〈エミ視点〉








「・・・ここ…」






カオル「美味しいお肉買わなきゃね?笑」






カオル先輩が向かった先は

夏過ぎから私がよく買い物に来ている商店街だった…




ヒョウ先輩から聞いたのかなと思い

カオル先輩の顔を見上げると

ニコッと笑って「ユウトから聞いたんだよ」と

手を引いて歩き出し

ヒョウ先輩の様にキョロキョロとした様子もなく

真っ直ぐと歩いて行くから

来た事があるんだと分かった…





( ・・・テルさんのお店の方… )





カヨさんとテルさんのお店が見えてきて

先輩と手を繋いで会うのが

少しだけ照れ臭く感じ

先輩の方をチラッと見ると

「挨拶しなきゃね」と笑っていて…

私がこのお店で買い物をしている事も

知っているみたいだった…






カヨ「アラッ!笑」






カヨさんは私に気付いて

隣にいるカオル先輩を見ると

口に手を当ててニヤッと笑いながら

駆け寄り「手なんか繋いじゃって」と言って

カオル先輩の肩をバシバシと叩きだした





カヨ「笑実ちゃんのいい人なんだね?笑」





普段…野菜や夕飯の話しかしないカヨさんから

そう問いかけられて恥ずかしさを感じ…

繋いでいない方の手を口元に持っていって

コートの袖で緩んでいる自分の口元を隠しながら

「カオル先輩です…」と紹介した






カヨ「先輩?へぇー…また男前だね…

  この前の派手なお兄ちゃんも色男だったけど」






カヨさんはそう言った後に「あっ!」と

口に手を当てるとカオル先輩が

クスクスと笑いだして

「派手な色男の友達ですよ…笑」

と言ってヒョウ先輩の失礼な態度を謝りだして

カヨさんと笑って話している先輩を見ながら

不思議な感じがした…





カヨさんとカオル先輩は

私の知り合い同士だけど

接している場面は別々の二人で…

こうして目の前で話しているのを見て

不思議な嬉しさを感じていたから…





そして…カオル先輩が髪を黒くして

服もモノトーンカラーのシンプルな

コーディネートで来てくれた理由が

少しだけ分かった気がした





( ・・・・大好きです… )





そう思ってポケットの中で繋いでる手を

甘える様に少し握りなおすと

カヨさんと話している先輩も

それに応えて握り返してきてくれた





カヨ「クリスマスのデートに

  またなんでこんな所にいるんだい?」





カオル「美味しいお肉を買いに来たんですよ」





カヨさんは「テルちゃん!」と

いつもの様に声をかけながら向かいの

テルさんのお店へと走って行って

中でお肉をさばいているテルさんを連れ出してきた






カヨ「笑実ちゃんの彼氏だってよ!笑

  お肉買いに来たらしいからイイやつ出してやんな」





テル「・・・・ずいぶんとまた…」






テルさんは長い作業用のエプロンをつけたまま出てきて

カオル先輩の事を上から下へと見定める様に見ていて…






カオル「初めて岸野 馨です」






カオル先輩が頭を下げて挨拶をしだしたから

(えっ…)と驚いて「あの…」と

テルさんとカオル先輩の事を交互に見ると

テルさんはジーっと先輩の顔を見て

「いくつだ」と怖い顔で

質問しだしたから更に驚いた…






( なんか…お父さんに合わせてるみたい… )






横でニヤニヤと笑って

それを眺めているカヨさんが

「いい男捕まえたじゃないか」

と私に言ってきたから「はい」と頷くと

「逆だ…」とテルさんが小さく呟いた…






テル「・・・・・・」





カオル「そうですね…

  僕の方がいい子捕まえましたから…笑」





「・・・・・・」






カオル先輩の言葉を聞くと

テルさんは「ふっ…」と小さく笑い

「分かってんならいい」と言って

何の肉がほしいんだと先輩に問いかけた…





テル「笑実ちゃんは…

  脂身少ない方が好きだからヒレの方だろうな」





「・・・カオル先輩は…脂身…好きですよね?」






先輩がファミレスで頼んでいるお肉は

男の人がよく好むボリューム感のある

グリルプレートだったから

本当はロースとかが好きなんだろうなと思っていた…






テル「なら、ヒレとロース一枚づつにするか?」





カオル「じゃあ…一口づつ交換しようかな?笑」






ロースステーキは食べた事がなくて

一口だけ食べてみたいと

思った事が何度かあった…





( きっと全部は食べ切れないから… )





カオル先輩の言葉に笑って頷くと

先輩も優しく微笑んでから

テルさんにお肉を注文しだし

「焼き方は大丈夫か?」と言うテルさんに

少し考えた顔をして

ポケットの中の手を外に出すと

「ちょっとカヨさんのお店見ててね」

と言われ手をそっと離された





カヨさんのお店で

付け合わせ用の野菜をみていると

大きなイチゴのパックが顔の前に差し出され

「美味しそうです」と言って

デザート用に買って帰ろうかなと思っていると

「クリスマスプレゼントだよ」と言って

選んだ野菜と一緒に包んでくれるカヨさんに

「ダメです」とお金を差し出すと

カヨさんは「いいから、いいから!」

と言いながら「いい子じゃないか」と

向かいのお店にいるカオル先輩に顔を向けた






カヨ「普通なら洒落こけたお店に行くか

  ケンタッキーなんかを買って食べそうなのに」





「・・・・・・」





カオル先輩はテルさんからお肉の焼き方を

教えてもらっている様で

テルさんの「アルミで寝かせるんだ」と

話し声が聞こえていた…





カヨさんとテルさんにお礼を言ってから

また繋いだ手を先輩のポケットに入れて

カオル先輩のマンションへと歩きながら

「知っていたんですか?」と質問すると…







カオル「笑実ちゃん

  スーパーに全然現れなくなったから」






「・・・・えっ?」






今日の朝方に

私の帰りをずっと待っていたと

言っていたと事を思い出し…






「・・・・会いに…来てくれていたんですか?」






カオル先輩は少し困った様な表情をしてから

「笑実ちゃんは避けてたけど…」と言って

ポケットの中にある手を強く握りしめてきた…






カオル「俺はずっと会いたかったからね…」






「・・・・・・」






カオル「ユウトから聞いて何度か見に行ったよ

   カヨさん達と仲良く話しながら

   買い物をしている笑実ちゃんを…笑」







カオル先輩の顔を見つめながら

「やっぱり逆です」と笑って言うと

「ん?」と笑い返してきた先輩に

もう一度「逆です」と言って

先輩に身体を寄せてから歩いた…














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