〈コウ視点〉










ヒカル「はぁ…就活かぁ…」





就職係から何件かピックアップされた

求人情報を眺めながら歩いていると

ヒカルが空を見上げながら

「学生生活もあと少しだな」と呟いた…






シュウ「そうだな…あと半年もないのか?」





ヒカル「卒業旅行は遠くに行きたいな?笑

   海外とかで…騒いだら楽しいだろうし」






浮かれるヒカルに「海外?」と問いかけると

「そう、また夏みたいにそれぞれ…」と

話すのを途中で止めたヒカルは

シマッタと言う顔でカオルの方に目を向けた…





カオルは表情を変える事なく

前を向いて歩いているが…





( ・・まだ笑実ちゃんの話はタブーだな… )





夏のキャンプには…

笑実ちゃんも来ていて

カオルにとってはふれたくない話題だろう…






コウ「卒業旅行もいいが俺たちは就活からだな」





シュウ「サクッと決めろよ?笑」





ヒカル「シュウとカオルはいいよなぁ…

   なぁ、どっちか俺らの事雇ってくれよ?」





シュウ「カオルの所にお願いしてみろよヒカル先生?笑」





カオル「俺も働かないから!笑」





最近じゃカオルの笑った顔を見ると

ホッとする自分がいる

前は…そんな事気にした事もなかったが…




笑実ちゃんが荷物を持って出た日…

笑実ちゃんの物が無くなったあの部屋を

カオルと一緒に見ていたから…





( ・・・・・・ )






学校近くにあるスーパーへと立ち寄り

酒やツマミになりそうな物を眺めていると

カオルが足を止めてある物を見ている事に気づいた





コウ「・・・・カオ…」





名前を呼ぼうとした瞬間

「今日の夕飯なにー?」とヒョウの声が聞こえ

声の聞こえた棚の方へと早足で足を進めると

先に帰った筈のヒョウが

ヒカルの横に立って話していて…

その横には誰もいなかった…






( ・・・・だよ…な… )





ヒョウはコッチに気付いて

驚いた顔をした後に俺の後ろにいるであろう

カオルの方をしばらく見ると

「はぁ…」とタメ息を吐いて

「会いに行けば?」と言った…





カオルもきっと…

ヒョウの言葉を聞いて笑実ちゃんが

いるかと思ったんだろう…





別れて…ホントにどうでもいい相手だったら

探したりはしないだろうし…

笑実ちゃんが梅酒を作りたいけどと悩んでいた

ホワイトリカーを眺めてたりはしないし…





あの日…笑実ちゃんと同じ学科の子を抱いた事を

どういうつもりだとカオルに問いかけていると

カオルは不機嫌顔で何も答えずにスタスタと

自分の部屋へと入っていき…

靴をしまおうと靴箱を開けて固まった…




不思議に思い俺も棚の中を覗くと

下の方の棚には何も入ってなく

直ぐに笑実ちゃんの靴がない事に気づいた





カオルは早足で部屋に入るとリビングにある

IKEYAで買ってきた棚の前で立ち止まって

また直ぐに寝室へと向かっていき…





俺も部屋に入り棚を眺めると

試験勉強の時にはあった筈の

笑実ちゃんの教科書や私物が全て無くなっていて

寝室に向かったカオルは音も立てないまま

部屋から出てこなかった…





( 多分…クローゼットも空だったんだろう… )





俺は部屋を見渡しながらキッチンへと歩いていき

笑実ちゃんが色々と書き込んであった

カレンダーを手に取って眺めた





コウ「・・・お月見って…笑」





笑実ちゃんの予定では…

数日後にみたらし団子ときな粉団子を作る

予定だったらしくヒョウやヒカルが

喜んだだろうなと思いながら

次のページをめくると

10月のカオルの誕生日が

カラーペンで縁取られていて

梅酒と小さく書き込まれていた…





コウ「・・・・飲み頃…だったろうな… 」





そう小さく呟いてから

カオルのいる寝室に目を向けて

カレンダーをカウンターにそっと置き

部屋から出て行った…





エレベーターに乗り一階のボタンを押して

「はぁ…」とタメ息を吐きながら

壁にもたれかかりこの数ヶ月の

笑実ちゃんのいる記憶を辿った…





カオルに連れられシュウの部屋に顔を出し

寮母みたいに料理をさせられ片付けまでさせられ…





コウ「最低な先輩だな…笑」





いつからかいるのが当たり前になって

笑実ちゃん用の豆乳ジュースや

ノンアルのカクテルが

シュウの部屋の冷蔵庫には必ず置かれていた…





学校でも色々あったのに…

コッチが気付かない位にいつも笑ってて…





コウ「・・・ふっ…おしゃれじゃない料理も…」





試験中にオニギリ作っておきましたと

手渡され試験の合間に開けてみると

茶色オニギリに皆んな

「なんだコレ!?」と固まり

一口食べたヒョウが「味噌?」と言って

パクパクと食べ出した





シュウ「女の子の作るオニギリってもっとこう

   ピンクとか…黄色とか…黄緑とか…

   可愛い感じだった気がするけど…

   ネギ味噌のオニギリってのがまたな…笑」



 


花火や…キャンプ…

カオルの側にいつもいて…

俺たちにとっても…少し特別な存在だった…





エレベーターから降りて歩いて帰りながら

「さよなら…かな…」と

陽が落ち始めた空を見上げて呟いた…






カオルがまだ笑実ちゃんを

忘れきれていない事は俺たち皆んな知っている…




そしてカオルが笑実ちゃんと別れてからの行動は…

もっと沢山の皆んなが知っている…





( 笑実ちゃんだって… )





会いに行けないから…

こうやって毎日スーパーに

探しに来ているんじゃないのかと

カオルを見つめた…




ヒョウの言う通り…

笑実ちゃんに会いに行ったらいい…




もし笑実ちゃんが

カオルの手を取らなかったとしても

ちゃんと目を見てお互いに

サヨナラと告げるべきだと思った…




あの8ヶ月間は…

電話で終わらせられる様な

簡単な8ヶ月じゃないはずだから…





コウ「・・・・会いにいけ…」





カオル「・・・・・・」





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