〈サユ視点〉










目を開けると目の前に笑実ちゃんの寝顔があり

泊まったんだと思いながら

昨日の事を思い返していた…





( ・・・笑実ちゃんって… )






笑実ちゃんの寝顔をジッと見つめ

普段の起きて話している時の

可愛い印象とも違い…

瞼を閉じて眠っている笑実ちゃは

全然幼くなく…むしろ…





サユ「・・・・キレイ…」





そう呟くと笑実ちゃんの瞼が小さく動き

「んっ…」とゆっくりと目を開けた

笑実ちゃんは私を見て

「おはよう」と笑いかけてきて





カオル先輩はきっと

こんな気持ちなんだろうなと思いながら

「おはよう」と返事を返して

ゆっくりと体を起こした





今じゃ…笑実ちゃんが羨ましいんじゃなくて

カオル先輩の方が羨ましく感じる…





先輩は笑実ちゃんの可愛い内面も好きんだろうけど

きっと甘えたくなる様な笑実ちゃんの

お母さんの様な雰囲気も

好きなんだろうなと思ったから…





病院に行く為に着替えていると

私の選んだ洋服を見て笑実ちゃんが笑いだして

「逆に目立っちゃうよ?」と

いつも着ている服を差し出してきた





笑実ちゃんが連れて行ってくれた

病院は離れた場所にある大きな産婦人科で

「お見舞いだと思うよ」と私の手を引いて

堂々と中に入って行くと受付の人に

検査薬の陽性反応の事を説明してくれた





周りから見られている気がして

問診票を書く自分の手が震えているのが分かり

顔を上げれないでいると

隣りに座っている笑実ちゃんが

「見て」と笑いながら右側を指さした





笑実ちゃんが指した先には

子供が二人キッズスペースで遊んでいて

4〜5歳位の男の子が少し歳下の妹から

おもちゃを取り上げられて泣いている





「妹の方が強いみたいだね?笑」





お兄ちゃんは「かえして」とたどたどしい口調で

妹に言っているけど女の子は

「コレみーちゃんの」と言っておもちゃを

胸に抱きしめて「ゆうくんには…ハイ」と言って

破れた絵本の切れ端を渡していて

その兄妹を見ていたら私の口の端も上がっていて

手の震えもいつの間にか止まっていた





周りに目を向けると

誰も私のことなんて見ていなくて

皆んな自分のお腹を撫でたり

雑誌を読んでいたり…

私の様に顔を俯かせている人もいる…





笑実ちゃんさっきの子供達を

「ふふ…」と笑って眺めていて

その笑顔に私も小さく笑ってから

問診票を書き始めた






生理は7月頭にきたのが最後で…

まだ初期中絶の段階だと説明を受け

「どうしますか?」という問いかけに

首を縦に振って「お願いします…」と伝えた





( ・・・ごめんね… )






モニターに映し出された

自分のお腹の中に小さな…

本当に小さな命があるんだと実感して

お腹に手を当てながら手術のお願いをした…





お会計の時に手術代の説明をうけ

今日の検査費用も高く

手術代も15万円ほどするから

お母さんに連絡しなくちゃいけないかなと

思っていると隣りから一万円が出され

「コレでお願いします」とお会計をしだし

「いいよ」と自分の財布から

お金を出して返そうとすると

「私のお金じゃないから」と

眉を下げる笑実ちゃんに「え?」と言うと

私の手を引いて外に出ていった






「来週の手術費も心配しなくていいよ?」





サユ「いや…だって…」





「コレ…ある意味アキラ先輩がくれたお金だから…」






最初は意味が分からず「え?」と言ったが

笑実ちゃんが困った様な顔で

「去年の…12月の…」と言って

なんのお金なのかを理解した…






アキラ「アンタが襲おうとしていた方には誠意も込めて振り込めよ?」





店「・・・・いくらだ」





アキラ「それはアンタの気持ちだろ…

  父親ほど年の離れたオッさんに襲われかけて

  あのトイレで怯えて泣いてた姿を考えたらわかんだろ」






アキラ「給料と一緒に慰謝料入っただろ?

  アレ俺のおかげなんだから飯くらい奢れ」

 





笑実ちゃんが何故アキラ先輩が

くれたお金かと言ったのかも分かり

「使わなかったの?」と問いかけると

笑実ちゃんはどう使っていいのか分からなくてと

また眉を下げて笑っている…





( ・・・普通…普通の子なら… )





何が普通かは分からないけど

私達と同じクラスの子達なら…

使ってしまう気がした…




ツカサ先輩の事を…

あんな風に紙に書いて回せる様な…

あの子達なら…





( そして…きっと私も… )





「だから気にしないで?」





笑実ちゃんの生まれ育った小さな島は

子供も少なく同級生も数人だけで

島中皆んなが知り合いみたいで

悪い事をすると直ぐにお母さん達に知られて

怒られる様な…そんな所だったと言っていた…







サユ「笑実ちゃんの地元…いつか行ってみたいな…笑」





「遊びにおいでよ!

 私も沙優ちゃんの地元行ってみたい」







見てみたいと思った…

笑実ちゃんが生まれ育った…

笑実ちゃんの〝普通〟が沢山詰まった

その島を…見てみたいと…







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