」





「梅酒…飲んでなかったんですか?」






夏前につけた梅酒を

カオルの誕生日に飲む予定だったが…

あの日は笑実ちゃんとカオルが

正式にサヨナラをした日になってしまい

とても開けて飲む様な雰囲気じゃなかった…




カオルも飲もうとはしなかったし

よくキッチン下の戸棚を開けては

ボーっと眺めているだけだった…





シュウ「お姫様も帰って来たし

   今日は飲み干すとするか?笑」





カオルにそう問いかけると

「そうだね」と言って立ち上がり

「寝室?」と廊下側の扉を

指差しながら問いかけてきたから

「知ってたのか」と言って俺も立ち上がった





カオルの後を追って寝室に行き

クローゼットを開けて右端に置いてある

大きな紙袋の中から梅酒の入った瓶を取り出した






カオル「・・・・隠してくれたんだよな…」





シュウ「・・・・・・」







戸棚の下をカオルが

覗くのも気になっていたが…






シュウ「コレは…元々は笑実ちゃんの

   誕生日に飲む為の梅酒だったからな…」






スーパーで20歳になった自分にと

ホワイトリカーを眺めていた

笑実ちゃんの姿を思うと…

皆んなが見つけてホイホイと手を出す

戸棚の中には置いておけなかった…






( ・・・・それに…多分… )






シュウ「どっかで期待してたんだろうな?笑

   またお前と笑実ちゃんがこうなるって」






無理だろうと思っていても

また…カオルと一緒に

この部屋に来る様な気がしていたから…

そうなる様に願いも込めて

戸棚から取り出して

俺のクローゼットの中に隠しておいた…






カオル「・・・・シュウにもコウにも…

   皆んなには感謝してるよ…」





シュウ「空気の読めない

  あの二人も結構心配してたぞ?笑」






そう笑って言うと

カオルも小さく笑って「分かってるよ」と

呆れた様に首を縦に振った






カオル「ユウトに聞いて商店街に

   笑実ちゃんを探しに行ったヒョウにも

   ヒョウから話を聞いて下手くそな演技で

   笑実ちゃんが現れる時間をさりげなく

   教えてくれたヒカルにも…感謝してるよ…

   ユウトや…サトルにもね…」






シュウ「ふっ…サトルは1番意外だったけどな?笑」






寝室の部屋の電気を消して

皆んなのいるリビングへと戻ると

笑実ちゃんが駆け寄って来て

カオルの手の中にある梅酒の瓶を見て

「氷砂糖…ちゃんと溶けましたね」と

笑っているけど…その目は少し涙ぐんでいた…





カオル「乾杯…やり直そうか?」





「・・・・はいッ…笑」






半年前につけた梅酒を初めて開けて飲むと

市販の物よりも甘くて…美味しい気がした…




多分それは…目の前で幸せそうに

「おめでとうございます」と

数ヶ月前の10月13日をやり直している

世話のかかるバカップル二人の

おかげだろうと思いながら

「どんどん飲むぞ!」と瓶を空にした










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