就活

〈コウ視点〉









ヒョウ「あっチワワ!」





ヒョウの言葉に顔を向けると

しゃがんで紙か何かを

拾っている笑実ちゃんの姿があり




風に舞ってプリントが

少し先にまで飛んできていて

ヒョウが小走りでそのプリントに駆け寄り

拾ったプリントを立ったまま眺めているから

なんだと思って近づいて行くと

飛んできたプリントには企業説明が書かれた

求人情報だった…





( ・・・・・ )





チラッと後ろで一緒にプリントを覗いている

カオルに目をやりながら

もう大丈夫みたいだなと思い

ヒョウ達と飛び散ったプリントを

集めている笑実ちゃんに近づいた





ヒョウ「足で押さえた方が早いよ」





11月半ばを過ぎて

空気も風も冷たくなりだし

今日は特に風も強く

一枚一枚を丁寧に拾い集めてたら

いつまで経っても終わらないだろう…




ヒョウの言う通り

足で飛ばない様に押さえてから

拾い上げたほうが確実だし早いが…





「えっ………あッ!?ヒョウ先輩!」





笑実ちゃんは振り返って俺たちを見ると

一瞬驚いた表情を見せたけど

直ぐにヒョウの足の下にあるプリントを見て

声を上げて駆け寄ってきた




笑実ちゃんはヒョウの下のプリントを見て

「ぁ…」と困った顔をしていて

ただの求人情報じゃないのかと覗き込むと…





コウ「・・・推薦…状…」




ヒカル「・・・足跡クッキリ…だね…」





てっきり求人情報だと思い

良かれと思ってふんだプリントが

よりにもよって推薦状だとは…





ヒョウ「わざとじゃ…ないよ?」





「いえ…あの…コレは…」





カオル「就職係に行って

  再発行してもらったらいいよ」






カオルの言葉に皆んな振り返ると

カオルは近くに落ちていたプリントを拾って

笑実ちゃんに差し出している






カオル「通行人に踏まれちゃいましたって

    持って行ってみたらいいよ」





「・・・・出来るんですか?」





推薦状関係はそうそう再発行なんて

しないはずだと思いカオルの顔を見た






カオル「学校紹介枠でしょ?

   逆にこんな足跡のついた推薦状を持って

   面接に行かせる方が問題だからね

   嫌味いいながらでも出すよ」






笑実ちゃんは「そうですか…」と

安心した様に笑ってカオルから

プリントを受け取っていて…





( ・・・・普通だ… )





カオルの誕生日に二人は

お互いの口でちゃんと別れを告げた…





もう元には戻れないだろうと

俺やシュウは思っていたから

そこまで驚かなかったし…

逆にちゃんと話せてよかったなと思った…





ヒョウも始めは飲み会に参加するカオルに

ぶつぶつと文句を言っていたが

最近は前の様に普通にふざけ合っていて

少しずつ…元に戻っていっている…





ヒョウ「チワワそこ受けるの?」





ヒョウの問いかけに笑実ちゃんが

答えようとした瞬間「笑実ちゃん」と

プリントを手に持った沙優ちゃんが現れ

俺たちを見てさっきの笑実ちゃんみたいに

驚いた表情で固まっている…





( まぁ…そうなるよな… )


 



シュウとは色々あったし…

カオルに対してはハッキリ言って

いい印象はないだろうからな…




笑実ちゃんは「ありがとうございました」と

頭を下げてから沙優ちゃんの方へと

走って行き手にしていたプリントを

沙優ちゃんに渡していたから

きっとあれは沙優ちゃんの紹介状だったんだろう…





ヒョウ「チワワのじゃなかったんだね」





明らかにホッとしているヒョウに

沙優ちゃんにも謝るべきだろうがと呆れたが

全部が沙優ちゃんの求人情報なら…

笑実ちゃんは就活をしていないのか

もう決まっているのかなと思った





ヒカル「実家のパン屋さん継ぐのかな?」





コウ「あぁ!…でも料理学校とかでなくていいのか?」





以前ならアッサリ聞ける話も

今じゃそうじゃないだなと

寂しく感じながら学校へと戻って行く

二人の後ろ姿を見上げていた









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