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〈エミ視点〉
目を閉じて数十分経って起きるを繰り返しながら
夢と現実の間を行ったり来たりしていると
私を腕に抱きしめているカオル先輩も同じみたいで
さっきまで聞こえていた寝息は止まっていて
今は遊ぶ様に私の髪を触っている…
見えないからよくは分からないけれど
一定のリズムで軽く髪を引かれ
直ぐに解いている様だから
きっと先輩の指に髪を巻いて解いてを
繰り返しているんだと思いながら
目を閉じたまま「楽しいですか?」と
笑って問いかけると
ギュッと抱きしめられ
「笑実ちゃんは段々悪い子になるね」
と寝たふりしてたのと言ってきた
「ふふ…おはようございます」
少し身体を離して顔を上げてそう言うと
先輩も「おはよう」と笑ってくれて
数ヶ月前と同じ様に同じベッドの上で
おはようと言い合えている事を
凄く幸せに感じていると
先輩は私の頬に手を当てて
軽く摘みながら「柔いね」と言ってきた
カオル「・・・・本物の笑実ちゃんは
柔らかくて温かいね…笑」
「・・・・・・」
先輩の言う〝本物〟の意味が
何となく分かり…
私も自分の手を先輩の頬に当て
「本物のカオル先輩も温かいです」と答えた
先輩と離れている間…
目を覚まして先輩の姿を探す事が何度かあった…
カオル「・・・・帰っておいで…」
「・・・・・・」
カオル「朝は笑実ちゃんの事を
抱きしめながら目を覚まして…
その日一日の事を話しながら
向かい会って食事をして
ソファーに並んでテレビを見て…」
「・・・・・・」
カオル「夜はまた…
笑実ちゃん抱きしめたまま
眠りにつきたいから…」
帰っておいでと言う先輩の言葉を聞きながら
なんだかプロポーズのセリフみたいだなと思い
少しだけ恥ずかしさを感じながら
カオル先輩の目を見つめ
「もう帰ってくるなっていいませんか?」と
小さく笑って問いかけた
カオル「二度と言わないよ…
言ったら笑実ちゃんは
本当に帰って来ないからね?笑」
「・・・帰って来れないですよ…」
このマンションはカオル先輩の部屋だし
帰るなと言われたら…
どんな顔をして
玄関から入っていいのかも分からないし
扉を開ける勇気もない…
カオル先輩は枕から頭を離して
ギシッと身体を少し起こすと
肘をついて上から私を見つめてきた
カオル「笑実ちゃんの帰る場所はココだよ」
「・・・・・・」
カオル「喧嘩しても…何があっても
必ず帰って来て…俺の側に」
カオル先輩は
カッコ悪いって言うけれど…
( 私にとっては…いつも… )
「私…あのシーンが1番好きです…」
カオル「最後のダンスのシーン?笑」
「ふふ…違います…笑」
野獣は不器用なりに
ヒロインを大切にしようとして
少しずつ優しくなっていって…
カオル「魔法のとけた瞬間?」
「そこも好きですけど違います…笑」
カオル先輩は顔を近づけてきて
自分の鼻先を私の鼻に当てながら
「ん〜」と笑っていて
「先輩は悪役のシーンが好きですもんね?」と
目の前にある先輩の顔を見て言うと
カオル「面白いけど1番じゃないよ?笑」
「じゃー…怒鳴る所ですか?笑」
カオル「段々イタズラ好きになるね」
「ふふ…」と笑って先輩の首に腕を回すと
カオル先輩は鼻先を離して
唇を近づけながら先輩の好きなシーンを口にした
「・・・私もそこが1番好きです」
カオル「なら今後は喧嘩しても大丈夫だね…」
「・・・はい…笑」
そう言って少し頭を浮かせて
先輩の唇にキスをすると
私の頭の下に先輩の手が添えられて
枕の上にゆっくりと降ろされ
先輩のくれる甘いキスの中
初めてあのアニメを観た日の事を思い出した…
小学生の時に詩織ちゃんの部屋で
美香ちゃんと3人であのアニメを観て
「こんな風に守ってくれる人がいい」と
詩織ちゃん達は言っていたけれど…
( ・・・私は…少し違ったな… )
私は主人公の女の子が
野獣の元に走って戻って行った
あのシーンが印象的で
私もこんな風に誰かを好きになりたいと思った…
村人達や周りから
「危険だ」「なんで!?」と言われても…
愛する人の元に走って行くあの姿に憧れを抱いた…
主人公は…
野獣を知れば知るほど
ほっとけなくなり
きっと…その野獣の温かさに
〝恋〟をしたから…
私もそんな恋がしたいと思った…
唇が離れそうになるのが分かり
まだ離れたくないと腕に力を入れて
甘える様に自分から深く口付けると
そのキスに応えてくれながら
先輩の手がヘッドボードに伸びたのが分かり
何時かなと遮光カーテンのついている
窓に視線を移すと…
カオル「まだ4時半だから大丈夫だよ」
「着替えも荷物もないですから…
一度帰らなくちゃいけません」
カオル先輩にそう伝えると
「6時半にタクシー呼ぶよ」と言って
2時間ほど前に散々蕩けさせられた身体に
また…先輩の熱を感じた…
( ・・・一緒なら…きっと大丈夫… )
また…カオル先輩が
怒ってしまう日がくるかもしれないし…
今度は私が怒ってしまうかもしれない…
でも…先輩も好きだと言ったあのシーンの様に…
どちらかが手を差し伸ばしたら
きっとまた、お互いがその手を掴むから…
( ・・・帰る場所は…ココだから… )
先輩の腕の中でそう感じながら
何度も「大好きです」と伝えた…
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