〈エミ視点〉








クローゼットの中を覗いていると

着信音が鳴り出し

沙優ちゃんかなと音のなる方へと行き

スマホの画面を見て首を傾けた…






「・・・・6464…誰だろ?」






知らない番号の着信を眺めていると

電話は切れ不在着信の表記へと変わり

数秒間眺めていると

また同じ番号からの

着信中の画面へと切り替わった






( ・・・・間違い電話かな? )






少し怖いなと感じながら

通話ボタンを押して「もしもし…」と

引き気味に問いかけると

電話の向こうからは機嫌の悪そうな舌打ちが聞こえ…






サトル「さっさっと出ろ!ブス!」






電話の相手は

私が苦手なサトル先輩だった…





( ブスって…なんでを番号知ってるんだろう… )





「・・・・すみません…」





クリスマスの日に

嫌な相手の…

嫌な電話に出てしまったなと思いながら

目の前にある姿鏡に目を向けると

私の顔は正直なようで

眉間にシワを寄せて唇は突き出ていた…





サトル「携帯の意味知ってるか?

   携帯できる電話だから携帯電話つーんだよッ!」






「・・・・すみません…」






酔っ払ったオジさんみたいなお説教だなと

更に唇は突き出ていき

この番号は今後絶対に

出ない様に「危険」で登録しようと思った…






サトル「・・・・カオルには会えたか?」






「えっ…」






サトル「耳の掃除してねーのかよ…

   カオルには会えたかって聞いてんだよ!」






サトル先輩の言葉はちゃんと聞こえているけど

番号といい何でカオル先輩の事まで知っているんだろうと

驚きながら「会え…ました…」と答えると

サトル先輩は「でっ?」と言ってきた…






( ・・・でって…言われても… )






サトル「カオルはお前に

   別れたくねーって言いに行ったんだろ

   それにお前は何て答えたんだよ」





「・・・・・・」






チラッとさっきまで覗いていた

クローゼットへと顔を向けてから

テーブルにある置き時計へと目線をうつした






 サトル「・・・・・・」






確かにカオル先輩は

「戻ってきて」と私に言ったけれど

私は「はい」とも「いいえ」とも答えてはなく…






( ・・・・・・ )






何となく床へと腰を降ろして

膝を抱きしめて座ると

電話の向こうから「はぁ…」とタメ息が聞こえ

「お前カオルにどん位抱かれてんだ?」と聞かれた






「・・・・・・」





   

サトル「便所で抱かれた事なんてねーだろ?」







ジン先輩みたいに

変な質問をしてくるなとスマホを耳から離して

画面に向かって小さく「変態…」と呟くと

聞こえていたのか舌打ちが聞こえてきた






サトル「夜通し陽が昇るまで

   ヤッてるお前の方が変態だろうが」






「・・・・えっ…」






サトル「お前らの横の部屋は俺の部屋で

   しかもベッド側だったんだよ」





「・・・・・・」






先輩があの夏の

キャンプの事を言っているんだと分かり

「すっ…すみません…」

と顔を下げながら謝ると

「何してたらあんなになげーんだよ」

と呆れた様に言われ

更に顔を下げて恥ずかしさで

目をギュッと瞑った






( ずっと聞かれてたのかな… )






サトル「無理だって言ってたぞ…」







サトル先輩の言葉に

また「えっ?」と問いかけてしまい

口に手をパッと当てると

先輩は怒らずに話を続けていた






サトル「飽きねーのかって聞いたら

   無理だって…カオルがそう言ってたんだよ」






「・・・・・・」


   




サトル「・・・カオルが抱いた女に妬いてんのか?」







サトル先輩の言葉に

膝を抱きしめている腕に力が入って

自分の膝に顔をトンっと落とした…




先輩が私にくれた

キスも甘い囁きも…あの幸せな時間を…

他の誰かも知っているんだと思ったら…





嫌だった…妬かずには…

嫉妬せずにはいられなかった…






サトル「・・・もしそうなら…

   お前その女達から刺されんぞ?笑」






「・・・・刺される??」






サトル「便所で10分だぞ?」






サトル先輩の言葉の意味が分からず

「へっ…」と口から出ると

「理解力ねーガキだな」と舌打ち混じりに言われ

カオル先輩が私と別れてから

飲み会で…そうなった子達は皆んな

トイレに入って10分位で出てきていたと説明しだした






サトル「これを女のお前が

   どう受け取るのかは分からねーが

   カオルと同じ男の立場で言えば

   あの行為に大した意味はねーし

   お前の変わりに抱いたわけでもねぇ…」






「・・・・・・」

   





