〈サトル視点〉







ダウンの中に手を入れたまま

早足で歩いているが…




一歩進むたびに地面を踏んで蹴る

自分の足が苛立ち混じりに

ドカドカと歩いているのがよく分かった





( ・・・・なんだよ… )






サユ「だってアタシのせいで…」




「沙優ちゃんのせいじゃないから」






( ・・・・なんなんだよさっきのはッ… )






右足をダンっと地面に降ろして

「クソが…」と呟いて

自分の口から白い吐息が出ているのを見ながら

ゆっくりと顔を上げて

たいして綺麗だとも思えない夜空を視界に入れ

「何やってんだよ…」と頭の中に浮かぶ

アキラの顔へと吐き捨てた…






週明けに提出した課題が

ツカサのを丸写しにしていた事が教授にバレ

追加課題を今日中に仕上げて提出するように言われた





舌打ち混じりに課題を仕上げて

いつもの様にシュウの部屋に集まっている

ツカサ達の元へと小走りで向かっていると

前の方に子憎たらしい黒髪が見え

「座敷わらしが」と口にした…





歩く速度を落として早く歩けよと思いながら

少し後ろを歩いていると

「焼き鳥も鶏肉だからいいのッ!」と

話しているのが聞こえ

クリスマスには牛の肉を食べると

生意気な事を言っていたなと思い出し

「焼き鳥がお似合いだ…」と

前を歩く座敷わらしの背中に呟き

シュウの部屋でピーピー泣き喚きながら

唐揚げを揚げていた姿が頭をよぎった…






サトル「なに目閉じてんだよ!しっかり揉み込め」





「だって…骨に血がついてますッ」






コウ達と一緒になって

離れた場所から笑って見ていたカオルは

揚げる頃にはガキの横に来て

「火傷しないようにね」と

生ぬるい雰囲気を漂わせていた…






( ・・・・・・ )






カオルがあのガキを…

まぁ…それなりに…

大事にしていた事は知ってるし

別れてからの姿も知っている…




 


コウ「どう見たって…まだ好きだろうが!」





( ・・・・それも…知っている… )






あのガキの何がいいのか

ハッキリ言って分かんねーが

カオルの気持ちは分かってる…




ドラッグストアで俺が口を滑らせて

あのガキが顔を俯かせた事も…

ジンが、カオルとどんだけやってたんだと

アホみたいな質問をした時に

いっちょ前に頬を赤らめた事も…





( ・・・・全部…気付いてる… )





俺は歩く足を止めてガキ共が入って行った

焼き鳥屋の看板を5分ほど見上げてから

店の扉を開けて中へと入って行き

ガキ達の声がする席へと近づいていって

仕切り横の席へと腰を降ろした





( ・・・・なんで別れた… )





カオルがまた飲み会に参加しだしたのは

別れた後からだから…

アレが原因ではないなら…なんだ?





席に座って食いたくもない焼き鳥を

クリスマスイブに野郎一人で食っている自分に

何やってんだと呆れながら

横から聞こえてくる呑気な会話に

「座敷わらしが…」と

イラつく足は小さく揺れていた





スマホが光り手に取って見ると

ツカサからまだ終わらないのかと

LINEが届いている





仕切りの方へと目を向け

無駄な時間に無駄な金だったなと

伝票を持って会計に行こうとすると





サユ「手術の日…怖くて…痛くて…

  何でこんな事になったんだろうって…」






( ・・・手術? )






俺はもう一人のガキが病気かなんかだったのかと

手に持っていたダウンを掴んだまま耳を傾けていると

聞こえてきたのは俺の想像した手術とは違い…





シュウの奴まだこのガキときれてなかったのかと

顔に手を当てながらカオルと座敷わらしのガキが

別れた理由はコレなのかと考えていると

出てきたのはアキラの名前で更に驚いた…





握っていたダウンをもう一度置き

隣から聞こえてくる話に耳を傾け

カオル達がなぜ別れたのかがだいたい分かり

苛立つタメ息を吐いてから席を立った…





( ・・・・・・ )





アキラは年上好きだし

それなりの女じゃないと

そうそう何度も会ったりはしない…




あっちのガキはシュウのペットだった筈だし

アキラが手を出して妊娠させたと知れば

ペットに対して恋愛感情は無くとも

シュウはアキラをどうかするだろう…





( まだそれならいい… )






アキラ「かぐや姫みたいな頭してんな?笑」






サトル「・・・チッ…どうりでよく笑うはずだな…」






妙にカオルのガキに甘いと思ったが…

そう言う事かよ…




アキラはシュウのペットを

気に入っていたわけでも何でもねぇ…

ただ、あのガキの代わりが欲しかっただけだ…






ジン「菓子クズだけで

   カオルが手出して無いってよく分かったな?」






アキラ「たまたま見かけたんだよ

   夜中の民家の影で大事そうにキスだけを

   延々としてるカオルを…笑」






カオルが大事にすればするほど

欲しくなっていったんだろう…






サトル「・・・最低な奴らだな… 」






あのガキ欲しさに

シュウのペットに手を出して

妊娠させたアキラも…




ガキを手放して

馬鹿みたいな真似をしているカオルも…






サトル「ダセェな…」






そう口にして掌をグッと握りしめながら

止めた足をまたドカドカと歩かせて

シュウの部屋に足を向かわせた






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