美容室

〈エミ視点〉








美「就活ですか?」





「あっ…はい…出来れば…

  せっ…清潔感?ある感じで…」





いつも行く美容室に行くと

担当してくれていた30代のお姉さんは

急なお休みになったようで

違う人が担当してくれるらしく…





美「清潔感ですか?笑」




「はっ…はい…」





美「んー…顔を上げて

  俺を見てもらっていいかな?」





(え?)と思いながら鏡に映る自分に目を止め

ゆっくりと私の後ろに立つ美容師のお兄さんに

目を向けると「うん、そのまま」と言われ

私の前髪やサイドの髪を触りながら

ずっと鏡越しにコッチを見ていて…





( なっ…なんか…恥ずかしい… )






まるで鏡越しに見つめ合ってるみたいで

思わずパッと目線を下へと下げ…

自分の顔も…耳までも…

熱を持っているのが分かった…





美「恥ずかしがり屋さんかな?笑」





クスクスと笑ってそう言うと

「清潔感か…」と髪を触りながら言い

長さはどうしたいと問いかけられた





「長さは…その…あんまり短いと…」





身長もないし髪も黒くしちゃうから

あんまり短くして…

中学生みたいにならないかなと

不安に思っていると

美容師のお兄さんはまたクスクスと笑い出した






美「えみ…ちゃん?でいいかな?」





「えっ??……はい…」





美「ふふ… 笑

  あまり短くしないでストレートにしてみる?」






くせっ毛の軽いウェーブのかかった髪を

持ち上げる様に触り「似合う思うよ?」と言われ

鏡の中の自分を見つめ似合うかなと少し迷った…





高校生の時に一度だけ詩織ちゃんの持っていた

ストレートアイロンで髪を真っ直ぐにしてもらい

家に帰ったらお兄ちゃんからコケシみたいだと

バカにされた苦い思い出が横切り…





( あれ以来…した事ないしな… )






美「・・・今日は…俺のお任せじゃダメかな?」





「お任せ…ですか?」





美「そう…長さは変えないし

  カラーは黒にするけど…

  仕上がりは俺に任せてもらえないかな?」





就活もあるしあんまり派手だったり

今時なオシャレな髪型じゃ困るなと

少し悩んでいると…

「気に入らなかったらやり直すよ」と言われ

長さもあるなら手直しも出来るかなと思い

「お願いします」と頭を下げた




お兄さんは私の緊張をほぐしてくれようと

ずっと話しかけてくれているけど…





( あんまり話したくはなかった… )





顔は…違うけど…

このお兄さんの話し方は…

何となくカオル先輩に似ていて…

髪を触られながら

「笑実ちゃん」と呼ばれると

数ヶ月前の記憶ばかりが蘇ってくるから…





カラーとストレートパーマとカットを

全てやり終える時にはすっかり

お尻が痛くなってしまっていて

空の色もオレンジ色を通り過ぎて

窓ガラスの向こうには街の街灯が光ってみえた





美「ハイッ!お疲れ様でした」





ケープを外されてだいぶ印象の変わった自分に

目をパチパチとさせていると

また後ろからクスクスと笑う声が聞こえ

鏡越しにチラッと睨むと

「可愛いから全然怖くない」と笑っている…





5時間以上一緒に話していて

お兄さんの話し方も少しずつくだけていき

今みたいに敬語がなくなる時が何度かあった





美「うん!やっぱり前髪似合うね」





前髪も幼さが倍増するし…

コケシのトラウマ以来していなかったけれど

お兄さんは「絶対に厚めの前髪だよ」と言って

私の目の上には真っ直ぐと切りそろえられた

前髪が少しだけアイロンでクルンとされていて…





( ・・・コケシじゃない…それに… )





自分の髪に指を通すとサラサラと

髪が落ちていき初めての指通りに

自分でも驚いた…





( ストレートパーマってこうなるんだ… )





何度も自分の髪を触っていると

「気に入ってもらえたみたいだね?」

とやっぱりクスクスと笑っていて

またカオル先輩を思い出した…





注意店とケアの仕方を教えてもらい

お礼を伝えて帰ろうとすると

「就活頑張ってね」と後ろから言われ

普通はありがとうございましたじゃないのかなと

思いながら笑って頭を下げた





帰りの電車の中で

暗くなった窓ガラスに反射して映っている

自分に「笑実ちゃん…」と小さく呟いて

私の髪をよく耳にかけてくれていた

優しい笑顔を思い出しながら目を閉じた…























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