サトル「もしお前の変わりなら

   便所になんて連れて行かねーだろうからな」






「・・・・・・」







サトル「お前と別れた寂しさを紛らわす為だったのか

   お前と会う前の自分に戻ろうとしたのかは

   カオルじゃねーから分からねーけど

   誰もお前みたいには

   抱かれてねーって事だけは確かだぞ」







膝に埋めている自分の唇が小さく震えていて

頬に流れている涙がポタッと

膝に落ちたのが分かった…

   





サトル「だから便所女共に嫉妬なんかすんな…

   逆に向こうが哀れになるぞ?」





「・・・ツッ…なん…でッ…」






顔を上げて涙を拭き取りながら

なんでそんな事を教えてくれるのかと

サトル先輩に問いかけると

先輩は少し黙った後に

昨日、私と沙優ちゃんが座っていた

仕切り横の席に座っていた事を話だした…






サトル「お前とカオルが

  お前らの理由でこじれて離れたんなら

  放っておくつもりだったけどな…

  ダチの秘密をペラペラ話すような奴は

  女も男も好きじゃねぇ…」






「沙優ちゃんの話は…」





沙優ちゃんの話は

誰にも言わないで下さいと言おうとすると

「言ってない」と言われ小さく安堵の息を吐いた…






サトル「アキラにだけは話すけどな」






「・・・えっ…」






サトル「どんなに話したくねー

   内緒にしたいっつっても

   あのガキが勝手に

   おろしたガキの父親はアキラだ…

   コレはお前やカオルじゃなくて

   あっちのガキとアキラの問題だ」







サトル先輩は口も悪くて意地悪だけど…

私達よりも2歳年上で…

やっぱり…〝先輩〟なんだなと思い目を閉じた…





私は沙優ちゃんの友達で…

秘密を守ってあげるのが1番だと思っていた…





検査薬を見て「怖い」と泣いている

沙優ちゃんを抱きしめながら

支えているつもりだったけど…





『ガキの父親はアキラだ…』





アキラ先輩の事なんてちっとも考えてなかった…

沙優ちゃんのあの傷を癒すのは

時間だと思っていたけど

アキラ先輩とちゃんと向き合って話すのが

1番だったのかもしれないと…思った…





サトル「あっちはあっちの問題で

  こっからはカオルとお前だけの問題だ…

  お前と別れた後のカオルの行動がどうしても

  受け入れられねーって言うなら

  それはそれでしょうがねーと思うしな…」






「・・・・・・」






サトル「・・・お前…返事しねぇ癖どうにかしろよ?」






「すっ…ッ…すみません…」






服の袖で涙を拭きながら謝り

サトル先輩にお礼を伝えた…





きっと…あの仕切り横で話を聞いていたのが

サトル先輩じゃなかったら

こんな答えは出せていなかった気がする…





ヒョウ先輩やコウ先輩は優しいから

女の子達をどう抱いていたかなんて言わないだろうし

ツカサ先輩やジン先輩も…

きっとこんな風に

電話をかけてきたりはしなかったはずだから…





「サトル先輩は…やっぱり副部長なんですね…笑」





笑ってそう伝えると

サトル先輩は「あっ!?」と小さく

不機嫌な声をあげて

「ユウトの奴が何もしねーからほぼ部長だよ」

と怒っている先輩に「ふふ…」と

口の端を上げて笑った…





電話を切ろうとするサトル先輩に

「クリスマス…おめでとうございます」と伝えたら

「あけおめみたいに言ってんじゃねーよ」

と呆れた声が返ってきたけど

プツッと切れる間際に「じゃーな、笑実」

と初めて名前を呼ばれた







ツカサ「俺も…まぁ…聞いてていい気分ではなかったけど

   どうしようかと思って眺めてたら

   急にサトルが俺の飲んでた缶コーヒーを

   取り上げて中身を溢しながら投げたんだよ…笑」







サトル先輩の番号を眺めて

クスリと笑ってから

〝意地悪な先輩〟と登録した…



  

やり方や言い方は…意地悪だけど…

多分…すごくいい先輩なんだろうなと思い

「ヨシっ」と立ち上がって

クローゼットの中を見ながら

今日の夜に着る洋服を選びだした






カオル「約束のクリスマスデートしようか?」





「・・・・・・」





カオル「デートして…それから答え頂戴…」







サトル先輩の電話を受ける前とは

気分も鏡に映る自分の顔も…

全部が変わっていて

今年のサンタクロースは

サトル先輩だったのかもしれないなと思った…












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