クリスマスイブ

〈エミ視点〉









サユ「キレー!見て見て小さいサンタだよ!」






「可愛いね?笑」






クリスマスイブに沙優ちゃんと

あのイルミネーションを見に来ていた





車で1時間ほどの山道にある民家で

私たちの様に見に来ている

家族連れや恋人達も何組かいて

本当に観光地みたいだなと

写真を撮って楽しんでいると

私の持っているスマホを

ジッと見つめている小さな男の子がいた





「パパやママとはぐれちゃったのかな?」





男の子と同じ目線になる様に

膝を曲げてから話しかけると

口の前で手をぐーにして首を傾げている





「ボクはなんしゃいですか?笑」





少し子供口調で問いかけてみると

私の顔の前に小さな指が2本突き出され

「2才でしゅか?」と笑って言うと

男の子は照れた様に笑いだし

「れん君2しゃい」と言ってきた





クマさんの帽子を被ったレン君は

私のスマホに手を伸ばして

「きょーゆーみる?」と聞いてきて

お家の人がスマホでネット動画を

見せているのかなと思いながら

周りを見渡すけど保護者らしき人は見当たらず

しゃがんだままレン君と話をしていると

近くの自販機でコーンスープとお汁粉を買った

沙優ちゃんが戻ってきた





サユ「迷子??」





沙優ちゃんはレン君に自分の分

温かい缶ジュースを持たせると

「クマさん可愛いね?」と話しかけだし

レン君のお父さんがレン君の名前を呼んで

探しに来るまでしゃがんで相手をしていた





お父さんに抱っこされたレン君は

コーンスープを胸に抱いて

「ばーばい」と手を振っていて

可愛いねと沙優ちゃんと言いながら

手を振りかえし

隣りで沙優ちゃんが「2歳か…」と

小さく呟く声が聞こえた…





( ・・・・・・ )





沙優ちゃんの手をギュッと握り

「お汁粉半分こしようか?」と言って

少し冷えたお汁粉を二人で飲みながら

イルミネーションを眺めてから車へと戻り

「何食べて帰ろうか?」と聞かれ…







カオル「クリスマスは美味しいお肉を食べに行って

   特別なデートもしたいね…」






「・・・・鶏肉が…食べたいかな?笑」






カオル先輩が言っていたお肉は

多分…お母さんが焼いてくれていた様な

牛のお肉のような気がした…






サユ「チキン??でも…骨つき肉は…」






「・・今年から…頑張ってみようかなって?笑」






何となく…

カオル先輩と付き合っていた頃の

自分のままでいたくなくて

今年のクリスマスはチキンを食べてみたくなった






サユ「・・・・チキンか…」





「普通だと…ケンタッキーとかなのかな?」





サユ「ケンタなら骨つきじゃないのもあるけど…」







沙優ちゃんは少し考えた顔をして

「チキンがいいの?」と問いかけてきたから






「・・・・〝普通〟の…子になりたくて…」







サユ「・・・・・・」







カオル「俺は…笑実ちゃんの〝普通〟を

   好きになったからね…」






カオル先輩が言っていた

私の普通は…普通じゃないから…




手にあるお汁粉を見つめて

今度からは沙優ちゃんみたいに

コーンスープにしようかなと思っていると

「私は…好きだけどな…」と聞こえ

沙優ちゃんに顔を向けると

空になったお汁粉の缶を見ながら






サユ「笑実ちゃんの普通が…

   私は大好きだけどな?笑」






そう言って車を走らせると

「笑実ちゃんの食べれる鶏肉食べようか?」

と去年の夏に二人で行った

あの焼き鳥屋さんに連れて行ってくれた





8時半を過ぎた焼き鳥屋さんの店内は

いつもよりも少なく

年配のサラリーマンや

派手なお姉さんとオジさんの…

よく分からないカップル風の人達ばかりで…





サユ「ふふ…なんかいいね?笑」





沙優ちゃんは店内を見て

楽しそうに笑うと

「女同士は私たちだけだね」と

メニュー表を広げてアルコールのページを

眺めながら「何飲む?」と問いかけてきた





( ・・・・一年か… )





前回来た時は初めての焼き鳥屋さんに

少し緊張しながら注文をしていて

キョロキョロとしながら

テーブルにあるお箸や柚子胡椒などの入った

小瓶を手に取っていたなと思い出してから

「杏酒にしようかな」と言って





テーブルにお互いのお酒が届き

グラスをコツンと小さく重ねて

「メリークリスマス」と乾杯をした





サユ「笑実ちゃんのお母さんって…どんな人?」





焼き鳥やサラダを食べながら

さっきのイルミネーションの写真を

二人で見ながら話していると

串に刺さったお肉をお箸を使って取り外しながら

小さな声で問いかけてきた




「お母さん??」





今までお兄ちゃんの話とかはした事があったけれど

こんな風に聞いてきたのは初めてで

どうしたんだろうと沙優ちゃんに

顔を向けると「うん…」と言って

私の言葉を待っていた…





( ・・・・・・ )

  




沙優ちゃんがレン君を見送りながら

小さく呟いた言葉を思いだし

「うちのお母さんは…ちょっと怖いかな?笑」

と答え小さい頃によく怒られていた話をした





サユ「笑実ちゃんが!?笑」





「イタズラばっかりしてたからね?笑

  でも…なんでか分からないんだけど

  私が落ち込んでたり悩んでたりすると

  私の好きなアップルパイを必ず焼いてて…

  なんで気付くんだろうって不思議だったな」

  




シーザーサラダを食べながら

つい先週食べたあのパイの味を思い出して

少しだけ口元を緩めていると

「お母さんって…お母さんなんだよね…」

と言うと両手で頬杖をついて顔を下げたまま

あの日の…病院での事を話だした…




沙優ちゃんは喘息があるため

全身麻酔が使えずに

手術後のベッドの上で痛む下腹部を押さえながら

ずっと「お母さん」と心の中で呼んでいたと…





サユ「あたしが言っちゃいけないんだろうけど…

  手術中も…ずっと…助けてって…

  お母さんの事考えてた…」





「・・・・・・」





沙優ちゃんが言いたい事は

なんとなく分かったし…

私も夏前に眠ったまま

カオル先輩の手をギュッと掴み

お母さんの夢を見ていた事を思い出して

先週会ったばかりのお母さんに

会いたくなった…





サユ「・・・・ごめんね…笑実ちゃん…」





顔を俯けたままそう言う沙優ちゃんに

予備で置かれたおしぼりを差し出して

「おかわり何にしようか?」と

メニュー表を差し出して

泣いて謝り続ける沙優ちゃんの背中に

そっと手を回した…





















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