アキラの…

〈アキラ視点〉







ユナの部屋を出て

自分のアパートへと歩いて帰っていると

「アキラ」とサトルから呼ばれる声がして

歩く足を止めて振り返ると

コンビニから出て

コッチに歩いて来るサトルの姿があった…





アキラ「・・・待ってた…のか?」





クリスマス明けのこの早朝に

俺のアパート横にあるコンビニにいると言う事は

俺を訪ねてアパートへ行って留守だと分かり

俺が帰って来るのを待っていたんだろう…





サトル「お前は泊まっても朝早くには

   自分家に帰ってシャワー浴びたい派だからな?」





アキラ「・・・・あがれ」






サトルが機嫌良く

俺を訪ねて来たわけじゃない事は分かってるし

一昨日の飲み会でのあの言葉の意味も理解した…







サトル「うるせえ!

  年上専門なら年上だけ相手してろ」






( ・・・・サユとの事だろうな… )






カオル達が離れた理由は

サユが俺と会っている秘密を守ろうとして

拗れたようだしサトルが俺に

どう言うつもりだと問いかけに来たんだろうと思い

部屋にあげて「なんか飲むか」と

冷蔵庫を開けて背中越しに問いかけた







サトル「・・・そうだな…

   シラフで聞くにはだいぶヘビーな話だが

   まだ寝ぼけたその頭には

   眠気覚ましになっていいかもな」







サトルの言葉に「はぁ…」と

疲れたタメ息を吐きながら

「サユと会ってた話だろう?」と

冷蔵庫の扉を閉めて顔をサトルに向けた






サトル「・・・・いつから会ってたんだ」





そんな事まで説明が必要かと

少し眉間にシワを寄せて問いかけると

サトルは顔色を変えず

ジッと俺の顔を見続けているから

「はぁ…」とまたタメ息をこぼしながら

「年明け位だな」と

サトルが欲しがっている答えを言った





サトル「年明け?

   あのガキがシュウと会ってる時からかよ?」






アキラ「・・・・年明けは

   もうそう言う会い方はしてなかったみたいだぞ」






俺の答えに目を細めて

更に機嫌が悪くなっているのが分かったが…

朝から急に押しかけて来て

あれこれ言われる筋合いのないサトルから

そんな目を向けられ

俺の気分も段々と悪くなっているのを感じた…






アキラ「はぁ…別にシュウと付き合っているガキに

   手を出したわけじゃねーし…

   お互い同意の上だぞ?」






サトル「そりゃ…ダチの女に手なんてだせねぇよな?」






鼻で笑ってそう問いかける

サトルの顔に俺の顔もピクリと反応し

「何がいいたいんだ」と返した






アキラ「俺が言いくるめて都合よく抱いてた

   みたいに思ってるみたいだが違うぞ?

   俺から誘った事なんて一度もないかな」






サトル「だろうな…

   お前の綺麗どころの女達みてぇに

   お前からは何もしてねーだろうな…

   ホントに欲しいわけでも何でもねーんだから」





アキラ「・・・・・・」






俺は…自分から連絡先を聞いたり

会おうなんて誘ったりなんかはしない…






( 理由はただ一つ…面倒くさいからだ… )






