〈コウ視点〉









軽く飲もうと入った駅前の居酒屋で

就活の話などをしていたら

ダラダラと酒と焼き鳥がすすみ

気がつけば23時前で

そろそろ帰るかと立ち上がって

店の外に出ると

アルコールで温まった体に冷たい空気が触れ

冬だなと空を見上げた





ヒカル「今年もあと2週間だな…」





シュウ「でたな…笑」






最近のヒカルの口癖は

「もうすぐ」と「あと」だった

何かあると「もうすぐ卒業だな」と言ったり

あと何ヶ月だなと柄にもなく

哀愁を漂わせている






ヒカル「はぁ…友達がいのない奴らだな

   4年間の思い出にちょっとは浸れよな」






ほとんどが合コンばっかりの思い出なのに

どんな風に浸るんだよと笑いながら

店の前にある数段の段差を降りると

ヒョウが「ココアが飲みたい」と言い出し

駅にある自販機へと歩いて行き

俺たちも食後の一服が吸いたく

ヒョウの後に続いて歩いた





自販機横にある灰皿の前で

シュウとカオルと3人でタバコに火をつけ

いつもよりも少しだけ綺麗に見える星空に

「ふぅー」とタバコの煙りを吐き出し

ヒカルの様にあと3ヶ月で卒業か…と

少し寂しい気分になった





入学して…直ぐくらいには

シュウの部屋で皆んなで集まる様になり

サークルで知り合ったアキラ達とも

連むようになって…





コウ「・・・・楽しかったな…笑」





俺が笑いながらそう言うと

シュウ達は急にどうしたと…

「酔ってんのか?」と揶揄ってきたが

素直な感想だった





決していい遊び方ではなかっただろうが

大学生というこの時間に…

シュウやカオル…

皆んなと過ごせたこの4年間に…

なんとも言えない気持ちを感じた…





もうすぐ別々の道にすすみ

大学生から社会人となって過ごす

来年…再来年には

今のような生活はありえない…





永遠の別れでもないが

社会人となって顔を合わせる時には

それぞれの世界があり

結婚をしてる奴だっているだろう…





シュウ「・・・・卒業旅行が…最後かもな…」





シュウが灰皿に灰を

トントンと落としながらそう呟き

カオルも「だろうね」と頷き

3人共黙って夜空を見上げていると

「どーしたのその髪」と

陽気なヒョウの声が響いて聞こえた





知ってるヤツでもいたのかと思い

顔を向けるとヒョウとヒカルが

駆け寄って行く先に

トランクを引いている

笑実ちゃんの姿があった





シュウ「・・・髪…」





シュウも目をパチパチとさせて

驚いた表情で笑実ちゃんを見ている





( ・・・ストレートにしたのか… )





笑実ちゃんの髪は

フワフワとしたロングヘアから

黒いストレートヘアに変わっていて…





ヒョウ「似合ってるよ!笑」




ヒカル「サラサラじゃん!」





日曜日のこの時間は

人通りも少なくヒョウ達の

酔って陽気な声が響いていて

「静かにしろ」とタバコの火を消して

笑実ちゃん達に近づいて行くと

笑実ちゃんは不自然な位にコッチに顔を向けず

目の前のヒョウやヒカルの

腕や手辺りに目線を泳がせている…





( ・・・・なんだ… )





カオルと別れてから…

俺たちと話す時に

多少の距離が出来たのは感じていたが…

今の笑実ちゃんは…まるで…





コウ「・・・・・・」





横目でカオルを見ると

ジッと笑実ちゃんを見ていて

カオルも何か感じているようだ…






ヒカル「どっか行ってたの?」






笑実ちゃんはトランクを引いて

駅から出て来たから

何処かに行って帰って来たんだろう…






「・・・友達の…ところに…」





ヒョウ「友達??前にカオルと4人で遊んだ子?」






ヒョウの言葉に目線を更に下げ

笑実ちゃんはトランクを自分に引き寄せると

「明日も早いので」と

顔をキョロキョロとさせると

ヒョウやヒカルの方に「失礼します」と

頭を下げてトランクを手に持って

タクシーの方へと走って行き…






( ・・・カオルを…見なかったな… )






別れたわけだから

カオルと笑実ちゃんには

俺たち以上の気まずさや

距離感ができて当たり前だが…




別れてから今日初めて会うわけでもないし

前回はお互い目を見て話していたよな…





( ・・・なんで急に距離ができたんだ… )





頭の中で、なんでと疑問に思っていると

俺の少し後ろに立っていたカオルが

笑実ちゃんの後を追い

タクシーにトランクをつむのを

手伝おうと手を伸ばしていたが…





「だっ…大丈夫……ですから…」





笑実ちゃんの声は

コッチにまで届くほど大きく…

トランクを持とうとしたカオルは

驚いて目を見開いている…






カオル「・・・・・・」






「・・・すみません…あの……

  中身も軽いので…大丈夫です…」






そう言うと両手でトランクを持ち上げて

タクシーへと乗り込み帰って行った…
















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