番号を聞いたりコッチから

なんらかのアクションを起こせば

「私の事が好き?」

なんて勘違いするバカ女達がいるから

俺からは何も言わない…




シュウ達みてぇに上手くかわせる奴なら

ホイホイ言うだろうが

俺はそのやりとり事態が面倒だから

相手の誘いに乗るだけだ…






サトル「一度の気まぐれじゃなく

   定期的に会うなんて…

   よっぽど気に入ってたんだな?」






アキラ「たまたまタイミングが良かっただけだ」






例え誘われても

ある程度気に入らないと

その誘いには乗らないが

サユは連絡してくるタイミングが

良かっただけで

特別気に入って会っていたわけじゃない…





朝から気分の乗らない話をされ

面倒くさいと感じながら

キッチンにある換気扇を起動させて

ポケットからタバコを取り出して吸おうとすると

「タバコの臭いは嫌いらしいぞ」と

口の端を上げながら言う

サトルの言葉の意味が分からず

顔を向けたままジッと

不機嫌顔のサトルの目を見ていると…





サトル「笑実だよ…

   アイツはタバコの臭い嫌いだぞ?」





アキラ「・・・・えみ?」





コウ達が「笑実ちゃん、笑実ちゃん」

と呼んでいるからサトルの言う「笑実」が

カオルのガキだと言う事は分かるが

なぜイキナリ呼び捨てにしているんだと

疑問に思いながらサトルを見た





サトル「なんだ…かんにさわるか?笑」






アキラ「・・・・・・」






サトル「そりゃ触るだろうな…

  でもな、シュウやカオルはもっと触るだろうな?」






カオルがイラつくのは分かるが

シュウがイラつく理由が分からず

「シュウ?」と問いかけると

サトルは「ふっ…」とバカにしたように

また鼻で笑った







サトル「笑実の代わりに抱いてたんだろ?」






アキラ「・・・・・・」






サトル「シュウのガキを

   カオルのガキの代わりにしてたんだろうが?」







( ・・・・・代わり? )







サトル「最初はヒョウだと思ってたよ…

   こんな面倒事を起こすのは」






アキラ「・・・・・・」






サトル「チワワ、チワワってよく構うし…

   だけどアイツは本当にただ可愛がってるだけだ

   何にも後ろめたくもないから

   あんなに堂々と口に出来るし

   会いに行ったり出来るんだよ…」






アキラ「・・・・・・」






サトル「・・・カオルのガキが好きなんだろ?」






サトルの言葉には

驚いたのと同時に胸の奥で

ゾクリッと何かが嫌な音を立てていた…






アキラ「・・・・俺が…好き?」





サトル「はぁ…無自覚かよ…」






サトルはコートに手を入れて

舌打ち混じりにそう言うと

コッチに歩いて来て「どけ」と言って

換気扇下にあるガスコンロに

水を注いだヤカンを置いて

湯を沸かし出した…





少し水に濡れたヤカンが強火にあてられ

シュコシュコと音を立てているのを

見下ろしたまま

「好きなんだろ」とサトルが呟いた…






サトル「・・・変なガキだし

   たいして可愛くもねーけど…」






アキラ「・・・・・・」


   




サトル「・・・・遊ぶ用じゃねぇからな…」






サトルの言葉を聞きながら

飲み会に来る女や

数時間前まで身体を重ねていた

ユナの姿が思い出され…




カオルが大事そうに

あの石垣に座らせてキスをしていた

アイツの顔が浮かんだ…






サトル「カオルやお前が惹かれたのは…

   ハッキリ言って謎だが

   全く分からないわけでもねぇ…」






アキラ「・・・・・・」






サトル「だけど他人のもんだ…

   しかも、ダチの女だからな…

   そんな想いはとっとと無くせ…」





そんな風にアイツを見た事はないが

サトルの言葉に否定的な返答は…

何故か出来なかった…





( ・・・・好き? )





あの地味なガキを

好きになるはずなんてないと思いながらも

「お疲れ様です」と頭を下げる姿が頭をよぎる…






「沙優ちゃんの友達としては嫌いです…」






泣きながらそう言われて

サユとの事を知っているんだと

驚いた気持ちと…

「嫌い」だと言われて

気分の下がった自分がいたのを覚えている…






アキラ「・・・・・・」






沸騰するヤカンの音を聞きながら

「夏から会ってねぇよ」と答えると

サトルは火を消して

戸棚からマグカップを取り出して

二人分のコーヒーを煎れながら

「知ってる…」と小さく呟いた





サトルは何も話さないまま

コーヒーを煎れ終わると

マグカップを手にして

湯気の出ている熱いコーヒーを

一口飲んでから「アキラ…」と顔を向けてきて

俺はサトルの口から出てきた言葉に驚いた…





サトル「・・・・ガキ…おろしたみたいだぞ…」





アキラ「・・・・はっ?」












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